やたらとポイントカードを作らせる理由
「ポイントカードはお持ちですか?」
「入会費・年会費は無料となっております、おつくり致しますか?」
レジで商品を出すと、必ず声をかけられる文言。
今やポイントシステムのないお店は皆無です。
どこかの店で一度は耳にしたことがあるでしょう。
(別に作りたくないし)
(出先で立ち寄っただけで、もう来ないから)
(てかマジうざいんですけど)
そんな心の声、カウンター越しにビシビシ伝わってきます。
まだ喋り終わっていないけど、この人は明らかに「作らない」って顔してる……気づけよってオーラめっちゃ出してる……。
完全に無視だよ……渡したレシート床に捨てて帰ったよ……いらないなら「捨ててくれ」って、たった五文字を言ってくれよぅ……。
そんな相手にも笑顔で「またお越しくださいませ~」と声をかける。
残された従業員ができることは、脳内で100HITコンボの超必殺技を叩きこむことだけ。
正直、しつこいと思う気持ちは分かります。
お客さんからすれば、一度断っても、また別の従業員に勧められる。
これを煩わしいと感じるのは当然です。
「何度も言ってんだろうが作らねえってよぉ! おめぇもしつけぇぞ!」
怒鳴られることもあります。お気持ちは察しますが、全従業員が必ず声をかけるマニュアルになっているんです——なんて内情はお客さんには関係ありません。
ただ一つ言わせてもらえるなら、私はあなたと今、初めて言葉を交わしたのですが……。
いかんせん、従業員が変わるとオッケーするお客さんもいるので、一度Noと言われても再チャレンジするのです。
そりゃあ陰気で死んだ魚の目をした男が頼むより、優しい声のイケメンや、明るくて元気な女子高生にお願いされる方が心もグラつくってもんです。
ええ理解しています、ええ……(死んでいる上に遠い目)
どうしてしつこく声をかけてくるのか?
それはもちろん、作ってポイントを貯めた方がお得だからです。
大抵の店は溜まったポイントで値引きが出来ます。
安く買い物できるというのは、もっともシンプルで魅力的ですね。
なんてのはご承知だと思うので、店側の立場でお話しましょう。
理由はいくつかあります。
まずは競合他社との差別化。
家の周りに数社のドラッグストア店舗があるとします。
欲しい商品が同じ値段で販売していたら、まあ、近い店に足を運ぶでしょう。あとは通勤・通学路にある店に立ち寄ったり。
これでは立地条件で雌雄が決します。
大きな通りから離れた場所で経営する店舗は不利。
同じ性能の武器で戦っても、地形効果のせいで勝てない……せや、『付加価値』をつけたる!
その代表例が「ポイント〇倍デー」です。
同じ商品を買っても、他店より多くポイントがもらえるのなら、少し遠くても行くかって気になりますよね。
クーポンの発券もメジャーな戦略の一つ。
「お会計から〇%割引」「該当商品購入で○○ポイントプレゼント」などがよく見る内容かと思います。
もちろん百枚配って百人が使うなんて皮算用はしていません。実際に使用されるのは、配布枚数の一割ほど。
それでも十人がまた買い物に来てくれるのなら、店側としては実行に値する施策なのです。
カードを使っていただくと、会社に購買情報が積み重なります。
男女別の商品の売れ行きや、各年齢層の購入データなどが蓄積されていくのです。
このデータは経験値のようなもので、増えると会社や店舗がレベルアップします。
と言っても、外装の耐久度が上がって、バイクが突っ込んで来ても応戦できるというわけではありません(事例は実話です。その時は外壁が勝ちました)。
データは競合店に対抗するための新たな戦略立案や、集客率を高める店づくりに使用されます。
その結果、より良いサービスが提供できたり、欲しい商品を取り揃えられる。
巡り巡ってお客さんへの還元に繋がるのです。
商品販売でお金を入手、カード使用で経験値入手。それらを元手に自軍を強化。
RPG風リアル育成シミュレーションです。
もっと直接的な効果としては、お客さんを固定化するために利用します。
「顧客の囲い込み」とよばれる重要作。
お客さんはカードを作った店の利用頻度が高い。しっかり統計が出ています。
どこで買っても同じなら、カードを作った店でポイントを貯めようと思いますよね。
月ごとにカード会員の獲得目標を掲げる店も多いはず。
それほど大事な要因であり、力を入れるべき最大の理由なんです。
いくら魅力的な品揃えや価格帯であっても、お客さんが来てくれなければ元も子もないので。
毎回断っているのに長々とメリットを説明してくる……カード獲得に熱心な従業員に弱っているあなた。魔法の言葉があります。
もし、所持の確認をされたときにこう言ってください。
「忘れました」
するとあら不思議。
「ではポイントを後付けできるようにしておきますね」
とにこやかに述べて、すべての説明が一括スキップされます。
使用回数に制限やペナルティはありません。
本当に持っているかどうかなんて確認しません。後付けしたかどうかも調べません。レシートを処分しても追跡なんて致しません。
上手く断れないお客さんは選択肢の一つにしてください。
(注!)この方法は私個人の見解によるものです。厄介な展開になったら「いま急いでるんで」とエスケープしてください。
いろいろ書きましたが、きっとお客さんにとってカードを持つ一番のメリットは、提示することで「カード作りますか?」って二度と聞かれなくなることでしょうね。
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