第64話 贈り物

  湖畔に佇むのは、白く透き通る長い髪の女性だった。

彼女は北西を見詰め呟く…… 

『これは…… なにが起こったの!? 

この波動は、嫌な予感しかしないわね。

不味いわ! 間に合うかしら 』


女は魔力を高め全身に纏うと、北西を目指して空間を跳躍した!


    ◇    ◇    ◇    ◇


 紗弥華さやかは焦っていた、間に合うか!? 

「(まだ詠唱は終わっていない!! ) 」


其の時! 室内へ声が響いた!


『させないよっ!! 』

そこにはリリスがいた。

天空を睨み、その手を天へと翳す《かざ》と詠唱を紡ぎ出す!


『清き乙女の祈り、響き渡れ幸福の音叉メロディー、邪悪な波動よりこの者を護れ。

響け! 女神の歌声ラヴ・ソング 攻聖防壁シールド 』


 天空に顕現あらわれしは三柱さんにん天使みつかい

八翼を広げ三方より銀の鈴のように澄みとおった声歌を紡ぎ、攻聖防壁シールドを展開した。


展開された攻聖防壁シールドに減衰され、冥府の顎門アビスに吸い込まれて行く殺意の閃光・・・・・

其々が鬩ぎ合い、その軋みが大音響となって世界を揺さぶる!!


「まだ…… これでも足りないの!? 」

沙弥華さやかが呟く……


三柱さんにん天使みつかいへと聖性を注ぎながら、リリスが沙弥華さやかを見詰める。


紗弥華さやかは残された詠唱を紡ぎ、魔法を行使した!!


「黄昏に一人佇み、全てを終焉おわらせる一撃を放て!!

黄昏の鎮魂歌ラグナロク・レクイエム 」


詠唱が完成した! 


そして…… 顕現あらわれるは終焉の一撃ラグナロク


天空に開いた邪眼に向け、二条の光・・・・が貫いた!!!?


一条は沙弥華さやかが、もう一方は白竜が放った物だった!?

突如天空へ白き竜が現れ沙弥華さやかの放った一撃に併せるように、高密度の聖竜の咆哮ドランゴンブレスを放ったのだ。


轟音が響き渡り、幾つもの破砕音と悲鳴の如き擦過音? を響かせながら、辺りを白く眩い光で染め上げていく。

どれ程の時間、轟音が世界を支配したのだろう…… 突如、音が止んだ。


一瞬の静寂のあと、ダウンバーストの様な現象が起きた。

落下して来るのは魔力の残滓! 

高高度から落下する残滓が、残された魔力障壁へと殺到する。

魔力の残滓は障壁へ衝突すると砕け散っる。

雷鳴の様な破砕音を轟かせ、砕けた破片が榴弾の如く周囲に飛び散っていく。

その光景は地表でスターマインが炸裂したような閃光を撒き散らした。


破砕音が止み、静寂が再び訪れた。

広範囲の障壁に護られていたお陰か、周囲にそれ程の被害は無かったが、防壁の修復には時を要する事になるだろう。


 


沙弥華さやか殿…… これは一体 』


「シロ君、ちょっと待って。 お兄ちゃんは……

手遅れね……覚醒してしまうわ 」

沙弥華さやかは横たわるさとるを見詰め呟いた。


沙弥華さやかさま…… ? 』


「シロ君、リリちゃん、皆は大丈夫かしら。 

外のフレイアさんも連れて来て貰えるかな 」


『フレイアさんとお会いした事は無いのでは? 』

リリスが疑問に思い、沙弥華さやかへと尋ねる。


「観ていたのよ、 全部ね。 皆が集まって、落ち着いたら説明するわ 」


    ◇    ◇    ◇    ◇


 アロイス帝国の王城の一室には、二人の女性に男性が一人居た。

天蓋付きの豪奢なベット上で一組の男女が睦言を交わし、もう一人の女は部屋の隅に佇んでいる。


ベットの上の女性はアロイス帝国皇帝「エリザヴェート・アロイス・ラシウス」

男はアロイス帝国唯一の勇者である「キリム・ゲヘナ・ロイスター」であった。


 その傍らの女性は「アンク」と言い、フードの付いた貫頭衣かんとういを着ていたが今はその顔を晒し、ベッドの上で絡み合う二人を、興味は無いといった素振りで、無表情ではあるが冷め切った目で眺めていた。


キリムは少し機嫌が悪かった。

遠隔視リモートビューイングで偶然見つけた・・を弄ぶ筈だった。

しかし、霊薬を産むは死に鼠には逃げられたのだ。


「奴め! しくじりやがって! 使えぬ鬼だ 」



『キリム様 たった今、東方に動きが御座いました 』

突如、何かを察知したのか、アンクがキリムへと告げる。


「そうか! 其の様子を観せろ!! 」

キリムは遠視の魔法で見せる様アンクに命令をすると、アンクは首肯し詠唱を行なった。


遠隔視リモートビューイング 』

と、虚空に映像が浮かび上がり、遥か東方の空が映し出される。

キリムとエリザは一糸纏わぬ姿で、浮かび上がった映像を眺めた。


そこに映し出されてのは、の一撃だろうか!?

天空に雲が渦を巻き、ポッカリと開いた孔はの瞳の様であった。

空いた孔の向こうから、眩い閃光と轟雷の如き大音響が響き渡り地上へと強大な殺意が注がれる。

この時を待っていたのか、キリムが歓喜に奮える! 


「あはっ。 あの方からの贈り物、アレは祝砲だぁ! 

エリザ、第一幕を開けるとしようか!

捧げる生贄は愚かな豚共だ!! 」

エリザとはエリザヴェートの愛称である。





「アハァ! 天からの祝福かしら…… 美しいわぁ 

あふぅっ…… 濡れてしまうわぁぁ 」

其の光景にエリザヴェートが恍惚とし嗤う。



「アンクよ、 エルマーの準備はどうなっている 」


『キリム様 ご指示通りに進み、後一月程で完了します 』


「そうか、 楽しみだ、完了後すぐに発動せよ!! 」


『仰せのままに。 では私はエルマーヘ向かいます 』


「「アンクよ、頼んだぞ(わよ)」」


アンクが消えるのを待たず、歓喜に酔いしれ二人は絡み合う……


「エリザよぉ~ 随分と濡れているじゃないかぁあ!? 

さっきのアレで興奮したのかぁ 」

キリムはエリザの蜜壷を指先で弄びながら耳元で呟く。

その指先は、ネチャネチャと溢れ出す愛液の卑猥な音を部屋へと響かせていた。


「もぉ! だぁめぇえぇ…… そっ、そうよぉ~そこよぉぉ、 

ご、ご褒美をぉ…… 早くっぅちょぉだいぃぃ 」

エリザヴェートはベッドの上で痴態を晒し、キリムの股間でたぎ肉塊・・を強請った。


だが、キリムは焦らす。

エリザヴェートはもう、我慢が出来ないと……その美しい白魚の様な指先でキリムのたぎる股間の肉塊・・まさぐり、その淫らな舌使いで舐りだした。

 

アンクはそんな二人を一瞥すると、無言のまま闇に消えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る