第44話 ラジオ体操デビュー!
…謎の男の出現に驚き、王子が立ちすくんでいると、背後からミツイが来て笑いながら言った。
「ゴメン!王子は初対面だよね~、それ私のムコさんだよ!」
「えっ?…あっ !? 」
…それを聞いて王子は大事なことを思い出した。
今年の春、竹之高地まで新道が出来たというニュースとともに、ミツイが近々お見合いをするらしいという話をフミがしていたのである。
その時は、新道開通と新車購入で王子は浮かれまくっていたのですっかり忘れていたのだ。
「こんばんは!君が竹之高地の王子様だね !? …初めまして、私の名前は東勝(とうしょう)です!どうぞよろしく」
その男はすっくと立ち上がり、王子に丁寧に挨拶した。
…細身ながらがっしりと肩幅があり筋肉質な感じで、目はギョロリと鋭く、人相はもちろん違うがシルエットはまるでブルース・リーのような感じである。
「…初めまして、お世話になります」
王子はちょっとドギマギして言った。
「…しかし2~3日前から、王子が来るって女達がソワソワしてたからどんなにかキラビヤカな子かと思ってたら別に普通の男の子じゃないか…!」
…居間に食膳を出して本家家族に王子も揃い、晩御飯をみんなで食べ始めると、東勝さんが王子の顔を見ながら言った。
「どうして君は王子様と呼ばれてるの?」
まっすぐにギョロ目でそう訊かれて、王子はちょっと困ってミツイ姉妹達にすがり目を送ったが、彼女達はただニヤニヤと面白がっているだけだった。
「それはですね…ええと…つまり…、話すと長いので秘密ですっ!」
王子はそう叫び、みんなはププッ!と吹き出して大いに笑った。
「…ところで、松戸も暑かったけど、新潟も変わらずに暑いね」
…ようやく笑い声もおさまったので、王子が部屋で首を振っている扇風機を見ながら言った。
「うん、特に昼間はこっちも東京近辺と同じように暑くて私達も大変だよ!」
とミツイが応えた。
「そうかぁ…竹之高地もおんなじかぁ…多少山の上であってもやっぱり暑いかぁ…」
王子が冷たい麦茶をもらって飲みながらそう言った時、トシコがニヤリと笑って、
「よし分かった!…王子、明日私がヒンヤリ涼しい秘密のエリアに連れてってあげるよ!」
と言った。
「ええっ !?…そんなところが竹之高地に在るの?…何処それ!」
王子が驚いて訊くと、トシコとミツイが声を揃えて不気味に答えた。
「バケモン山だ!…」
…王子は初めて聞くその名前に絶句し、しばらく頭の中がぐるぐるしてしまったのであった…。
翌日…竹之高地の朝は早い。
王子は朝6時に起こされ、洗面所に顔を洗いに行くと、ヤイ叔母がやって来て、紐の付いたカードを差し出して言った。
「王子も今日から朝のラジオ体操に行きなさい!」
…集落の真ん中には長岡市立竹之高地小学校があって、ヤイはそこで用務員の仕事もしているのだ。
「竹之高地の子は皆、夏休みは毎朝学校でラジオ体操をしているんだよ!…王子も参加しないと」
…という訳で、王子も眠い目をこすりながらふらふらと学校に行ってみると、30人余りの子供達(全児童)がこぢんまりとした校庭に集まっていた。
「♪新し~い朝が来た♪希望のあ~さ~だ♪喜~びに胸をひ~らき青空あ~お~げ~♪」
ラジオ体操の歌に始まり、みんなはラジオ体操第1、続いてラジオ体操第2まで身体を動かし、最後に出席カードに判をもらって解散。
…王子が長兵衛の家に戻ると、家族みんなで朝御飯となった。
竹之高地にはスーパーなどもちろん無く、食べ物はほとんど自作農の米に野菜、そして山菜が中心である。
それから忘れてならないのが、新潟県では夏の間の陰の主食は枝豆なのだ。
朝、昼、晩の3食のおかずとしてはもちろん、お茶受けに3時のおやつ、ビールのつまみ、寝る前のテレビのお供まで切れ間無く枝豆が出てくるのである。
そのため枝豆は畑では作らず、田んぼの畦道に1列で植えられていて、農作業が終わると鎌で2~3株バサッと刈られて毎日新しいものが家に入るのである。
…という訳で朝御飯を終え、お茶を飲みながら王子が枝豆をつまんでいると、トシコが張り切って言った。
「よ~し、王子そろそろ出掛けようよ!」
「…出掛けるって、昨日言ってた例のバケモン山に?…」
王子がちょっと臆しながら訊くと、
「そうだよ!…行こう、じゃあビニール袋とシャベルを用意して!」
とトシコが応えた。
「ビニール袋とシャベル?…」
王子には全く訳が分からないが、トシコはあっさりと言った。
「バケモン山の獲物を入れるんだよ」
「え、獲物?…」
ますます何だか分からず頭の中に???がぐるぐる渦巻くままにトシコと2人で王子は家を出発したのであった。
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