第45話 バケモン山の獲物
「…ねぇトシコちゃん、バケモン山の獲物って何なの?」
歩きながら王子が訊いてみても、トシコはニヤリと笑いながら、
「フフっ、それは着いてみてのお楽しみだよ!…まぁ行けば分かるさ」
と言うばかりである。
「だいたい、何がどうバケモンなんだ?…」
王子は頭の中で呟きながら、前を歩くトシコの背中にそれでも離れずについて行ったのであった。
2人は先ほど王子がラジオ体操をした竹之高地小学校の校庭を横切り、草土手の細い道をずんずん進んで行く。
…たった45軒しかない集落を抜けると、細い小川の流れる沢の上の草むす小路を、蝉の鳴き声を聞きながら歩く。
沢の向こうは草木繁る山、小路の右側は段々と棚田があり、その上はやはり緑濃い山の端。
2人は山迫る谷間の道を奥へと進んで行った。
…しかし進むにつれ小路はさらに細くなり、足元の草の丈は高くなって、もはや道なのかどうかもよく分からない状態になってきた。
…家をスタートしてから15分ほども歩いたであろうか?…突然トシコが振り返って王子に言った。
「着いたよっ!」
「ええ~っ !? 」
意表を突かれて王子はビックリしたような拍子抜けしたような変な驚声を上げてしまった。
「…ここが…バケモン山ぁ?」
何と、着いた所は小川の沢をさかのぼったどん詰まりで、特に変わったものも無い山の裾谷である。
「何これ?…別に何も無いじゃん…」
バケモン山というからには、きっと何やら薄ら暗い気味悪そうな雰囲気の所かと思っていた王子は、思わずトシコにそう叫んだ。
だいたい、山ではないし遠くでもないのである。
「フッフッフ…!王子、あれを見よ!」
するとトシコは正面の山裾の谷間を指差して言った。
そこには、茶色く枯れた杉の葉や
その他の枝っ端などがこんもりと積もっていた。
「枯れっ葉や枝っ端があるけど…?」
王子が言うと、トシコは、
「もっと近くに行って良~く見よっ!」
と促した。
…王子は恐る恐る谷間の奥へと近寄って行った。
よく見ると、積もっている枝っ端の下が白い。
「白砂?…」
王子はしゃがんで杉の葉や木枝を手でどかし、その白いものに触れてみた。
「あっ!冷たいっ!」
その白いものは、表面がちょっと薄汚れてはいたが、ザラメ状の雪だったのである。
「…万年雪だよ!」
トシコが少し得意げに言った。
何と、ここにはまだこんもりと残雪があり、その上に枝葉が積もっていたのである。
しかし、いくら冬は豪雪の地とはいえ、今は真夏…日中の気温は30度を越え、暑い毎日が続くなかで何故?…それも「万年雪」である。ちなみに竹之高地は山間部と言っても標高は300メートル足らずしかないのだ。
…ともかく王子は持って来たシャベルで雪をすくってビニール袋に詰めた。
「よ~し、王子!…じゃあ獲物が溶けないうちに帰ろう!」
「うん !! 」
2人は急ぎ足で来た道を引き返し、家に向かった。
…帰り道でトシコが話したところによると、この不思議の秘密を調査しに、以前長岡の大学の先生が来たことがあったとのこと。
万年雪の他にも、標高1000 メートル以上にしか見られないという高山植物も発見されたが、何故かは判らず、バケモン山の謎は解明出来ないままなのであった。
…そして、汗をかきつつ急いで戻ったかいも無く、家に着いたら雪はすっかり溶けてビニール袋の中は全て水になっていたのである。
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