7 そして対決。いい加減にしろ馬鹿おっぱい!①

☆☆☆


 放課後。

 あたしと大生、キャンディの三人は、巴絵の部活の様子を見に体育館へ来ていた。


「チョー満員ねー」

「まあね」


 体育館は、いつも通り巴絵を見物に来たギャラリーで一杯だ。巴絵がスパイクを決めるたびに、観客の間から歓声が上がっている。


「ワオ! さすが巴絵、すごいわ」

「だろ?」

「うんうん、すごい迫力。ボールよりでかいんじゃないの? あれ。

 あんなにバインバインに揺れてよく千切れないわよねー。てゆうか、あれで敵の目を惑わせてるの?」

「おいこら変態、何の話をしてるんだ?」

「おっぱい」


 真顔で答えるな!


「それにしてもさあ、相手がちょっと下手すぎない? ろくにブロックもしないし、レシーバーなんか完全に逃げちゃってるじゃない」

「キャンディ、ともちゃんにニックネームが付いてるのを知ってる?」


 と、横から大生。


「ニックネーム?」

「『ザ、サイクロン』て言うんだ。『その吹き荒れる力の前には何人も立ち向かうこと能わず、ただ過ぎ去るを待つのみ』ってね」

「ナニそれ?」

「ともちゃんのスパイクはさ、ブロックもレシーブも無理なんだよ。なにしろ、人間ごとぶっ飛ばしちゃうんだから。

 去年入部したばっかりの頃にさ、他の部員を片っ端からぶっ飛ばしちゃって、1ヶ月で部員の半分以上、男子も含めてだよ、みんな病院送りにしちゃったんだ。

 あれ以来、誰もまともに受けようとしないのさ」

「うんうん、あれは酷かったな」


 あたしもうなずいた。


「……コワすぎるわ」



☆☆☆


 結局、あたし達三人は巴絵の練習を最後まで見物し、部活が終わるのを待って皆で一緒に帰ることになった。


「トモエ、すごかったねー。迫力満点だったよ」

「えへへ、ありがとう」


 キャンディが何をすごいと言っているのか判ってない巴絵は、上機嫌でお礼を言っている。

 二人は腕を絡め合い、ぴったりと寄り添って歩いていた。というより、キャンディが一方的に寄り添っているのだけれど、巴絵の方も今日は珍しく嫌がらずに、そのままにさせている。

 部活の疲れで、振りほどくのも面倒くさいのか。それともただの気まぐれなのか。

 その後を、あたしと大生が並んで歩いていた。


「それにしても、この二人がこうして並んでいると、すげえインパクトだな」

「だねー。髪の色を除けば、身長もスタイルも瓜二つだもんな。後ろから見ると、双子の姉妹みたいだ」


 すれ違う人が、みんな見てるし。


「ねえ、トモエぇ」

「なあに?」

「今度デートしない?」

「はあ?」

「そんな顔することないじゃない。ねっ、デートしよ?」

「なんであんたと、そんなこと」

「だってさあ、ワタシもうすぐ留学終わっちゃうじゃない? 帰る前に、トモエと思い出作りしたいなって」


 なんか、モジモジしてるキャンディって、ちょっと可愛い。

 なことを思いながら、あたしと大生は完全に空気になっていた。何なのあいつら、熱々カップルみたい。

 隣をチラリと見ると、大生と目が合った。どうやら大生も、この妙な空気に言葉が出ないようだ。


「デートって、一体なにすんのよ?」

「そりゃあ二人で遊んだり、映画見たり、ご飯食べたり。あと、それから……ウフ」

「そのウフ、が怖いわ。やっぱイヤ」

「ええー、そんなー。お願いン」

「うーん」


「煮え切らないなあ。あーあ、やっぱトモエは浮気できないタイプなのね」

「は?」

「仕方ないわ。ワタシもナデシコと三角関係なんてヤだし」

「ちょっとキャンディ、それどういう意味よ」

「どういう意味って、そういう意味よ。だって、トモエはナデシコのことが好きなんでしょ?」

「馬鹿なこと言わないでよ。そんな訳ないでしょ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る