vsキラワレ=ヤーク

※戦闘方法の参考までに。本体の戦いはvs100の『vs異世界螻蛄』をどうぞ。






 二日目、のいつか。

 『血と毒の沼』ジェノサイド・ライン。 


「ブリザードブレイズ!」


 氷と炎が合わさり最強に見える。そんな魔法が毒々しい色合いの大鎧に激突した。冷やし、熱する金属疲労。しかし、二メートル半もある巨体はびくともしない。

 強化外骨格『ちゅう』。

 エメラルドグリーンに光るジェルがグルリと蠢いた。魔法エネルギーを食い荒らす獰猛な改造スライム。強靭な大鎧が物理を受け流し、スライムジェルが魔法を食い尽くす。頑強鉄壁、まさに無敵の外骨格。


(ドイツモ、コイツモ、コノテイド…………)


 光の三原色を模した、色合いのうるさいローブ。それを体当たりで粉砕する。魔法障壁が砕け散り、血飛沫が舞った。

 背から生える四本の深緑のホースがうようよと蠢く。その内の二本が瀕死のヤラレの上を泳ぎ、残りの二本が地中に潜った。


――――つー、つつ、つー、つー、つつ、つー


 オペレーターの人工知能『オケラッチョ』からモールス信号でデータが送信された。土壌の構成物質、地中の微生物、含有する栄養素のデータが羅列される。


――――ち、ちー、ちち、ちー、ちー、ちー、ち


 舌を鳴らし、追加のデータを求めた。返信。ホースの一本が空中に這い出る。


(フショクエキ、オヨビペレット。チョウゴウ、カンリョウ)


 青緑の液体がヤラレの肉体に降り注ぐ。煙を上げ、その肉体、装備、ベルは完全に蒸気に溶けて消えていった。同時に、余った栄養素で補給を行う。悪食の彼女はその分消費カロリーも凄まじく、こまめに栄養補給を行わなければすぐに餓死してしまう。


――――つー、つー、つ


 大前提、彼女は死体である。屍神にその魂を堕とされた、屍兵。

 その事実は巧妙にカンパニーから隠蔽され、役目を果たした彼女は後は静かに朽ちるだけである。それでも、胸の想いは決して嘘にはならない。


(パパ、タスケル。ワタシ、シヌ)


 敵をより多く排除して、自分も終わる。そんな悲壮な決意。カンパニーから与えられた名前、ティアナ。彼女は送られたデータを確認する。


――――ちち、ちー

――――つつー!


 再提出を要求する。が、もう十回目になる徒労にオペレーターは抗議を上げた。事実、データには一切の誤りは含まれない。内容は、社長戦争の代理一覧。

 ♦陣営の、登録名『ゾン子』。


(ナニヤッテンダ、アノバカ…………)


 信じられないからこうして見に来た。強化外骨格に装備されているカンパニー製の超高性能双眼鏡。熱源関知や大気中の成分表示もできるすごいやつ。

 そのレンズは、スリラーダンスを踊っているゾンビの群れが映っていた。その中に、見覚えのある青い奴が。







 某所。


「なにやってんだ、あの馬鹿…………」


 屍神レグパは頭を抱えていた。屍兵との共感覚。それが映したアホ過ぎる妹分の姿をどうするべきか。


「最近見ないと思ったら、またか…………」


 反省という言葉を知らない死体である。もう一度ぶん殴るか。それだけじゃ足りないのか。ぐるぐると頭の中に色んな言葉が巡っていく。

 もう、見捨てるか。

 最後に残ったのは、そんな短文。役目を忘れて好き放題やっている屍神は、戦士ですらない。そんな死体はさっさとどことなりで朽ちてしまえばいい。そう考えながらも、突き刺したままの半月刀シャムニールに手を伸ばすにはやはりというか。

 戦士でなくとも、家族ではある。


「死体ぐらいは、拾ってやる」


 らしくないジョークを口に、男は立ち上がった。

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