vsヤラレ=ヤーク

※戦闘方法の参考までに






 二日目、のいつか。

 『血と毒の沼』ジェノサイド・ライン。 


「悪夢だ……っ」


 ヤラレ=ヤークはゾンビの群れに波動弾を打ち込み続けた。デュエルの相手の名前は『ゾン子』。あのゾンビのどれがそうなのか分からないが、きっと一番目立っている奴だろう。

 正解は、隅っこで踊っている青いのである。


「Yheeeeeeaaah!!!!」


 ノリノリで華麗なステップ。異次元ステップで全ての攻撃を回避しながら踊るデッドマンズウォーキング。

 マイク=ジャンクソン。

 ゾン子を知らぬ者が知れば、彼こそが代理だと誰もが思うだろう。疑う者はいない。それくらい圧倒的なカリスマ。しかし、彼にはいかなる攻撃もヒットしない。

 魂のまま踊り続ける。そんな男だ。


「いやあ、いい汗かいた! そろそろ戦うかねえ?」


 二時間に渡る攻撃ですっかり体力気力を使い果たして倒れるヤラレを、青いワンピースのゾンビが見下ろした。


「はぁい、ゾン子ちゃんでぇす♪」

「………………は?」


 この二時間は、一体なんだったのか。嘲笑を吐き出す死体少女に、毒矢をお見舞いする。


「う、ぐっ……あが…………っ」


 もがき、苦しみ、血を吐いて呆気なく倒れた。後は額にガムテープで貼り付けられているベルを、壊すだけ。

 手を伸ばす。


「はっ…………油断したな。逆転満塁ホームランってやつだ」

「ばあ」


 毒殺されたはずの死体少女が舌を出した。不死身の死体。そして、水のタリスマン。

 自ら吐き出した赤黒い血が、剣山のようにヤラレを串刺しにする。ベルもその時に破壊されたようだ。


「らっくしょう~~!」


 ケラケラ笑う死体少女は、ピタリと動きを止めた。引きつった笑みで、百八十度反転する。



「うっは、ゾンビだってさ! 本物のゾンビだ!」







(ヤバい、ヤバいヤバいヤバいヤバい――――なんだコイツ)

「おお、スリラー踊ってる! なんだよあれファンタジーモチーフだったのか」


 ヤバい。後ろに浮かぶ六つの巨大な眼球とか、どす黒い魔法服とか、滲み出るように現出する三眼の球体とか。そんなことではない。

 とにかく、ヤバい。死体の勘が、喚き叫んでいる。輪廻の魔女。魂を孕むどころではなく、巡らせる怪物。アレに喰われれば、屍神といえどひとたまりもない。


(必殺――――死んだふり)


 ぱたり、とゾン子が倒れた。後頭部にちょうど尖った石が当たって悶絶しかける。

 だが、耐えた。水のタリスマンで涙を逆流させ、押し留める。冷や汗が逆流して、血管が爆発しかけた。


「ありゃ、死んじゃったぜ? 俺様残念」


 突如として現れた高月あやか。はしゃぎまくっている彼女は、死体の死んだふりに気づかなかった。


「で、こっちのお前は?」


 目つきの悪い金髪モヒカン、ヤラレ=ヤーク。血溜まりに沈み、まだ辛うじて息のある男は、少女の顔を見上げた。

 彼女は、楽しそうに踊っているゾンビたちに波動弾を連打している姿を見ていた。


「悪い奴だな。来世で悔い改めろ」


 黒い手が、黒い沼に引きずり込む。喚き、足掻く。が、どっぷりと飲み込んで雫が舞った。


「俺様の正義、大活躍!!」


 スリラーを踊っているゾンビたちに手を振って、熱烈な投げキッス。デッドマンズウォーキングたちが頬を赤らめた。

 輪廻の魔女は、上機嫌で帰っていく。







「こわかったよぅ、フーちゃん!」


 イケメンペットに泣きつくゾン子。恐ろしいものを見てしまった。今や縁を切って久しい『カンパニー』での窮地の数々を思い出す。


「でも、ここは『コンパニー』! あんな危険とはおさらばだと思ったのに……!」


 イケメンの胸板に顔を押し付けながら、にやける。青色のリードをひくひく引っ張って、顔をスリ寄せさせた。


「やんっ! ありがと、フーちゃん。元気出た!」


 目が最早ハートマークである。舞い上がりまくっている死体少女は、再びスリラーダンスへと。


「おっと、いけね」


 汗で粘着力の落ちたガムテープを、額にぐぐっと押し付ける。絶対に無くすなと言われていた。うっかり落とさないように気をつけなければ。


「いえーいっ! ぱーりないっ!!」


 踊るゾン子。

 実に、楽しそうだった。

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