第2話:血に飢えた女

Day1

色んな店があるな…しかしどうしたものか…


どこもかしこも下らなくどこまでも無価値なものしかない。やはりこんなところに来るのは無意味だったんだ。一番奥まで来たが特にめぼしいものや惹かれるものはなかった。このまま帰ってしまおうかと踵を返そうとした…


その時だった。


「いったっ!」


突然何者かに腕を切られたかと思ったら口を手で塞がれた。


「大人しくしろ。いいからついて来い、でないと殺す。」


何を言ってるんだこいつは?殺人はいけないんじゃなかったのか?

それともそんなルールはクソくらえだとでもいうつもりか?

まぁ、その方がイメージ通りの闇市場だ。


周りの奴らはそんなに驚いていなかった。まるでまたか…というような眼差しで特に騒いだり止めたりすることはなかった。


黒髪ロングで前髪で鼻まで隠れてしまっている。何故か透明の雨合羽を着ていた。血しぶき対策なんだろうか。


流れる血はこいつの店まで続いていった。


そこでようやく解放された。


目の前に広がっていた光景はあまりにも惨たらしくグロテスクな有様だった。


血液、ありとあらゆる臓器が無修正のまま私の右目に飛び込んできた。今両目じゃなくてよかったと心から思った。


「アンタ…全然騒がなかったな。」


「それよりもとりあえず止血してくれないかな。」


「駄目だ。その血がいいんだからさ…」


あ、こいつヤバい奴だ。10割サイコパスだ。断言出来る。


「お前は私じゃなくてあくまで血液に意味を見出しているってことだな。」


「あぁ、そうだ。実にグレイトだ。」


…理解出来ない。


こいつの性癖はともかくなんで私をパッと見ただけでそんな判断が出来たのか。

そっちの方が理解出来ない。サイコパス特有のあれか?だがこんなことをして興奮して幸福になって…だから何だ。その先に意味はあるのか?


いや、こいつに意味なんか必要ないんだろう。意味を見出そうとする行為こそが無意味だとでも言いたいんだろうか。もっと素直に生きろと?狂ってしまえばぶっ飛んでしまえば楽になれるとでも?


……馬鹿馬鹿しい。


本能のまま生きるのも悪くないのかもしれないが、生憎私はそういうタイプではない。幼い頃からずっとそうだったんだ。それを今更変えられるとでも?

そんなにうまくいったら人類人生皆ハッピーだろうな。ま、秩序は間違いなく崩壊するだろうがな。


「…おい。」


「あ、あぁ何か様か?血が欲しいのか?だったら好きにしろよ。お前にいくらでもくれてやる。」


そんなに考えることが馬鹿な行為だというのならもう思考停止してやる。

馬鹿だと哂えばいい。ある種の脳死だな。


「……アンタ……変わってんな。というかアンタみたいなやつ初めてだ。」


「お前には言われたく…ねぇよ。」


すっかり忘れていたがまだ腕から血が流れていたんだった。貧血気味になって来た。

血生臭さが増幅し嗅覚が麻痺していく。もういっそこのまま死んでも…


「…今、止めてやる。」


そう言って応急処置を施した。痛みは感じなかった。ただ、少しばかり眩暈が続いているだけだ。むしろこんな光景をセルフ修正加工出来るんだから好都合だととらえておこう。


「アンタ…見たことない顔だな。ここに来たのは初めてか。」


「その通りだが、何か問題でも?」


「その目は死んだ目をしている。生きる希望を失いかけたそんな目だ。」


「…だから何だってんだよ。大体お前ちゃんと見えてんのかよ。…見えてなきゃこんなこと出来ねぇか。」


「…その左目はどうした。」


「自分で抉った。」


「……そうか。その左目持ってるなら俺が買い取ってやるよ。」


一応持って来てはいる。何かあった時に金にする様にだ。だが…


「持ってない。自分で踏み潰した。」


敢えて嘘をついた。こいつがもう一度私の目を見て見抜けるかを知るために。

これはただの気まぐれだ。


「……はぁ。残念だな。いつもより2倍の価格で買い取ってやろうと思っていたのに。」


「別に…金は要らねぇよ。あったところで使えなきゃただの宝の持ち腐れだからな。」


「そうか……なぁ、アンタ本当は持ってるんだろ?なんで隠すんだよ。」


「嫌な思いをした当てつけってところかな…」


「アンタ、まだ死んでねぇな。」


「………。」


サイコパスだと分かった上でそんな奴とこんな会話してる時点で私もかなり頭おかしいな。


「お前、殺人鬼とかなんだろ。そこにあるやつも全部そうか?」


「そうだ。人の命を奪うことで別の命を救うっていう中々皮肉が効いているだろう。ま、俺にとっては血液以外は至極どうでもいいんだかな…」


その言葉を待っていたのかもしれない。


こいつは血液という命の泉を欲しているだけでその水源がなくなれさえすれば。

私と同族に成り下がる。

いくらこの思想が変わらない存在であろうとも、同士がいればもう何も怖くない。


なら、私がとる行動は一つだ。


お前に罰を与えてやる。


今のうちにお前の犯した罪の数でも数えておくんだな。


「……そろそろ行くわ。……また今度来る………」


これは宣戦布告でありニヒリストによるプロパガンダだ。


さぁ、鬼さんこちら手のなる方へ…







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