第8話
城に帰ると見知らぬニヤついた男と、その従者と思われる不機嫌そうな少年がガウレオを出迎えた。
「おかえり、ガウレオくん。待ってたよ」
「すみません。久し振りに同じ年頃の子と遊んだものでして、時間を忘れてしまいました」
男は狐のような鋭い目で嘗めるようにみてくる。男の歳は
鮮やかな紫を基調とした、ゆったりとして腕先や足先が膨らんだ衣装を纏っていて、体格が分かりにくいが、締められた手首や足首の細さから剣よりもペンを握る時間の方が長そうだと判断できる。
その顔に張り付けられた笑みの胡散臭さときたら、悪巧みをしてますと周知させていようだった。
「そうでしたか。『死に損ない』は少し頭が固いですからね。知ってますか? 彼、頭突きで盾を割ったこともあるんですよ。でも、安心してください。彼には別の仕事が出来たので当分、きみは自由です」
ガウレオはそれでですね、と男の続ける話を、わくわくした顔で聞いている。早速動き出してきた相手がどういった手を打ってきたのか、楽しみで仕方がないようだ。
「きみがどうして、こんなことをしてしまったのか、ぼくは真面目に考えてみたんです。思えば、ぼくも
ん? と笑顔のまま首を傾げてしまう。なにか、話の軸が変わっているような気がする。
「きみに必要なのは一緒に遊べる友達! 時に競い、時に争い、時に分かち合える! そんな友達が必要なんだと! しかし、きみはあの
その言動はどんどん熱気を帯びていき、芝居がかっていった。それを見せられている二人の目が冷めきっていることにも気付いていないようだ。
「しかし、ぼくは見付けた。勇者に匹敵する英雄、『死に損ない』オーリストの孫だ。紹介しよう! 」
男は仰々しく片手を上げたかと思うと、片膝がつくかどうかという所までしゃがみ込みながら、ゆっくりと弧を描く様に腕を降ろしていき、最後に隣で立っていた少年を示した。指の先まで神経の通った見事な動きだ。
「トール・ヒューリーだ」
下を向いているので表情は分からないが、きっとすごくやりきった顔をしてるんだろうなと、ガウレオはロキシーに感じたのともまた違う嫌悪感を得ながら、隣の少年、トールに目をやる。
言われて見れば確かに、オーリストの肉親だと感じさせる顔立ちをしている。特にガウレオを睨めつけている目つきは瓜二つといえる。
背はガウレオよりも少し高く、顔付きも若干大人びてる事から歳上であることが窺えた。
逆立った茶髪と祖父譲りの目付きから好戦的な印象を受ける。
「お前が勇者の息子か。ふん、チビだな」
どうやら印象通りの性格のようだ。しかし、見え透いた挑発に乗るほど幼くないので、軽く流すことにして挨拶をする。
「初めて。ガウレオと言います。トールさんは体が大きいですけど、中身はとっても小さいんですね」
「なんだとッ!?」
掴みかかるトールの手をいなして、足を払う。体勢を崩すことに成功したが、相手はそのまま転ぶことで勢いを利用して立ち上がると、応戦するために拳を振り上げる。
「はい、そこまで。二人とも、すっかり打ち解けたようだね。ぼくも嬉しいよ」
しかし、男の手が間に挟まれることでトールの動きが止まる。ガウレオは呆れたように溜め息をつくと、男に問い掛ける。
「これは打ち解けたとは言いませんよ。それと、あなたもそろそろ、名乗ってもらえませんか?」
「むむ、そうなのかい? 子どもは喧嘩することで仲が深まると、本に書いてあったんだけど。まぁいいや。確かに、名乗ってなかったね。最近は周りが勝手に呼んでくれるから忘れてたよ。ぼくの名前はワイズ。『貴人』のワイズさ」
「さらっと嘘を言うなよ。アンタの二つ名は『奇人』だろ」
格好つけながら自己紹介をするワイズの後ろで、トールが突っ込む。
それを聞いたワイズはニッコリと笑顔を作ると、振り返ってトールの頭を拳で挟むと捻る様に動かす。
「仮にも十傑筆頭であるこのぼくに、偉そうな口を利くんじゃないよ、トールくん。分かったかい?」
「痛ででで!? わかった分かりましたワイズ筆頭!」
「宜しい。全く、なんで他の十傑といい、この子といい、ぼくの周りには生意気な奴等しかいないんだ。貴族の狸たちも派閥争いなんて、面倒事に巻き込もうとしてくるし」
トールを放すと拳を揉む様に撫でながら、愚痴り始める。どうやら王派閥ではなく、中立の位置に立っているらしい。
そんな事をガウレオが考えていると、こちらへ振り返ったワイズがまた笑顔をつくる。
「そんなわけで今度から外に遊びに行くときは、彼と一緒に行くようにしてくれ。それがぼくのできる最大限の譲歩だよ」
「……分かりました。精々、親睦を深めるとします」
その返答にワイズは笑みを深めると踵を返して、城の奥へと戻っていった。
「そうそう。今日からきみたち、相部屋だから。もうベッドとか必要なものは運び終わってる筈なので、よろしく。トールくん、これ命令だから」
そう問題発言を残して。
ようやくうるさいのと別れられたと、体を伸ばしていたトールの動きが固まる。ギギギッと軋むような音を立てながらガウレオの方を向く。
とりあえず微笑むと、彼は心底嫌そうな顔をして、膝から崩れ落ちた。
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