第77話 子供の日、春祭り、花祭り
今、追体験しているのは小学校六年生の頃の事らしい?
時は五月初旬で月が替わったばかりの
久しく聞いていなかった言葉だ。
薄く靄が掛かった様に、はっきりとはしなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
午後の授業を終え、放課後の体育館には6年生が集まっていた。
最近建て替えられたばかりの体育館には、芳しい木の香がまだ残っている。
建て替えに際して地場の木材を使う事が県と町の指針であり、それに則した設計がされたからだ。
場所柄、災害時には避難場所ともなるため、体育館には併設してディーゼル発電機も設置されていた。
LED照明が煌めく中、綺麗に整列した生徒達へと担当教諭が何やら伝えている様だ。
少子化の波はこんな田舎町にも及んでおり、多い時は4クラス有ったものが、今はやっと2クラスである。
1クラス23人の生徒、2クラス合わせても50人居ないのだ。
男の子よりも若干だが女の子の方が多く、偶然にも
春に出会ってから一月が経ち、二人は仲の良い友達となっていたのは自然な流れであろう。
「は~い! 皆は良く頑張りました! 明日は本番です。
練習通りに出来れば問題ないのよ。 だから自信をもって臨んで下さい。
明日はこの体育館へ一度集合します。
着替え等の準備を行い神社の社務所前に移動、その後は時間になったら演舞の開始になります。
多少時間は前後するかも知れません。 余裕をもって行動してくださいね!
今日は早く休んで明日に備えて下さい。
忘れ物が無い様、帰宅後にプリントをもう一度確認してね。
では、解散です! 」
「「「「「はい! 」」」」」
元気な返事を皆で返すと、蜘蛛の子を散らした様に帰路へとつく生徒達。
明日は、五月五日で、端午の節句、子供の日、そして神社での例大祭 斎行が開催されるのだ。
明けて翌朝、担任教諭が点呼をとる。
欠席者は居ないようだ。
「では、これから移動します。
一組から順に移動して下さいね! 」
最初は子供会三~四年生による子供御輿でスタートする。
各地区の子供たちが御輿を担ぎ練り歩く。 募金箱を持つ子や祭り団扇を扇ぐ子と様々だ。
次いで、地元自衛隊の楽団によるマーチングバンド、その後を五年生による金管バンドによる行進と続き、
その後を10歳前後の子供が参加する「稚児行列」が可愛らしく着いて行く。
沿道には、我が子の姿を写真や映像に収めようと、親達が手を振りながらシャッターを押していた。
そしていよいよ、
「では皆さん! 張り切って踊ってくださいね! 」
「私、大丈夫かしら…… 」
この日のために、他の生徒達は5年生の2月から練習を開始しているのだから、余計に心配になっているのだと思う。
「大丈夫!
「本当に? 」
う~っ! この表情は卑怯だよ!
そんな事を思いながら返事を返そうとすると背後から声が掛けられた!
「大丈夫よ! 自信を持ってね! ほら、哲君もハッキリ言ってあげなさよ!」
同級生の女の子が
「なにを!? 」
更に、女子が左右から
「本と! ハッキリしないわね! 」
「そうよ! ハッキリ言ってあげなきゃ! 女の子はね、
「えぇ! だ、だから何を? 」
そんな状況じゃないだろ! 学校行事の最中になんて!
三人の女子に囲まれ、問い詰められる!
「「「だから! 可愛いって! 綺麗だって! 言ってあげなさいよ! 」」」
「「…… な! 」」
「本とに、 しっかりしなさいよ! 周りからはバレテルの! 」
「そうよ!
「そうそう! 結構人気あったのに…… まあ!
「「「6年女子は皆知っているの! だから諦めて! 言ってあげなさい! 」」」
知らぬは当人ばかりなり……
諦めた、 そう、
「こ、
だから、じ、自信をもって踊って欲しい……なぁ…… 」
「へぇっ!? にゃに…… き、綺麗って…… 」
「う、うん。 あ、有難う…… 頑張って踊るから。 その代わり、夜は一緒に縁日に行ってね 」
それを聞いていた6年女子から歓声が上がった!
それに比例するくらい、男子からは悲鳴が上がったのだが!
そのせいなのか、6年生の演舞はキレッキレの物で、大いに盛り上がり、沿道の卒業生をも巻き込んで最高のパフォーマンスを発揮した!
後に続く隣町や近県からの
その場に居た人達は、何とも言えぬ高揚感に包まれ踊りをたのしんでいた。
その様子は夕方の地方ニュースや全国ニュースで取り上げられる程であったのだ。
その後も、その映像はネット等にも拡散されたのだが、ある時を境に人々の記憶から消え去る事になる。
忘れた事すら思い出せない、何者かが人々の記憶を消し去ったかの様に。
最後は、地元青年団による御輿で締められる流れだ。
昼の部が終ると、夕方からは夜の部がはじまる。
神社には縁日の出店が出、大きな舞台も設えて様々なパフォーマンスが行なわれた。
縁日を楽しむ人々の中には、手を繋ぎ俯き加減の少女の手を、ぎこち無く引く少年の姿があったのだが。
それも、今は誰の記憶にも残っては居なかった。
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