第14話 委任状.zip

場所は変わって会議室。来客用の応接室かもしれない。

黒革のいい椅子だ!

本物じゃあないかもしれないが、それなりの値段はするだろう。

机も、木目がすばらしい。

プリントかもしれないが、それなりの値段はするだろう。

こんなところで会議するんだから、よほど重要な話をするんだよね?

退屈かもしれないが、それなりの話はするだろう。


「ど、どうぞ・・・。」


れんちゃが飲み物を持ってきた。


これは・・・、水素水じゃあないか!

しかも、海洋深層水を使った高級品だ!


「ふふ、ちょっとしたサプライズかな?

 僕がリコメンドするのはコーヒーより水素水。

 社会人はヘルスコントロールもライフワークのひとつ。

 最前線で働く人間にとってはイスペシャリー。

 ノマドワーカーにはフィジカルの強さがマストだからね。

 そもそも、ホスピタリティとして、コーヒーはディスアグリー。

 コーヒーが飲めない人もいるはずだ。

 この水素水は、コスパだけをブラッシュアップしたコーヒーとは違う。

 誰が飲んでも基本的にOKだ。」


なるほどー。

フタをあけて水素水を飲んでみる。


ふぉぉぉ!なんか健康になった気がするよぉぉぉ!(限界突破成功!)


うん、気がするだけなんだけどね。

健康食品で健康になった試しがない。

ダイエット食品ならなおさら!ちっとも痩せない。

これ以上痩せる必要があるかと言われれば、答えはノー。

でも、プラシーボ効果って馬鹿にならないって言うし。


「さて、ノープランで申しわけないが、簡単にアジェンダを」

「あ、はい。」


とてとてと可愛らしく歩くれんちゃ。

いいなぁ。こういう妹がいれば、人生幸せだろうなぁ。

字も丸っこくてかわいい。

ちょっと背伸びしないと高いところに届かないところとか、

天使の羽のごとくふわりと動く毛先とか、

あああああああああ後ろから抱きしめたいいいいいいいいいい!

そして持ち上げて書きやすいように支えてあげたい!

くっ。ここが学校なら・・・。


「一つ目、ここまでにリサーチでセットされているのは?」

「今回の事象を引き起こした原因となる人物が複数いるということです。

 社内規定に違反した保守端末の使い方をした人間が何人も。

 その中の一人がサイバー攻撃の引き金となるマルウェアを

 招き入れてしまった。

 故意なのか、事故なのか、わかりませんが。」

「なるほど。アグリー。」


日本語で話せ日本語で!

要するに容疑者が複数いるらしい。

犯人はいるかどうかわからない。

そんな感じのことを言っている、気がする。


「二つ目、これからアクトすべきことは?」

「調査を継続するのはもちろんですが、

 やはり社内の状況に詳しい人を交えて対応させてください。

 不要なツールを躊躇なく入れられるのは、

 社内のルールの抜け穴まで詳しく知っている人物。

 部外者だけでは追跡が不可能かと。」

「考えたくないことだが、エビデンスを見るにそういうことだろうね。

 ふむ、ジャストアイディアだが、」


おお、これが噂のジャストアイデア!


「墨名をアサインするのはどうかな?」

「ふぇ?」

「このインシデントに対して、

 フルコミットできそうなのが君しかいないんだけど。」


素晴らしいジャストアイデア!

ぜひお願いします!(無言の期待レーザー攻撃)


「そんなサイトを感じるんだが、どうかな?」


ばれてるー!?

私の心を読むとは、はるにゃんの親のくせに生意気なー!


だがぁ。これはチャンス。

もっと墨名と一緒にいたい。

ここで頑張らないでいつ頑張るというのだよ?


「アグリー!アグリーです!」


さあ、お姉ちゃんと呼んで!

これからもずっと一緒にいようじゃあないか!


「・・・はい。」


勝った!!!今夜は赤飯だぁぁぁ!!!(テーン♪)(脳内ファンファーレ)


「では、このミッションについて、

 僕のオーソリティを君にトランスファーしよう。

 なに、難しく考えなくてもいい。

 ブレストをしながらシックスセンスでセレクトするんだ。

 困ったら・・・、縛戸さん?」

「えっ、私ぃ?!」


急に名前が出たので、びっくりして声が若干裏返ってしまった。


「そう、君だ。

 墨名のサポートを頼みたい。」


つまり、親公認ってことぉ!!?

お父様!娘さんは幸せにします!


「ボトルネックがあるとすれば、セキュリティ知識と、対人能力。

 墨名が他の部署とコンセンサスをとるのは、ディスペアーだからね。」


あ、そっちか。

確かにこの子は相手に強く出られるとそれまでだから、

私のように対人関係つよつよお姉さんが必要だね。


社内におけるれんちゃのポジションは、よくない。

カーストの下の方だ。

事あるごとにいじられて残業が増える一要因になっているらしい。

任せておいたら日が暮れても終わらないだろう。

退社時間になったら、実質時間切れ。

調査はスムーズに進めなければならない。


そのためにも、ここはひとつ、はるにゃんパパの権力をフル活用して


「よし、後は任せたよ。

 申し訳ないが、このあとのタスクが山積みでね。

 しばらくステップアウトする。」


な、なんだってー!!?


「夕方までにはリターンするから。」


いやいやいやいや!!

夕方では遅い!遅すぎる!

ああ、行ってしまった・・・。


なんて奴だ!いたいけな幼女に仕事を任せてどこに行くのだよ!

あとは逢乱をどっかにやってしまえば二人っきりじゃあないか!

もしかして、気を利かせてくれたのかなぁ?

やったね!さっそくドリンクバーでエンジョイしよう!


なに?『さっきから火恋のことばかり考えて気持ち悪い』?

『VRデートのごとく視聴者に話しかけてくれないのか?』だって?

誰が好き好んでおっさんのバブみを察するんだよ・・・。

金積まれたってやりたくない。

子供と遊んでたほうが楽しいでしょ?

ほら、しっしっ。


とにかく、状況はあまりよくない。

この部屋に入ったときから気が付かないふりはしているけど、

ここにもカメラと盗聴器が仕掛けられていることがわかっている。

誰でも立ち入れる野外ならともかく、

こんなセキュリティの硬そうなところに設置できるのは、

社内でも限られた人だけのはず。


流れ的に狙われるのは、間違いなくれんちゃ。

サイバー攻撃は、物理的な被害が出ない攻撃ではない。

パスワードを知る人間を襲って、パスワードを奪い、

サイバー攻撃に使うという方法もある。

リアルの世界で破壊工作を行ってセキュリティを破るのは、

一般的ではないだけに、成功率が高い方法なのだ。


れんちゃの死亡は、我々の敗北。

守゙ら゙ね゙ばっ゙!


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