20. 覚醒の時

「そんな……!」

「タスク! タスク!」

 後衛から聞こえる。


 一瞬、後ろを振り向くと、足のすくんだミハと、ペタリと座り込み震えているミオウの2人が居た。


「タスク!」

 僕が呼びかけると、タスクの腕がピクリと痙攣けいれんした。


(生きてる!)

 僕は、体が勝手に動いた。


 ミノタウロスが、まだ息のあるタスクを標的に定めて、アックスを真上に振りかぶったのが、横目に見えた。


(とどめを刺すつもりか!)

 タスクは動けない。

 後衛の2人は、タスクという『頼みの綱』が突然切れて、フリーズ状態。


 そんな状況下で、前衛に居る僕が取れる行動は、たった1つだった。

 悩むことすらない。


 つまり――。


 ズズウン!!


 振り下ろされたミノタウロスのアックスが、地面に突き刺さる。

 その地面とアックスの間にあるはずの、タスクの体は無い。


(ぎ、ぎりぎりだった……)

 タスクの体を捕まえて、僕は「横に転がるように飛んだ」んだ。


 背中にものすごい風を浴びた。アックスが起こした風圧。

 砕けた地面の破片がいくつか、無貌の鎧に当たった。ダメージは感じない。


(攻撃が大振りなのが、助かる……)


 タスクを抱え、少しでも後退しようとする。


 対するミノタウロスは、追撃の姿勢を見せた。


 幸いなことに、タスクが受けたダメージは、アックスで体を切断されたわけではなく、打撃によるものだ。息もある。


 このまま後衛まで引っ張って行ければ、ヒーラーのミハに回復してもらえるけれど、それには時間がかかる。


 そしてそれ以前に。

 後衛に着く前に、敵モンスターの、次の攻撃が来る。


 牛頭の巨人は、地面に埋まったアックスを引っこ抜き、こちらを向いて構え直した。その眼が、こちらを見ていた。


(やばい! ヘイトがまだタスクに向かってる?)

 そう感じた僕は、タスクを


(ごめん!)

 心の中で、そう言って。


 そして僕は、前に出る。


 



「ミハ! タスクの救助、回復を! ミオウ! 援護射撃おねがい!」



 眼前にある祭壇。それを覆い隠すような巨体を睨みつけながら。

 背中越しに、こんな大声は出したこと無いって位の声で言った。


 それはなぜか?


 今、戦う意志を見せる事が出来ているのが、この場では僕だけだから。

 新人だからとか、弱いからとか、言っていられる状況か?



「う、うん!」

「了解!」


 後衛で2人が動き出したのが、音と気配で分かった。

 僕の眼の前には牛巨人が攻撃態勢を取っている。振り返る余裕なんかない。


「任せる!」

 僕は、そう付け足した。


 元居た世界でやりこんだ、ゲーム知識に当てはめてみる。

 この状況での僕の役目は……いわゆる『タンク』だ。


 敵モンスターのヘイトを、タスクから僕へと移して、前衛として攻撃を受け止める。後ろに漏らさない。


 その間に、後衛側で、タスクの回復を。

 みんなになんとかしてもらう。


(僕で……出来るのか……?)


 正直、不安しかない。

 学生の喧嘩ですら、一歩も動けなかったというのに。


 でも――。


 やるしかない!

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