第78話 林間学校「1-1」

 今度は六年生の時に行った林間学校らしい? 

時は8月初旬でお盆休み前になる。

翌週になるとキャンプ場が混む事、さらにその先は台風の発生、7月だと梅雨明けが遅れると悲惨だからだ。

最近は林間学校を行なう学校は余り聞かなくなった…… 

林間学校へ確かに行ったかなぁ、と記憶が曖昧だ。

やはり、薄く靄が掛かった様にはっきりとはしなかった。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 六年生の記念行事は後二つを残すだけとなった。

秋に行なわれる修学旅行と夏の林間学校だ。


さとる達は夏休みになり、林間学校の準備を行なう。

と言っても、簡単な調理や釣りなどのアウトドアに必要な技術の習得…… 

いや、さとるにとっては再確認かな?


さとるは六年生の割には色々な事が出来た。

料理も釣りも、火起こしもだ。

焚き火も技術が求められるって知っていますか?

なに? 「単純に木を置いて火をつけるだけだろぉ! 」

そう思っていたら、いつまで経っても食事は作れませんよ。

ましてや、野営なんかは出来ませんね。


釣りも同じです。

釣り糸を結ぶのも、糸によって技術の使い分けが必要です。

「糸なんて、ただ結べは良いって? 」

そう思っていたら、魚は釣れませんね。

と言うか、その前に釣り針さえ結ぶ事が出来ないでしょう。


それはさて置き、 暫し、過去にお付き合いを。

「誰に言っているの? 」

「君にも、暫く付き合ってもらうよ 」


    ◇    ◇    ◇    ◇


木乃葉このはさん、上手ねぇ 』

さとるの母が木乃葉このはに包丁の使い方や、調理を教えていた。

木乃葉このはは両親が居ない。

そして、引き取った宮司夫妻は神社の日々の奉仕・・もあり、あまりこう言う時間が取れないのだ。


「はい、亡くなった母に教えて頂きました 」


『そう、じゃぁ、包丁の使い方とか、簡単な料理は大丈夫みたいね。

もうすぐ皆来るでしょ、準備が出来たら、アウトドア料理を体験しましょね 』

そう言って外の様子を窺った。

外ではさとる沙弥華さやかが火を起こす準備をしている。

二人は薪を数度割り分け、焚き付けを作るところから始め、いまは大きな薪を二つに割り中位の薪を作っていた。


夏の林間学校の前準備として、本番前に各班で自主訓練を行なうよう宿題が出されていた。

当然、夏休み前には各班に振り分けが済んでおり、学年担当の教諭からは確認シートと呼ばれるチェックシートが配布されていた。


その内容は、林間学校で行なわれる作業に沿った家族等による実習と、その習得を採点されると言う物だった。

採点と言っても、「出来ない」、「補助があれば出来る」、「一人で出来る」、「人に教えられる」、の五段階である。

最低ラインは当然の事ながら、「補助があれば出来る」になる。

実習自体は、一学期の後半に各作業に沿った授業が数回行なわれており、そのフォローや最終確認的な意味合いが強い。

とは言え、出来ない子はやはり出来ないのだが、出来ないと言うよりも、その作業への興味が薄いのだ。


その作業への面白さや、その先にあるものが見出せると違うのだろうが、学校の事前授業レベルでは中々そこまで気付けないのが普通で、その辺を教師や学校側も理解をしている。

そのため、一部の父兄より「夏休みの宿題」として教えてはどうかとの意見があったのだ。

この地区は、自衛隊や米軍の駐屯地が近郊にあるなど、場所柄アウトドア関連に強い父兄が多かった事もその試みを後押ししたのだ。

対象は四年生から六年生になっており、六年生は必須。四年生と五年生は選択式の宿題である。

実際、昨年より実施されており、ある程度の効果があった事から今年も実施されていた。

また、子供たちも普段出来ない体験が宿題という事もあり、進んで学ぶという好循環も生んでいた。


とは言え、其処は仕事を持つ親達なので時間の空いている者が当番制で教えていたのだ。

受講期間が一週間設けられ、事前に一日を予約する事で自主訓練を行なう。

学校の授業の延長という事もあり、学校のグランド等施設を使用しての本格的なものになる。

今日の教師役はさとる達の両親であった。


 今日の集合場所は自宅とし、先に調理等の実習を自宅で行なう。

本来は学校の実習室にて行う事も出来るのだが、さとるの両親は自宅で教える事にしたのだ。

その後に学校の体育館へと移動して夕方からテントの設営講習の予定だった。

本来は全ての講習をグラウンドで行なうべきなのだろうが、日差しが強く熱中症の心配が囁かれている昨今、安全のために体育館で行なう事になっていた。

タープを張る際に本来使用するペグ等の問題はウェイトを利用し回避する。

タープ設営で重要なのは最初のセッティングが肝だからそれを先に行い、夕方に日差しが緩くなった時点で、ペグ打ちのコツの教育や実技を行い終了となる。


さとる、初日のお昼はお弁当で、夕食はカレーよね。

二日目は何を作るかは決まっているんでしょ? 』


「うん、朝は各班自由で決められた金額で用意するように言われてるよ。

一人100円までかな。 七人だから700円だね。

フレンチトーストとかホットドックにスープでどうかと思っているけど。

夕食は釣った魚とか色々かな。 」

さとるが林間学校の案内を確認しながら答えた。


『じゃぁ、最低でも卵とパンは要るわよね。 調味料は支給されるのでしょ? 』


「はい、基本的なモノは支給されるそうですよ。

香辛料とお味噌にコンソメや鶏ガラスープの元があるそうです 」

木乃葉このはもプリントを捲りながら答えた。


さとる、他の子達はまだか? 』

父が問いかける


「まだ、約束の時間より少し早いからね。 もうすぐ来ると思うよ 」

さとる達の班は七人だった。

さとる木乃葉このはの他に男子が二名、女子が三名だ。

三名の女子は春祭りの時に、さとるが囲まれた子達で、男子はさとると仲の良い子達だった。

五人ともに幼少の頃からの友人達だ。


林間学校で用意されるテントは当然の事ながら、男女別に各班二張りが用意されている。

それも自分達で設営をする事になる。 レクタングラータープを一張りドーム型テントを二張の設営。 大人でも一時間少々は掛かる筈であり、そのため、初日の昼食はお弁当が用意されるのだ。

と言っても、それは昨年の事であって今年は少し趣が変っていたのだが。


五人の友人を待ちながらさとる木乃葉このはは、確認シートに視線を落とし、これからの予定に意識を向けるのだった。

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