屍神、侵攻。

 これまで、カンパニーにはどれだけ痛めつけられてきたか。

 ゾン子はいままでの凄惨な光景を脳裏に思い浮かべていた。許すまじ、カンパニー。しかし、もう受け手に回るのはおしまいだ。そもそも、守りに入るなど柄ではない。これからアッシュワールドに潜入して、カンパニーに一泡ふかせてやるのだ。ざまあ見ろ。

 黒い布で目隠しされたゾン子は、恍惚とヨダレを垂らす。


「はい、もう少し足を開いて下さい」

「うん♪」


 イケメンボイスが脳を蕩けさせる。ただでさえ脳味噌腐敗がさらにバカになる。真っ正面からアッシュワールドに突入したゾン子は、入り口の審査を経て別室へと案内された。イケメンお兄さんたちが出迎えてくれて、あれよこれよと今の状況。

 目隠しされた死体少女があられもない格好でストロボの集中砲火に晒されている。

 文字通り、晒されている。

 キモチヨクなるお薬を打たれたゾン子には正常な判断など出来ていない。


「ばうんてーはんたー、なれるぅ?」

「はい、これが認可証ですよ。はい、両手を少し胸を隠すように広げて下さい」

「はぁい」


 こうして、ゾン子はバウンティーハンターの資格を手にした。ちなみに、目を覚ました彼女は、11番コロニーの刑務所にぶち込まれていた。


「………………………………あれ? おい、オグン。おい、来てるんだろ! あれ……? レグ兄がバックアップに…………あれ、『けーたいでんわー』は? あれ、ちょっと待て……おいオグン! 早くお姉ちゃんを助けやがれ! お姉様の命令だぞゴラァ! え、おい……嘘だろ…………?

 ひょっとして……捨てゴマにされた――――?」







 メインで動いていた屍神アイダが早速連絡不通になった。思っていた以上に厄介な組織らしい。屍神オグン――フェレイは首の骨をコキリと鳴らした。いいざまだ、と内心ほくそ笑む。


「さて、これで僕にバウンティーハンターとしての実力があることに同意しますね?」


 試験官が頷く。一般公募のハンター試験。赤い少年はそつなくそこに潜り込んでいた。メインの姉貴分が動けなくなった今、サポート要因である自分がしっかりと動かなければならない。


「映えあるカンパニーのため、報酬分いっぱい働かせて頂きます」


 律儀に頭を下げてにこりと笑う。あどけない顔立ち。その出で立ちはまるで少年兵のようだった。しかし、カンパニーではそれも珍しくない。試験官は何一つ疑問を抱かずにフェレイを案内する。

 案内された場所で、フェレイの顔が引きつった。


(はは……これほどまでとは…………)


 箱だった。

 無機質なコンテナに入るよう指示される。本当に、それが当たり前のように。機密保持のためなのは理解出来るが、こんな生殺与奪の主導権を大人しく渡せるものか。だが、フェレイは大人しくコンテナに入る。少年一人にはやたら広い。


(いざとなれば、内側から焼き払うか)


 そうでなくとも、不死身である。

 姉貴分のように無駄死にするでもなく、兄貴分のように死を厭うでもない。彼は不死身を一つの属性として淡々と戦略に組み込む。それが、戦いというもの。軍神と称される神格を有する死体少年は、笑って閉じ込められた。

 フェレイは、どこかのコロニーに送られるだろう。







 傭兵エシュの名前は、カンパニーの表と裏を合わせて有名だった。その実力と社長戦争での戦歴を評価され、実は既にバウンティーハンターの資格を手にしていた。アッシュワールドの外からサポートすると宣言していた彼は、こともあろうに真っ先にアッシュワールド入りしていた。

 妹分と弟分を影からサポートするため。

 彼は12番コロニー北西の大山にいた。


「おう兄ちゃん、その骨取れや」

「ああん? どこ中出身なんだあ?」

「良い面構えをしているぜよ」

(……どうしてこうなった)


 現在、彼は数十体の鬼に囲まれていた。やたらガラの悪いタイプの鬼たちだ。被った骨を目深に構え、天高くを見上げる。


(やはり、来るべきではなかった。だが、カンパニーからは逃れられない。まるで見えない神の手に導かれるように来てしまったのだ……アイダも似たような心境だったのだろうな)


 多分違う。彼女は完全に自業自得である。


(どちらにせよ――――避けられぬ因果か)


 運命の交叉路を歩め。

 運命神は深く息を吐くと腕を真っ直ぐに伸ばす。このコロニーにいたのは武器の調達のため。準備は万端過ぎるほど。

 戦士がその力を振るう。

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