続・創造主Y.O.N.Nと核所持者たちとの余興曲 (バディヌリー)

ももち ちくわ

第1話 コード:マテリアル・ゼロ

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 ニンゲンとはつくづく興味深いことをしでかしてくれるんやで。


 自分と同じニンゲンをまるで実験動物みたいに扱う奴もおるもんや。


 キヒヒッ! さて、わいに創られし創造物たちよ。今日も、わいを楽しませてもらおうかいな!?

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「おい。被検体番号3004の様子はどうなっているでがんす?」


「ダメでごわす。ここ、最近、すっかり食事を取らなくなってしまったでごわす。このままでは自らに死を選ぶことになってしまうでごわす」


 助手であるヨッシーから報告を受けた、ドクター・バイロンは苦虫を口の中で噛み潰したかのような表情に変わってしまう。それもそうだ。被検体番号3004である、マテリアル・レイは、今までの実験において、数少ない成功例のひとつと言って過言でもなかった。


 ドクター・バイロンはこの実験に人生の半分をもつぎ込んできた。


「ちっ! こいつがもし廃棄になれば、国から降りる研究費を減らされてしまうでがんす! おい、お前たち、被検体3004号に栄養を取らせる方法はないのでがんすか!?」


 ドクター・バイロンは誰の眼にも明らかに焦っているように視えていた。それもそうだ。ドクター・バイロンには悪癖がある。コード:マテリアルゼロの総責任者という立場にありながらも、1カ月以上、風呂を入らないのは当たり前であり、さらには、手足の爪も伸び放題。


 彼の身体からは野をうろつくような魔獣にも似た体臭を放っていた。それだけでも、この研究所ラボに勤める女性陣からは鼻つまみモノの存在であったのだが、さらには研究所ラボの男性陣すらも忌避する悪癖をドクター・バイロンが持っているからだ。


 ドクター・バイロンは、いらつくと自分の両手の爪をガリガリと噛み出す。1か月以上も風呂に入らぬ身なのに、その爪を噛むのだ。ガリガリッ、ブチッ! とドクター・バイロンは左手の親指の爪の先端を噛みちぎる。しかも、その噛みちぎった爪をブッ! と床に吐き捨てるのだ。


 研究所ラボ内で彼と同じ部屋に居る彼の部下たちは、またかと心の中で毒づく以外、彼らに出来ることはなかった。部下たちが今就いている研究者としての地位など、ドクター・バイロンの一言で吹き飛ぶ砂上の城と同じであった。だからこそ、誰もドクター・バイロンに意見するものなど、あるひとりの男以外には存在しなかったのである。


「キヒヒッ! バイロンくんは今日も荒れているようでやんすね? あと、そろそろ風呂に入ったほうがええんやで? あんたさんが焦っているようじゃ、被検体3004号、おっと、間違えてもうた。今はマテリアル・レイくんやったな? 彼が自死を選んでしまうんやで? しっかりしてほしいところやで?」


「ああん!? 貴様、どこから潜り込んできたのでがんすか! いくら貴様とて、この研究所ラボに立ち入るには、国の大臣からの許可証が必要なのでがんすよ?」


「そないなもん、わいの顔を見せるだけで、大臣が震え上がって、永久許可証を発行してくれるんやで? バイロンくんがいくら、上の方々に文句を言おうが、わいを出入り禁止にするのは無理なんやで? キヒヒッ!」


 ドクター・バイロンは今度は右手の親指の爪をガリガリと噛み始める。自分に意見できるモノなど、皇帝カイザーか、その血筋に連なるモノたちだけである。だが、この眼の前の老人はどうやってか知らぬが、時の皇帝カイザー・アグリッパーさまに【寵愛】を受けていた。


 どうやって、皇帝カイザーを懐柔したのかはわからないが、目の前の老人は自分にとって、大きな利益をもたらしたの事実である。


「わいがバイロンくんに与えた4つのコアのひとつが、マテリアル・レイくんの体内に上手く移植できたのは、わいにとっても朗報やったけど、自死されたら堪らないんやで? あんたさんには頑張ってもらわないとあかんのやで?」


「わ、わかっているでがんす! 毎日毎食、あいつの食事の時には、合成獣キメラから抽出した血液をワイングラス1杯分、与えようとはしているでがんす! しかし、あいつがそれを飲むことを拒否しているのでがんす!」


 合成獣キメラから抽出した血液は、滋養強壮、長寿長命の妙薬であった。この国において、ソレを飲めるモノは皇帝カイザー一族だけである。唯一の例外として、コード:マテリアルゼロの成功例である、3体の被験者たちも、その血液を飲むことが出来た。


「ふうううむ。食事はどうでもええとして、合成獣キメラの血液を飲んでくれへんのは都合が悪いなあ? マテリアル・ゼロの被検体はことごとく、寿命が短いんやで? その寿命を延ばす意味も含めて、マテリアル・レイくんに飲んでもらわないとあかんのやで?」


 老人の言う通り、コード:マテリアル・ゼロの被検体たちの寿命は平均3年と短命であった。コアが体内に定着するだけでも、難しいと言うのに、もしコアが上手く定着したとしても、そのニンゲンの寿命は極端に短くなる。


 ドクター・バイロンがこのプロジェクトで一番の成果をあげたことと言えば、被検体たちに合成獣キメラの血液を与えることで、寿命を大幅に延ばすことに成功したことであろう。だが、そろそろ、本来の結果を出さねばならぬ時がドクター・パイロンに迫っていた。


 皇帝カイザーはしびれを切らしかけていたのである。遅々として進まぬ、コード:マテリアルのプロジェクトの存在自体に疑義していたのであった。

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