第7話


「………………」


「…………………」   

 

「……………………」


「………………………」


 場の空気はもう最悪だ。 

 

 友和君は帰りたい素振りを隠さないし、白音さんは完全にビビっている。


 麻由さんはわかっててムスっとしてるし、友人達も口数少なめに酒を飲んでいる。


 そんでもって引き止めた張本人である僕はというと……。


「和哉……飲みすぎじゃないか?」


「いや……もう一杯、ジンのロックをくれる?」


 さっきからずっとこんな調子だ。


「もう三杯目だぞ……大丈夫なのか?」

  

「どうかしてしまったみたいだぞ?」


 覚悟が決まらない。


 どっぷりと酔ってしまえば白音さんと話せるようになるかもと思って、さっきから酒を流しこんでいる。


しかしいくら飲んでも……目の前がクラクラしてきても彼女に話しかける覚悟が決まらない。


 いけるか? いや、まだ無理だ……。


「もう三杯……ください」

 

「おいおいそんなに飲んだら神様にお祈りが必要になるぞ、和哉」


 牧夫からの言葉すらも気に留めず、もう一杯と催促する。


 そして最初に痺れを切らしたのは友和君だった。


「あの……和哉さん」

 

「う、うん! な、何かな?」


「その……俺達、もう帰ります……今日はありがとうございました」


 それに乗っかるように麻由さんも口を出す。


「そうね、こんなお寺みたいな雰囲気じゃね……」


「白音、もう帰るぞ?」


「ふえ?」


 気疲れしすぎたのか、少しウトウトしていた白音さんが可愛らしい声を出して答える。


 すでに場の形勢はお開きに向かってしまった。


「それじゃ俺達もお暇するとしよう。友人のイベント成功を見届けられたしね、牧夫ともども楽しませてもらったよ」


「まあ……オチは微妙だったけどな。それじゃ和哉、主賓として締めの挨拶をしてくれや、最高にクールでホットなやつをな」


 唐突な友人からの振りで自分が主賓だったということを思い出した。


 そしてその締めのスピーチをまったく考えていなかったことも……。


「えっ……し、締めの挨拶ね、そ、その……きょ、今日は……お日柄もよく……じゃなくて……その……このイベ、イベイベ、ントに来てくれて……」


 ああああ、言葉が……話がまとめられない!


「きょ、今日は来てくれてありがとうございました。こ、今後ともよろしく……」


 オリジナリティのかけらも無い、言葉以上の意味を与えない挨拶でイベントは終了した。

 

 後のことはほとんど記憶に無い。 


 僕は生まれて初めての恋をしてすぐに人生最大の屈辱を友人達の前に晒してしまったのだ。

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