第8話「最低なクズ野郎は俺がぶっ潰す!」

「何故そんな事をしなければならない?」


カリュはほんの僅かだがピクリと表情を動かせる。


俺は其れを見逃す筈は無い。


「疑いは無い方がいい。念のためだよ。なぁ、ルナちゃん。どうする?」


ルナに俺は指示を仰いだ。


ルナも俺の考えている事が伝わった様だ。


だがルナは悲しそうな表情を浮かべ、決断し兼ねていた。


その様子にカリュはフッと様子ぶった表情に戻った。


「ルナ様。此れでは私に何か如何わしい物があるみたいじゃないですか。私は潔白です。どうかこの者から槍を下げさせては貰えないですか?」


「そうだ!ルナ様を助けてくれたのか知らんが、うちの守り人に何て無礼な奴だ」


「そうよ!カリュ様に疑いなんてこれっぽっちもないんだから!」


他の村人がカリュを庇う。


ムカつく話だが女から俺に送られる罵声は男よりキツイ。


カリュは嘸かし憧れなんだろう。


自慢じゃないが今迄の人生で女性にキャーキャー言われた記憶はない。


寧ろピンク色の声援を受けている男は爆破してしまえというタイプだ。


「ルナ様。」


「カリュ‥。」


ルナと此奴が今までどういう関係を築き上げたのかは知らない。


だけど少なからずルナからの表情はカリュが裏切ったとは思いたくないといった感情の揺れが見えた。


「はいはい。ルナちゃんに話を振った俺が悪かったよ。そんな事より、なんであえて布取らねぇーんだ?取るだけじゃねぇかよ。」


「何よ貴方!カリュ様に失礼よ!!」


「うっせぇ!!テメェは引っ込んでろ!!」


女には悪いが俺は荒く言葉を返した。


「なんて最低な物言いなの。貴‥」「いいさ」


女が俺に何かを言い返そうとするのをカリュが止める。


「カリュ様‥」


女は頬を染め、恥ずかしそうにする。


ケッ。って感じだぜケッ!!。


「外せばいいんだろ。外せば。」


そういってカリュは腕に巻かれた布を解き見せた。


そして其処には紋章は刻まれていなかった。


「これが何なのよ。」と訝しげな表情を作る村人達。


ルナは安堵の為か、胸を撫で下ろす。


「ふははっ。何がしたかったのかは知らないが、これで晴れて潔白が証明出来た訳だ。」


高笑いするカリュに俺は冷たい視線を送る。


「誰が片方だけと言ったんだ?左の布も取れ。幼稚みたいな事してんじゃねぇよ。」


俺の言葉にカリュの表情は強張りを見せた。


「貴様。何がしたいか分からんが、いい加減に「おかしいんだよ。」


カリュの言葉に俺は言葉を被せた。


「何を言っている?」


「守人が皆んな死んでる中で、そんなタイミング良く帰ってくるか普通。それにお前が今殺した奴が【クジャ族】の男と契約したって言ってたんだよ。なぁ、ルナちゃん。」


「な!?【クジャ族】に裏切り者が!?」


村人達はザワザワと騒めきだす。


「馬鹿馬鹿しい。クジャ族で裏切りなんて事があり得る訳がないだろう!そのゴブリンに唆されおって貴様ただじゃおかんぞ!!ルナ様!早く此奴を下げて下さい!身の潔白は証明したでしょう!!?」


急に怒りだすカリュに対して俺は冷静だ。


「ルナちゃん。村人を想うならしっかりと現実は見なきゃいけないよ。」


俺の言葉に意を決したのかルナの表情は固まった。


「カリュ。片方の布も取って。」


一瞬の沈黙が走るが直ぐにカリュが言葉を発する。


「ル、‥ルナ様。私を伺うので?」


「布を取り紋章がなければ潔白。単純なこと。それとも取れない理由があるの?」


カリュはバツの悪そうな表情を一瞬見せたが、直ぐに開き直るかの様に笑い始めた。


「くく。くはははは!!」


「気でも狂ったか?」


「いや、とんだ邪魔が入ったもんだと思ってね。」


「カリュ。やっぱり。」


カリュは巻きつく布を勢いよく外すと、腕に親玉中年親父と同じ文様が浮かび上がっていた。


「そうだ。俺がこの村にゴブリンを召喚したんだよ!!」


「そんな!?」


「カリュ様‥。」


「ルナ。君が振り向いてくれないからだ。他のクズ女は振り向いても唯一お前だけが俺を見もしない。何が悪い?俺の何が嫌なんだ?だからゴブリンを村に襲撃させ、村の英雄となりお前を救いだせば見てくれる。俺を男として見てくれる。その筈だったのに!!」


は?何言ってんだこいつ?

とんだ勘違い野郎じゃねぇかよ。


「カリュ。私は貴方の実力を高く勝ってあました。残念です。」


ルナのその一言にカリュは熱狂する。


「だまれぇ!!!こうなったら村全員ブチ殺して、お前を犯しまくってやる!!」


ガキィン!!


俺の槍は、カリュのいつ抜いたか分からないククリ刀で弾かれ、そのままカリュはルナに襲いかかろうとする。


「させっかよ!」


俺は仰け反り状態から即座に状態を戻し、カリュの服を掴むと、カリュは振り返り、俺の顔に肘を入れた。


ガ!!


その反動で俺は飛ばされる形になり、カリュは再度、ルナを襲おうと振り向くと、カリュの前に先程カリュを庇っていた女が立っていた。


カリュは冷たい視線で「どけ。」と女に言うが、女は「どきません。」と両手を広げた。


女の身体は恐怖からか悲しいからか震えているのが目で取れ、目には涙を浮かべている。


「う、‥か、カリュ様。全部嘘ですよね?カリュ様が、カリュ様がそんなことするわけないですもんね。」


涙を流しながらカリュに笑顔を見せる女に対し、カリュはフッとまた顔を緩めた。


「カリュ‥様?。」


「メル。俺を信じてくれてありがとう。」


「やっぱり。」


女の表情が一瞬明るくなったその時。


ザシュ!!!


ククリ刀が女の身体を貫いた。


「キャアー!」


ルナの悲鳴がテント内に響き渡る。


カリュはククリ刀を女から抜き取ると、女は崩れ落ちる様に地に倒れた。


ルナは急ぎ女に駆け寄った。


「る、‥ルナ‥様」


その言葉を残し、生き絶えた様だ。


「メル!メル!メル!!カリュ!!どうしてこんな事!!!」


ルナはカリュを強く睨みつけるとカリュはまたあざ笑うかの様な表情を浮かべだす。


「何故?決まってるさ。君を僕のものにする為さ。そんなゴミ女いつだって手に入る。俺からしたら只の慰めものにすぎないのさ。ぬはは、はははははははははははは!!!!」


此奴、腐ってる。


他人の為にここまで腹が立って殴り飛ばしたいと思ったのは生まれて始めてかもしれない。


極力俺はイジメが起きない様にイジメっ子の気を逸らしケンカが起きない様にしてきた派だが、今の俺の心は熱いマグマが噴火し始めた。


「調子こくなよ。ブス野郎。」


俺はゆっくりと起き上がり、さっき飛ばされた槍を拾い持った。


カリュは此方に視線を向ける。


「フッ。この俺を倒そうというのか?そもそもお前は余所者。逃してやっても良いんだぞ。」


「生憎だが、そんな気分じゃねぇよ。最低なクズ野郎は俺がぶっ潰す!!」


「そうか。」


カリュはニタッと下卑た表情を見せた。


本性って訳ね。


「まぁ、‥どっちにしろ逃すつもりはなかったがなぁ!!」


カリュが攻め込んできた。




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次で一章終了予定。

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