後輩ではなく彼氏として
瑠璃の家を後にした後、夜は学校にではなく帰路に就いていた。
別に、テストが面倒で早退したしわざわざ行く必要もないからというわけではない。まぁ、テストを受けたくないという気持ちに嘘はない。だが、そうではない。
今から行ってもすでにテストは終わっており、生徒たちも帰っているからだ。
柳ヶ丘高校では、主教科のみの中間テストは二日かけて、主教科に加え副教科もある期末テストは四日かけて行われることになっている。
その期間はテストを受けるだけで、終われば家に帰って一人で勉強するも好きなことをするもよし、友達と教室や図書室で一緒に勉強するもよしということになっているのだが……基本的にほとんどの生徒は帰宅する。
まぁ、ほとんどの生徒が学校で思うことなんて早く家に帰りたいだから無理もないとは思うがそんなことはさておき。
もうテストは終わったのだから、学校に行く意味は全くないというわけで。
だから、夜はまっすぐ家に向かっているというわけだ。
道中、思い返すは、脳裏を過るのは先程のこと。
瑠璃の父親との、電話のこと……。
「そ、それじゃあ掛けるよ、夜クン……」
「はい……」
ごくりと喉を鳴らせて、瑠璃は電話帳に登録されているとある人物に電話を掛けた。
一体、誰に掛けたのか、それは……。
『もしもし』
「も、もしもし……お父さん……」
瑠璃の父親――
夜に聞こえるようにスピーカーになっているから、隆宏の声が耳に届く。
厳格そうで、厳しそう。それが、夜が声だけで抱いた隆宏の印象だった。
『……瑠璃か。一体、何の用だ?』
「その……明日のことなんだけど……」
瑠璃の声が、手足が微かに震えている。
それは、夜の目からは怖がっているように見えて。怯えているように見えて。
夜は瑠璃の手を握りしめた。
それだけで瑠璃の恐怖が和らぐだなんて思っていない。だけど、少なくともここにいるのは一人ではなく二人なのだと、気付いてほしかっただけなのだ。
そんな夜の想いを知ってか知らずか、瑠璃は突然手を握られたことに驚き、しかし微笑みながらぎゅっと握り返した。
傍に夜がいてくれる、それが嬉しくて、ちょっと気恥ずかしくて、頼もしくて。
『明日……見合いのことか。まさか、まだ駄々を捏ねるつもりか?』
瑠璃の気持ちを聞かず察さず、嫌だという否定を駄々とそう言う隆宏に瑠璃は悲しそうな表情をし、夜は青筋を浮かべる。
きっと、瑠璃の気持なんかより、お見合いの方が隆宏にとっては大切なものなのだろう。夜の考えだから正しいとは限らないけど、それでも夜にはそうとしか思えなかった。
お見合いとは、親が我が子に結婚してほしいがゆえに行われる場合が多いだろう。
だけど、それには必ず子供への思いやりがあるはずなのだ。
それなのに、隆宏にはそれが感じられない。そのことが違和感でしかなかった。
『瑠璃も結婚出来る年なんだ。大人なんだ。いつまで子供のように嫌だ嫌だとわがままを言うつもりだ』
隆宏の言葉に、瑠璃は何も言い返すことが出来ないでいた。
そのことが、悔しくて。瑠璃は涙を夜に隠すために俯いてしまう。
ここにいるのが、瑠璃だけだったら、きっと心を折られてしまっていた。
だけど、瑠璃は一人じゃない。
「子供が親にわがままを言って何が悪いんですか」
たまらず、夜は口を開いた。
『……瑠璃以外の、しかも男の声。誰だ?』
戸惑う隆宏。しかし、それも無理はない。
何せ、娘と電話をしていたと思ったら見ず知らずの、しかも男の声が聞こえてきたのだ。驚かない人などいないだろう。
誰だ? という当然の問いに、夜は。
「瑠璃先輩の後輩……いや、彼氏の夜月夜です」
高らかに、しかし冷徹に。込み上げる怒りを抑え言葉を紡ぐ。
後輩としてではなく、瑠璃の彼氏として。
~あとがき~
ども、詩和です。いつもお読みいただきありがとうございます。
毎日投稿14日目。いよいよ二週間が経過しました。二週間も毎日投稿、おれえらい。
と、そんなことはさておき。初めて登場した瑠璃の父親、そして夜の彼氏発言、色々ありましたが中途半端なところで今回も終わりです。続き気になりますよね、俺も気になります明日中に書き終わるかどうか……。
ここで裏話。実は、隆宏さん改稿前は名前が違いまして……平蔵だったんですね。でも、なんか名前のイメージが厳格そうな五十代くらいのイメージかつ苗字と名前の母音が全部同じってことで変えました。うん、名前はちゃんと考えてつけよう、俺。
さて、今回はこの辺で。
それでは次回お会いしましょう。ではまた。
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