10月18日 その一瞬を尊く思えば

 光射す世界に、涙を救わぬ正義なし!(私の地方の方言で、こんばんはおはようございますの意味)

 雪車町地蔵だ。


 人間疲れてくると、なんでもかんでも斜に構えてしまう。

 正常な判断力を失って、なんだか相手を否定してやろうという気分になるし、そんな話は聞きたくないと言いたくもなる。

 だれかれ構わず八つ当たりだ、という人もいるにはいるだろう。


 そんな精神状態で、家に帰ってきて。

 暖かいスープと一緒に、おかえりなさいと言われる。

 きわめて平常の声音で。

 きわめていつも通りの表情で。


 ……けれど、スープを飲み下して、その温かさが胃の腑に広がって、染みわたって。

 ほっと息をつくと、どうしてか、さっきまであったもやもやは、消えて行ってしまうのだ。


 それを魔法のようだねと言えば、そんなものはありませんよとかすかな笑みを返される。

 ああ、なるほどと思うのだ。

 たぶん、こういう瞬間が重なって、自分は今日まで生きてきたのだろうと。


 私の周囲にいた人々は、善き人々だ。

 人間相応の善悪は持ちえただろうけれど、それでも善き人々だと言えるし。

 それを否定することを、私は良しとしないだろう。

 そのためだけに、これからも、いつまでも頑張っていけるだろう。


 一瞬だけ感じるそのぬくもりを、尊いと思えるがゆえに。



(え? なに? ポエット?)

(気持ちはわかりますが、いい話ということで一つ)

(いい話……? これが? え?)

(さすがに傷つきますねぇ……それでは、アデュー!)

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