素敵な邂逅

蒼野海

第1話

 薄ら明かりの中、舞台上を憂鬱に憂鬱に横切る

 途中でふと息を詰まらせて驚く


 サス


 男「ある日、一人暮らしの家に帰ると夕飯ができていた」


 明転


 死「ああ、おかえり。ちょうど夕飯できたからさ、あったかいうちに食べなよ」

 男「は?!え?!いや、いやいやいやいや、誰」

 死「ん?あー……そうねぇ、ご飯食べてからがいいんじゃないかなぁ、その話」

 男「無理でしょ」

 死「自分で言うのもアレだけどさ、私料理めちゃくちゃ得意なのよ」

 男「え、急に、どゆこと」

 死「だからさ、私の話聞いたらどれだけ美味しいご飯でも美味しくなくなると思うんだよね」

 男「いや、今の時点で多分味しないから、きっと。なんでそんなに味に自信あるの」

 死「ごちゃごちゃ言わないの、早く食べて。話はそれからだから」

 男「とりあえず名前、名前だけ教えてくれませんかねぇ」

 死「えぇ……ネタバレだよ、内緒……」

 男「教えてくれないと通報します」

 死「それは君が可哀想だね、じゃあーーーーんーーーあのねーーーー、うん、デス子、デス子さんです、よろしく」

 男「絶対適当だよそれ、どういうこと?悪魔くんと同じレベルで役所で止められる名前だよ」

 死「まあ、近からず遠からずってとこで、ほら、ご飯食べて」

 男「……食べたら、全部話してくださいよ」

 死「はいはい、分かってるって」


 サス


 男「俺が食べている間、彼女は黙って俺を見ていた。自称デス子さんの作った夕飯は、腹立たしい程に美味かった」

 男「少しだけ、懐かしい気がした」


 明転


 男「ごちそうさまでした」

 死「はい、お粗末さまでした。美味かった?」

 男「久々にまともな飯を食いました」

 死「そりゃあよござんす」

 男「……それで、なんでうちにいるんですか、本当の名前はなんですか」

 死「今、夜の9時です」

 男「は?」

 死「良い子は寝る時間なので、あまり驚かないように」

 男「……はぁ」

 死「私は、死神です」

 男「…… …… …… ネタ?」

 死「十日後に死ぬ君の魂を回収がてら、死ぬ前に望みを叶えに来ました」

 男「……えっ?俺死ぬんですか?」

 死「そりゃそうだよ君、人間生きてりゃいずれ死ぬさ。それが早いか遅いかだけの話なんだよこの世の中は」

 男「死因は?」

 死「守秘義務で教えられないが、良かったね、苦しくは死なないっぽい」

 男「冗談、じゃないんですね」

 死「……物分りいいね、君。悟り世代?」

 男「いや、なんか、腑に落ちたと言うか、別に生きててもこの先何したいとか無いし、あと何年生きててもぼーっとしてんだろうなって」

 死「だから、死んでもいいって?」

 男「まあ、そういうことですね」

 死「まあ、ってなんだい寂しい男だねぇあんた、未練は無いのかい、未練は」

 男「んー、急に言われても思いつきません」

 死「……最後に何か願いを叶えてやろうってのになんにもないのかい?せっかく十日前から前乗りして来てんのに」

 男「あ、じゃあ、」

 死「思いついたか!」

 男「最後に1度、」


 男「恋がしてみたい、です」


 死「その話乗った」


 サス


 男「一瞬だけ彼女が切なげに見えた理由が分かるのはしばらく後でした」


 暗転

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