27. あのさ、審査するのは人間なんだぜ。


「攻撃を自動で受け流す機能ねぇ……既にあるんじゃないの?」

 面接の間の、窓から入る光を背負って、両手を組んでその上にアゴを乗せた男性審査士が言った。


 口の端だけは辛うじて笑っているかのように微妙に上がっているけれど、丸メガネの奥の目が、死んでいるというか。


「剣術に、受け流すスキルはありますね」

 ちょっと震えながら、僕の隣に座ったユイさんが言った。


 そうしたら、おじさん審査士、イクシさんは、ズレたメガネを右手でくいっと直してから、すこし言葉を崩した。

スキルとか技術とか、そんな区分けはどうでもいいでしょ。『鍛冶屋なら受け流しを知っている』んでしょう? それともあなたは、それを全く知らない程の、素人ですか? ユイ=アレグリアさん」


「いえ……知っています」

 と、言い出しづらいそうに、ユイさんは答えた。


(ユイさんって、『アレグレア』って苗字だったのか……)

 元居た世界の、サーカスか何かで聞いた事あるような。


 イクシ審査士は、「言質は取った」とでも言いたげに、目を輝かせた。


「だったら簡単。鍛冶屋が知っている受け流しの技術を、どこにでもある剣へと組組み込んだ。ただそれだけ。鍛冶屋ならそんなの簡単に造れますよね? 進化などしているはずが無いでしょ」


「そうではないのです……」

 ユイさんは、つとめて冷静に、そんな剣を作る困難さを語った。



 ~~~~~~~~

 イクシ審査士様。通常ならば、剣は、金属を熱した後、冷やしながらハンマーで叩いて成形します。その関係で、複雑な機構を実現するのは、そもそも技術的に難しいんです。


 それだけではありません。パーツが増えると、パーツ同士の接合部分が、強度的な弱点となりかねないんです。敵モンスターに剣を当てると、当然その反作用として、『応力』という力が剣にもかかって来ますよね? その力にも耐える構造を、工夫しないといけないのです。

 ~~~~~~~~


 イクシ審査士は頬杖をつき、ユイさんの説明を、つまらなそうに聞いた後、口を開いた。

「ふーん。そんなの、鍛冶屋なら普通に設計すればいいだけのことでしょう? 達成したい目的は『自動受け流し』とシンプルなものですし。そのあとの具現化は、容易に出来るはずです」


(この審査士さんは、人の意見を否定する時に、生き生きとした目をするな……)

 前に出くわした嫌な事を、ちょこっと思い出してしまった僕は、つい、口を挟まずにはいられなかった。


「待って下さい? 実際に役立つ剣を作るのって、凄く大変なんですよ? ユイさんの仕事を近くで見てるからわかります。『鍛冶屋なら簡単』と言いますけど、審査士さんは、剣を実際に作ったことあるんですか?」

 と、僕は聞いた。


 ユイさんはいつも、寝る時間も惜しんで、新しい武器防具を作成している。

 でも……。


「そんな面倒なこと、あんたらがやればいい。なんで私が? ふざけてるの?」

 と、イクシ審査士は言っていた。そして返す刀で。


「ヨージさん……でしたっけ? アレグリアさんに変な入れ知恵はしないで頂きたい。面接をする時間も無駄にかかりますし、私の仕事の処理件数が少なくなるじゃないですか。それで私が出世を逃したら、あなたどう責任を取ってくれるつもりですか?」


(技術の内容より、自分の出世が優先か……)

 井の中に、なんだか酸っぱいものを感じた。


 ともあれ、結果として。


「話はこれで終わりです。次の重要な案件もありますし」

 と、僕らは、追い立てられるように退出させられた。


 拒絶査定は覆らず。


 それは……もしかして。

 最初からそう決まっていたことなのかもしれない。


 ◆


 イライラしたときには甘いもの。これは鉄則と言っていい。

 王国のパテソト庁には、来客用の待合部屋も、ちょっとした売店もあった。

 果物のジュースを買い、凹んだままのユイさんに渡して、座り込んだ。


「セソトラルまで出てきて、こんな扱いなんだよね……」

 と、ユイさんは嘆いた。


「すみません。僕が『面接だ!』なんて、調子の良いことを言ってしまったせいで……」


「ううん? 気持ちが、ありがたかったよ」

 疲れた顔で微笑むユイさんを、ギュッとしてあげたい衝動に駆られたけれど、その辺りはグッとこらえた。


「どうしましょうね……この後」


「ヨージは、タスクさん達と夜に落ち合うことになってるんだよね? クエストに行ってらっしゃい? 私は……先に家に戻ってるから」


「いや……1人で帰るのは危ないですよ。ここに来るまでも、モンスターに何度も出くわしたでしょう? 当初予定どおり、クエストを終わらせてから、一緒に帰りましょう」

 と、提案したけれど、ユイさんは口を真一文字に結んで、首を大きく横に振った。


「私……この場所にはもう居たくないな。家で金属を叩いてた方がずっと楽しいから……」


(よっぽど、ショックだったんだな……)


「うーん……」

 僕が、どうやってユイさんを引き留めようか、考えを巡らせていたら。


 さっきのイクシ審査士が、面談の間からひょっこり出てきた。 

 せかせかと歩いている。


(?)


 入口の方向へと、審査士は大声をあげた。

「ようこそお越しくださいました! ポジロリの先生でいらっしゃいますね?」


「ああ。面接というから、やってきたのだが」

 低くて渋い声の、若い男性がそう言った。


 今、このパテソト庁に着いたばかりのようだ。その若い男性は、ジャケットに刺繍が入っていたり、ベルトにキラリと貴金属? があしらわれていたりと、見るからに、平民とは違う感じだった。縦長の顔で、なにより、鼻が三角なのが印象的。


 明らかに年長と思しきイクシ審査士は、恭しく頭を下げる。

「わざわざ庁までご足労頂き、まことに恐れ入ります。是非、直接お耳に入れたい話がございまして」


「パテソトの審査の件と聞いているが?」


「ええ、その通りでございます」

 イクシ審査士は背をかがめ、文字通り低姿勢になって、面接の間の方を手で示した。


「お陰様で、ポジロリ様の件、20件程まとめて、権利化する為の筋が整いまして」


「ほう」

 貴族然とした、「先生」と呼ばれた若い男性が、大して驚いた様子もなく、アゴを触っていた。


「我々審査士側で、無事、有利な効果を見つけ出しました。無事にパテソトの方向に持ち込めると思います。ついては、修正個所のご相談を……」


 と、揉み手をするイクシ審査士が、僕らの存在に気づいた。

 目線をチラリと、こちらによこした審査士は、若い男性に「しばしお待ちを」と一礼したあと、ツカツカとブーツを鳴らしながら僕らの方へとやってきた。


「お前たち、まだいたのか? ポジロリ様の偵察のつもりか? 意地汚い奴らだ。さっさとここから立ち去れ」

 と、まるでハエを追うが如く、両手を払った。


(な、なんだよそれ……)



 ――面接が終わる頃には、とっぷりと日も暮れて、街の灯りを見ながら「ユイさん、話してみて、よかったね」と、にこやかに会話する。


 そんな展開を少しだけ妄想していたんだけど。現実には。


 石造りの建物を出ても、まだ日は明るく。

 行き交う人は、僕らに目を合わせることもなく。

 

 ただただ、失意だけを手に、僕らはパテソト庁を去った。



 いや。ひとつだけ収穫があった。


 それは。

 この異世界も、「公平」などではないということ。


 ポジロリ家のように、力の強いものがより優遇される。

 そんな自然の摂理をベースにして、世界ができているという、そんな気づきだった。 


 出来ることなら、気づきたくなかったなぁ……。

 崩せないかなぁ……自然の摂理……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る