『怪獣』と呼ばれる生物に対する覚書:断片
七野りく
はじめに
・本文書は、西暦2000年3月、東京で5年ぶりに開催される予定だった、世界主要各国首脳会議用(※1)の覚書である。作成日は印から、前年秋と思われる。
・内容には、現段階(2030年8月15日)においても、第一級秘匿情報が多く含まれている。持ち出しは固く禁じられている。
・家族、親族、友人への口外も厳禁とする。
・閲覧者から、作成者への質問は、作成者及び共著者死亡(※2)の為、不可能である。また、彼を知る者も、悉くが死亡している。
・1899年~2000年(※3)に至るまで、人類が遭遇してきた主要「怪獣」がほぼ網羅されている。特に人類にとって、最大の敵であり最古の「怪獣」――『大顎』が、成長・進化を繰り返すだろう事が、この段階で示唆されている点は特記に値する(※4)。
また、それらに遭遇した人類が、どのように対処したのか。その判断は正しかったのか、間違っていたのか、に対して私見という形で記述されている。ただし、所々が人為的に破かれており、全てが現存しているわけではない。
・本覚書の原本は、2027年6月に決行された日本本土からの脱出作戦時において、大海蛇の襲撃(※5)により沈没した輸送船に積み込まれており、現存しない。ここにある物は、電脳上に残存していた物である。
・同時閲覧は最大5名までしか許可出来ない。必ず、事前に申請すべし。
閲覧者は、必ず、上記内容に留意せよ。
読了後、速やかにその旨を報告する事。
以上!
※1.
1999年のクリスマスから突如始まった「怪獣」(主に『大顎』の成虫)の、欧州・ロシア同時大侵攻により、中止となった。この大侵攻により、ロシアは国家主要部を蹂躙され、国家機能を喪失。
欧州は、東欧・南欧を中心に被害甚大。その後の内戦により、惨禍を拡大させた。2003年頃に、国家機能そのものを喪失したものと推定される。
以後、2030年の現在に至るまで、主要各国による合同会議は一度も開催されていない。
※2.
2024年の東京陥落の際に行方不明となった歴史学者と伝わる。世界が「怪獣」の脅威に対して冷淡だった時代から、一貫して人類合同による対「怪獣」戦線の形成を呼びかけ続けていた。
※3.
記述は膨大であるが、主なものとしては下記。他に私見(これは、本覚書を持っていた人物の筆と思われる)が書き込まれている。
1899年ロンドン
1905年奉天(人類が出現した「怪獣」を根絶した唯一の例)
1910年パリ
1915年ベルリン
1920年ローマ
1925年カイロ(猛烈な勢いで、アフリカを蹂躙)
1930年モスクワ(以後、西への大規模侵攻は一旦、途絶)
1940年ロンドン
※以後、約半世紀をかけ、ユーラシア大陸全域へ生息範囲を拡大。
西暦2000年以降、各国そのものを消滅させる大侵攻が開始。人類全体の人口が急減。2010年には、北米大陸・日本列島へと渡り蹂躙。
現段階において、人類に残されている大陸は、南米の極一部及び豪州大陸のみである。他、島嶼部と、極寒の地においては生存している者もいる可能性が取りざたされているが、最早、それを確かめる術はない。
※4.
その後の調査によって、1999年のロシアにおいて、『大顎』の成虫型の出現が判明したが、覚書作成時には未知。作成者は、友人達へ「……私は見たことがあるのだ。あの悪魔を」と漏らしていたとの未確認情報もあるが、詳細は不明。
※5.
大脱出作戦『望』は日本海軍最後の作戦行動であるが、物的、人的損害甚大。惨劇となり、以後、日本は国家としての機能をほぼ喪失した。
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