第41話 お弁当の愛と罪

 …王子はちょっとドキドキしながら、薔薇柄のハンカチをほどいてヒサコのお弁当を出してみた。

 弁当箱は普通に長方形のアルミ製のものだった。…しかしもちろん興味はその中身である。

「それっ!」

 王子は心の中で叫んで一気に弁当箱の蓋を取って中を見た。

「おぉ~っ!」

 まず目に入って来たのは、その鮮やかな色合いであった。

 弁当箱の中は仕切り板で、ご飯スペース3、おかずスペース1に分けられていた。

 おかず内容は、まずタコ切りウィンナー、炒り卵、それとパセリ。

 ご飯の方は全面ピンクのデンブが載せてある!

 シンプルながらもピンク、緑、黄色に赤と、実にカラフルなランチである。

 王子は箸でご飯上のデンブをサササッ! とかき集め、一気に口の中に放り込んだ。

「うぅっ、甘~い!」

 ささやかな幸せ感にひたる王子。

 しかしそのためデンブは半分以下に減り、頬張った幸せの分だけ白いご飯が露出した。

 王子はご飯に箸を立て、だ~っ!と残りのデンブとかき混ぜた。

「あれっ?」

 …ところが思いがけずご飯は黒く汚れてしまったのである。

「何だこりゃ?」

 不審に思いつつも登山して腹ぺこな王子はそのご飯を口の中にひと掴み放り込んだ。

「ブフッ !! 」

 とたんに強烈な味の違和感に襲われ、王子はご飯を吐き出してしまった。

「どうなってるんだ?…」

 …という訳で、王子はお弁当の内容をつぶさに検証することにしたのであった。

 そしてその結果、次のことが判明したのである。

 …実はご飯は3層構造になっていたのだ。

 一番上はデンブ載せご飯だが、その下約1センチには一枚の海苔で仕切りがあり、その下に昆布と海苔佃煮を載せたご飯、さらにその下に同様に一枚海苔仕切りで梅干しの果肉を載せたご飯となっていたのであった。

「…なるほど」

 ヒサコがなぜ、このような弁当を作ったのか王子には理解できた。

 ウィンナーも炒り卵もパセリもデンブも、海苔や昆布の佃煮も全て王子の大好物なのである。

 基本的には王子の好きな物だけで構成されているのだ。

 蓋を取った時のカラフルなサプライズ!

 おそらくヒサコはご飯を食べた時にもさらにサプライズを与えて王子を喜ばせようとしたのである。

 一番下に梅肉を仕込んだのは、きっと登山で疲れた身体をリフレッシュさせようと思ってのことなのだ。

 なので間違い無くヒサコの愛情が詰まった弁当…だけども、すでに王子は思いっきりご飯をかき混ぜてしまった。

 箸でもう一度ご飯を口に入れてみると、甘さとしょっぱさと酸っぱさが激しい不協和音とともに広がった。

「もう無理だ…」

 結局おかずだけ食べて王子はご飯を残した。

 しかし、このままごっそり残した弁当箱 (しかもご飯は無残にぐちゃ混ぜ状態) をヒサコに見せる訳にはいかない。

「ゴメンね…ヒサコちゃん」

 王子はそう思いつつも岩の脇の小笹の茂みの中に弁当の残りを捨てたのである。


「ただいま~っ!」

 …遠足が終わって夕方家に帰ると、ヒサコがさっそく王子に近づいて来て、

「お疲れ様!…どうだった?お弁当」

 と訊いた。

「僕の大好物ばかりでとっても美味しかったよ!」

 …王子はそう答えて2人は幸せに笑顔を見せ合うのであった。


 …人は愛深き故に嘘をつき、罪深き秘密を持つのだという事をこの日王子は知ったのである…。




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