第6話

 

「いや……だから……その……あれだから……」


 溜息を大きくつきながら麻由さんは友和君達に向き直る。


「とりあえず義理は果たしたわね?友和……あんたは不手際が多すぎるわ。こういう場所に慣れてない子を連れてくるときは必ずそばに居て飲み過ぎないか見ててあげなさい」


 静まり返ったVIPルームに凛とした声が響く。


「す、すまん……正直、調子に乗っていたみたい……だ」


 心痛な面持ちで友和君がうな垂れる。 それを見てアタフタと彼女も頭を麻由さんに下げる。


「ご、ごめんな……さい。そ、そもそも私が原因で……」


 縮みこむように謝る彼女、


「当たり前よ……貴女も悪いわ。いくら場に慣れていないとはいえ限界以上に飲むなんて馬鹿のすることよ!そしてそれは他の人間にも迷惑を掛ける……現にいまはこいつにね」

 

 そう言って友和君を指差す。 


「うぅっ……ご、ごめんな…さい」

 

 彼女は涙目になり、きゅっと友和君のズボンのすそを持ってもう一度頭を下げる。


 そしてそれは見ている側には痛々しく見える光景だった。


「泣くくらいなら二度とこういうことはしないようにしなさい!正直私はかなり怒っているわ……貴女にも、友和にもね」


「そ、そこまで言うことないじゃないか!」


 思わず大きな声を出して立ち上がっていた。 普段の僕なら絶対にしない行動だった。


「……和哉?」


 訝しげに麻由さんが名前を呼ぶ。


「…………」


「…………」


 仲間たちも驚いたような視線をこちらに向けている。


「ああ……その……せっかく来てもらえたんだから……あ、あまり言わないであげてほしくて……ぼ、僕が……このイベントの責任者……だ、だからさ」


 それを言われて麻由さんも言い過ぎたことに気づいたのか少し顔を赤らめながら、


「そう……そうね、確かにこれじゃわざわざ因縁をつけに来たと言われてもしょうがないわね……」


 咄嗟に出た一言だったけれど上手い言い訳だった。 麻由さんも少し冷静になってくれたようだ。


「そ、そうだよ……その……よかったら三人も一緒にど、どうかな?友和君たちはこのクラブのVIPルームに来たことないでしょ?」


「……おい、和哉!」


「よせ、牧夫。この場の責任者は和哉だ。俺達が口出すことじゃない……もちろんそちらのお嬢さんが遠慮するというのなら別だがな」

 

 瑠久達の視線を浴びせられながら、麻由さんは一瞬だけ考えた表情をした後、


「ええ……いいわね。友和も貴女もいいわね?」


 満面の笑みで了承してくれた。 他の二人はというと、


「あ、ああ……」


「わ、私も……です」


 しぶしぶながら納得をしてくれる。  

 

「……ちっ、しょうがねえけどさ。お前らアレを持ち込んでないだろうな?」


「アレってな~に?麻由、わかんな~い」


 挑発的な態度の麻由さんに隣にいた友和君が慌てて遮る。


「よ、止せよ……、大丈夫……今日は健全なイベントだから……何も持ってきてないぜ……ですよ」


「ああ!アレって○○ですね……」


 あえてぼかして表現して言ったアレを、そのものずばりで答えてしまったことで、その場が凍りつく。


「…………ちっ」


「…………」


 気を遣いの牧夫が舌打ちをして、瑠久は黙ってうつむいている。 


「ちょっ、おま……な、何を……」    

     

 友和君は彼女の空気の読めない一言に狼狽している。 そして麻由さんは……。


「……友和、その子……黙らしときなさい」


「ラ、ラジャー……」


「ううっ……ごめんなさい」


 怒っていることをあらわすように声が重かった。


「あ、あの……和哉……君、私達……ちょっと下に行って来るね」


「う、うん……わ、わかったよ」

 

 先ほどの彼女の言葉でどん引きしてしまった女の子達が気まずそうな態度で部屋からでていく。


「……座りやすくなったわね」


 状況をわかったうえで涼しげに答える麻由さんの言葉がさらに部屋の温度を下げたような気がした。






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