私立魔法学園プリヴェイル

柴咲もも

【4月5日 入学式・始業式①】

「ハァ〜、気が重いなぁ……。」

そう呟いて空を見上げる。

良く晴れた空。

まるで、新しい学園生活を祝福するかのような青空。

普通の学校に通えるなら良かったんだけど……。


ここは魔法学園プリヴェイルとかいううさんくさい学校。

一流の魔法使いを育てる学校らしい。

オレの父さんがこの学校の卒業生だからとかいって、無理矢理入学させられてしまった。

「悲劇だ……。」

これからこのうさんくさい学校に毎日通うのかと思うと、オレの青春ってなんなんだろって考えさせられるよ。

フッ、笑うなら笑え。

こんな惨めなオレを。

なーんて言ってるうちに時間だ。

いくら不本意な入学でも、式に遅れるのはやばいからな。

急ごう!


「あっ……!」

わっ、危ない!

ドサッ☆

いてて……。

な、なんだぁ?

「ごめんなさい、急いでいたの。」

そういってぶつかった相手は立ち上がった。

長い金色の髪をふたつに結った女の子だ。

「あなた見ない顔ね。新入生?」

スカートの裾を払いながら彼女が言った。

「あ、はい。いちおう……。」

一応もなにも、正真正銘この学校の新入生なのだが。

認めたくないところがあるだけに、控えめな返事になってしまう。

「ふぅん、わたしはアキハ。この学校の学園長の孫なの。ここで会ったのも何かの縁かしら。あなた、名前は?」

随分ズケズケと話すひとだなぁ。

ま、向こうも名乗ってくれたんだから、オレも名前くらいは言っておいたほうがいいかな。

「トキセ=レッドフィールドです。」

「レッドフィールド……。あなたが?」

怪訝そうにアキハ。

しばし沈黙。

「まぁいいわ、行きましょう。式場まで案内するわ。」

そういって、彼女は歩きだした。

妙に冷たい言い回しが気になるが、とりあえずここは従っておこう。

オレたちは式場に向かった。



「よろしく!トキセ君♡」

「あ、うん。よろしく。」

……って、なんでこの、オレの名前知ってんだ?

「アハハハ、びっくりしたー?」

笑いながら、少女が言った。

民族衣装のような服を着た、子供っぽい娘だ。

「……ちょっとね。」

こういう能天気そうな娘は苦手だ。

「わたし、クリオ。トキセ君よりも年下だけど、この学校では一年先輩なんだ♡」

ニコニコしながら彼女。

なにがそんなに楽しいというのだ。

「よぉ、少年! 元気ないぞぉ!」

そういって肩を叩く男。

こいつは式場で会った、確かハルトとかいう名前の……。

「親友が元気ないと、おにーさん寂しいなぁ。」

誰がいつから親友になったというのだ。

どうもこの学校には不思議な奴が多い。

いた、不思議というよりは単に馴れ馴れしいだけかもしれないが。

「ま、分かんないことがあったら何でも言ってくれよな! しっかり教え込んでやるからさ。」

オレはお前の考えが一番分からねぇよ。

この学校には本当にこんな奴しかいないのか?

これなら今朝会ったアキハとかいう娘が一番まともだな。

整理的に受け付けやすいし。


ホームルーム(らしきもの)を終えて、下校の支度をする。

この学校について入学前に何も調べていなかったオレも、今日のゴタゴタの中でいくつか判ったことがあった。

まず一つ。

この学校には学年というものがないということ。

卒業試験というのが年に一回行われて、好成績を収めれば一年で卒業することだってできるらしい。

さっきの女の子、クリオに関しては、卒業に至る成績を取っていないから卒業できなかったらしいが、(というか一年でそこまで実力を付けれる奴はいないだろう。)ハルトとアキハさんに関しては、卒業は認められているらしい。

二人がこの学校に残っている理由は、単に魔法の研究が好きだから。

それだけなのだそうで。

(ちなみにこの二人は今年で通い始めて三年目になるらしい。)

二年で卒業資格取ったっていうんだからよっぽど成績優秀なんだろうな。

それと、もう一つ。

これは人間関係の問題だが。

どうもオレはクリオに好かれてしまったらしい。オレのどこがそんなにいいのかわからないが、『今度の実力試験、一緒に受けようね♡』とか言われる始末。

実力試験って何の話だ?

……っつーことで、やんわりと断らせてもらったが。

ハルト曰く、『これから事有るごとに

誘われるぞぉ。』とのこと。

やめてくれ!

オレのことはほっといてくれ!

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