第72話 紅蓮との合流そしてローベンシアへ

 紅花べにばなは、弾丸列車バレットラインの車内から時空へと跳躍した。

向かった先はアルヌスの中央教会

『まったく、あの馬鹿! 』


虚空へと現われた紅花べにばなは、アルヌス上空より紅蓮ぐれんの魔力を探った、


『…… 何処に居るの? これ? か…… しら? いた! 』

微かな魔力を掴むと、紅花べにばなは其処へと目掛け急降下する


『まったく、魔力切れで治療も出来なかったて事? 

て…… これは酷いわね!! 』

紅蓮ぐれんの倒れている尖塔に降り立つと、言葉を失った。

その姿、受けた傷が余りにも酷かったから……

身体の前後から剣戟を受けたのか、骨まで達する刀傷が胸と背中に斜めに走っていた。

身体を捻る事で、深くまで傷を負わない様にしたのだろう。

その傷は普通では入りえない角度で身体を抉っていたのだ。


紅蓮ぐれん!? 駄目ね、気を失ってる。

魔力も枯渇寸前じゃない。

それにしても、魔力体・・・にまで到達する傷を負わせるなんて。

今のままじゃ不味いわね…… 白銀しろがねと相談が必要かしら 』


紅花べにばなは、倒れている紅蓮ぐれんを抱き寄せると詠唱をはじめる。

無詠唱の魔法では、魔力体の傷が癒しきれないからだ。


『我は命ずる、天使の歌声、癒しの旋律。

我は願う、女神の歌声、癒しの聖歌。

世界に廻りし生命の息吹よ、ここに集え、彼の者を癒さん!

聖歌の癒しホーリーソング 』


淡い燐光が紅蓮ぐれんを包み、傷を癒しはじめる。

光が掻き消えると、其処には傷一つ無い紅蓮ぐれんの姿があった。


『とりあえずは…… 戻りましょうか 』

そう呟くと、紅蓮ぐれんを抱き抱えたまま紅花べにばなは虚空へと消えた。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 弾丸列車バレットラインの車内では


「奥様、こちらを 」

年嵩の執事らしき人物が、ラフレシアへとメモ? を手渡した。


ラフレシアは、それを受け取り目を通すと、其の視線を車窓へと向け呟く

「そう…… 」


「お祖母様? どうなされたのですか? 」

ラインハルトはラフレシアへと問掛ける


紅花べにばな様はお戻りにならないそうよ。

改めてお越しになるとの伝言よ 」

そう答えるラフレシアは、残念さと心配とが入り混じった

複雑な表情をしている。

「お祖母様? またすぐにお会いできますよ! 」


「えぇ、その事では無いのよ…… こちらに戻る事が出来ない状況・・・・・・が有ったと言うのが重要なのよ 」


「あの方達の身に何かが有った!? 」

ラインハルトは表情を強張らせる。


「恐らくは、そう言う事でしょうね。

今は…… 紅蓮ぐれん様だったわね。

深い傷を負った? と考えるのが良いのかしら……

予測だけれど、そのために白銀しろがね様の所へお戻りになったのでしょうね 」


「お祖母様? あの方達に傷を負わせた者が居ると!? 」

ラインハルトは紅花べにばな達の強さを知っていた。

そのための驚きだった。


「ええ、居るのでしょうね。 

それに…… 以前の強さを今も、と言うのが違っているわよ 」


「違っている?? 」


紅花べにばな様の魔力…… 

いえ、存在感と言ったら良いのかしら?

以前の半分以下よ。

それでも、人のそれとは次元が違うのでしょうけど 」


「私には判らなかったのですが 」


「貴方に判られたら、私の立場が無いわよ?

これでも賢者・・と呼ばれていたのよ 」


ラフレシアは車窓の景色を眺め、

「もうすぐね…… 」

と呟いた。

流れ行く車窓は、間も無く中央府へと到着する景色に移り変わっていた。


    ◇    ◇    ◇    ◇


紅花べにばな紅蓮ぐれんを抱き抱えていた。所謂お姫様抱っこである。


今二人が居る場所は、ヘルヴェスト連邦とローベンシアの国境付近だ。

時空跳躍で一気にローベンシアの中央府に飛ぼうとしたのだが、異常な魔力を感知したため地上へと降りたのである。


幸いな事に、紅蓮ぐれんは意識を取り戻していた。

ただ、自身の脚で立つ事が出来る状態ではなく、お姫様抱っこされた状態であったが……

『さっきの波動、沙弥華さやかみたいだけど 』

ここまで届くほどの魔力…… 何が


『サヤねえ? だよね。 あの魔力…… 』


『あなたもそう思う? でもねぇ、考えられないわょ 』


と、その時!


『あれは……なっ!! なにっ!? 』

突如としてローベンシア中央府の上方へと巨大な魔力を感知した。


天空には巨大な雲が渦を巻き、中央にはポッカリと開いた孔が開いている。

その穴は、禍々しい波動を放つ瞳の様であった。

その空いた孔の向こうから、地上へと強大な殺意が注がれはじめた!


次の瞬間、眩い閃光と共に轟雷の如き大音響が響き渡った!

天空だけで無く紅花べにばな達が立っている大地までが揺さぶられた!!


神の一撃!? それ程の威力を秘めている様に感じたのだ。

『あれは、不味いわね。 もう、ここからじゃ間に合わない! 』


『紅ネエ! あれは、不味い! 奴らと同じ感じがする…… 』

紅蓮ぐれんは、自身に傷を付けた鬼達と同じ気配を感じた。


『あなた、あれと同じ奴にやられたの? 』

紅花べにばな紅蓮ぐれんへと視線を向けた


『同じ奴じゃないと思う。 でも、気配が似ている…… 』

二人は歯噛みした、今からでは間に合わない。

ましてや、紅蓮ぐれんは傷を癒しきれてはいないのだから。


今は唯、その光景を眺める事しかできなかった。


 天空より照射されたソレは、魔力障壁と接触すると、硝子を砕く如き破砕音を響かせながら、地上へと進撃していた。

上空へと多重に張られた魔力障壁が次々と砕かれ、破砕の余波により辺りが揺らめいて見える。


二人はただ、破砕される障壁を眺め立ち尽くす。

ふと、紅花べにばなが呟いた。

白銀しろがねが詠唱を完了したわね! あれは…… 冥府への顎門を開けゲート・コネクト・アビスかしら 』


天空から地上へと目掛け殺到する殺意の篭った眩い閃光が、轟雷の如き大音響と共に冥府の顎門アビスへと吸い込まれて行く。

鬩ぎ合う殺意と、阻まんとする暴食ケルベロスの力が、轟音を轟かせ世界を揺さぶる!!


だが、殺意の閃光を喰らいきる事が出来ないのか、冥府の顎門アビスが悲鳴を上げ始めた!?


『紅ねえ…… まだ、あれじゃぁ、足りない…… 』

紅蓮ぐれんが悔しさを滲ませた。

其処に行けない自分の不甲斐なさに……


『まだ大丈夫! あれはリリスね! 』

白銀しろがねの魔法へと重ねるように、天空に顕現あらわれしは三柱さんにん天使みつかい

八翼を広げ三方より銀の鈴のように澄みとおった声歌を紡ぎ、攻聖防壁シールドを展開した。


展開された攻聖防壁シールドに減衰され、冥府の顎門アビスに吸い込まれて行く殺意の閃光・・・・・

其々が鬩ぎ合い、その軋みが大音響となって世界を揺さぶる!!


『あれでも、まだ防ぎきれないの! 』

紅花べにばなが悲壮な顔を覗かせた! 

しかし、次の瞬間、新たな魔法を感じ取った?


『あれは? ……紗弥華さやかなの!? 』


天空へと向かう一撃!…… 顕現あらわれるは終焉の一撃ラグナロク


天空に開いた邪眼に向け、二条の光・・・・が貫いた!!!?


一条は沙弥華さやかが、もう一方は白竜が放った物だった!?

突如天空へ白き竜が現れ沙弥華さやかの放った一撃に併せるように、高密度の聖竜の咆哮ドランゴンブレスを放ったのだ。


轟音が響き渡り、幾つもの破砕音と悲鳴の如き擦過音? を響かせながら、辺りを白く眩い光で染め上げていく。

どれ程の時間、轟音が世界を支配したのだろう…… 突如、音が止んだ。


一瞬の静寂のあと、ダウンバーストの様な現象が起き、天空より降りしきる雪のように落下して来るのは魔力の残滓! 

魔力の残滓は障壁へ衝突すると砕け散った!

雷鳴の様な破砕音を轟かせ、砕けた破片が榴弾の如く周囲に飛び散っていく。


『あれは、白竜…… 彼女が来たのね 』


『紅ねえ、皆の所へ早く行こう 』

頷くと紅花べにばな紅蓮ぐれんを抱き抱え虚空へと消えた。

皆の待つローベンシアへと。

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