第25話 三国峠越え
「ガツッ!」
王子は突然の痛みで目が覚めた。
「…もうすぐ峠だから、そこで車を駐めて仮眠をとるぞ!」
サダジが隣でハンドルをぐるぐる回しながら言った。
…現在車は猿ヶ京温泉を過ぎて、谷川岳を始めとする2000メートル級の山々が連なる上越山岳国境の三国峠に向かって急坂急カーブを登っているところであった。
曲がりくねる国道を行く車の遠心力に身体を振られた王子は、ドアの窓枠に頭をぶつけて起きたのである。
…気が付けば、気圧の変化で耳がおかしくなっていた。
非力な軽トラ(排気量360CC)に定員オーバーの人数を乗せて、サダジはアクセルをベタ踏みしながら、次々に現れるカーブを必死にこなして行く。
道路の脇は全くの闇で見えないが、おそらく目も眩むような崖の深い谷になっているはずである。
…右に左にどのくらいの数のカーブを曲がって来たのだろうか?…ようやく車は坂道を上がり切り、眼前の山腹に群馬と新潟国境の三国トンネルが見えた。
サダジはトンネル手前の国道脇にある「三国レストハウス」というドライブインに車を入れて砂利敷きの駐車場に停めた。
真夜中なので店舗は閉まっていて暗い。
サダジはそこでエンジンを切り、
「ここで明け方まで仮眠するから…後ろの2人にもそう伝えてくれ」
と言って身体を運転席の後ろ角にもたれさせてアッサリと眠りについた。
…王子が後ろの荷室の扉を開けて見ると、フミとタマイはもはやぴくりとも動けないといった態でダウンしていた。
「…王子…ここはどこ?」
少ししてようやくフミが口を開いた。
「三国峠だよ、ドライブインの駐車場!…ここで明け方まで仮眠するんだって」
王子がそう伝えると、
「…カーブ道で右に左に身体を振り回されて気持ちが悪くなったよ…」
フミはそう言ってさらにぐったりしたのであった。
その脇ではタマイがのっそりと起き上がり、夏掛けを羽織ると幽霊のように生気の無い顔で外に出て行った。…そして駐車場の外の草むらの中へげろげろと戻していた。
…王子はどうして良いか分からずよろよろと車に戻るタマイに、「大丈夫?…」と訊いたが、彼女は無表情のまま小さく頷くと、荷室の中に戻った。
…脇の国道を行き交う車が途切れると、周囲は闇と静けさに包まれた。
ここ三国峠は、標高1000メートルを越えたところにあって、夜風は涼しいというより、はっきり言って薄ら寒かった。
…王子も車の助手席に戻り、窓を少しだけ開けてそのまま眠りについた。
…次に気が付いた時には周囲はすっかり明るくなっていて、窓から外を見るとフミが弟を抱いて山の景色を眺めていた。
峠の山肌には白い雲…と言うかモヤの塊がさわさわとうごめいていた。
車のドアを開けて外に出ると、半袖シャツから露出する王子の腕に鳥肌が立った。
「…夜明け前から急に寒くなって、とても寝てられなかったよ、全く!」
フミは王子にやつれた顔を見せて言った。
…やがてサダジも起きて来て、レストハウスの外の水道で顔を洗うと、
「暑くなる前に出発しよう!…みんな車に乗って!」
と言った。
薄く朝もやに包まれる中、軽トラックは発進して国境の三国トンネルに入った。
トンネルの長さは1キロちょっとで、抜ければようやく新潟県である。
「…竹之高地って、遠いなぁ!」
王子は心の中で呟き、前方にだんだんと近づいて来るトンネルの出口をサダジとともに見つめていた…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます