第56話 異形の者『紅蓮』 

 紅蓮ぐれんはフレイアと別れた後、港へと潜入する前に、エルマー王国首都を俯瞰して眺めていた。

聖霊である紅蓮ぐれんなら、本体を隠し意識だけを虚空へと飛ばす事も可能だ。


 エルマー王国は五区画に分割統治されていた。

中央には王都「エルマー」があり北側は海洋都市「オルカ」

ローベンシア王国と隣接し「ベルガ」ヘルヴェスト連邦と隣接した「ガリア」

ブリタニア公国と隣接し「ハルマ」となる。

紅蓮ぐれんは王都「エルマー」から北側の海洋都市「オルカ」を虚空から眺めて驚愕した。


「この国の人間は…… 本当に馬鹿か!? 」


    ◇    ◇    ◇    ◇


 エルマー王国に入ってから、移動中に数多くの道路工事などに出くわした。

余りにも広域で実施している事に違和感を感じたのだ。


付近で商店や食堂などでも聞き込みをしてみたが、この一年はあちこちで工事を行なっているとの話だった。

『おっちゃん! この工事は元々の計画なのかい? 』

紅蓮ぐれんは、果物を店頭で並べていた店主と思しき男性へと声を掛けた。


「いやぁ。 ここ一年で突然だよ。 困ったもんだ 」


「そ~よ。 どこに行っても工事してるから埃は立つわうるさいわ。

洗濯物も外に干せなくて困るのよぉ 」

買い物途中の主婦が会話に混ざる。


『ふ~んっ、 理由は聞いているの? 』


「なんでも、軍部のお偉いさんの指示らしいぞ。 

それもあと三ヶ月位で終わるらしいけどな 」


……三ヶ月か、戦争絡みか? でもなんで道路工事だ?


『ありがと! これ、リンゴの御代 』


「まいど! 釣りは無いね 」


紅蓮ぐれんはリンゴを齧りながら通りを進む。


『やっぱり、変だよなぁ 』 

違和感ありありだ。

小高い丘に面した公園に差し掛かり、ふと振り返った。


『なんだ!? これって…… 』


で、虚空から眺める紅蓮ぐれん


『う~ん。 やつらは何を考えているんだ? 

これはどう見ても「魔法陣」だよなぁ 』


眼下にはエルマー王国の首都が見わたせる。

王城を中心に五芒星ごぼうせいの魔法陣が形成されつつあるのだ。


南が星の先端…… 逆五芒星ぎゃくごぼうせいになる。

あまり良い使い方ではないのは、それを見て感じた印象だ。


これだけ大きいと、魔法陣と言うだけしか判らないな。

調べるにしても……。

「後回しにして、港へ行くか 」


判らないモノは仕方が無い、無為に時間は消費するべきでない。

気持ちを切り替え、紅蓮ぐれんは港を目指した。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 日が暮れた頃、港に侵入する。

人に隠したい事は、暗闇に紛れてとは、何時の時代、何処の世界でも変わらないらしい。


サトルにいが言っていた。この世界は魔法のせいで見方が偏っていると。

別の見方をすれば秘密も隠蔽も暴けると。


さて、何をしてみようか。

しばし紅蓮ぐれんは悩んだ。

普通は魔法で隠蔽したり錯覚させたりして誤魔化すのが普通だ。

結界など施したり魔力遮断などを使うと、かえって存在がばれてしまうからだ。


『たしか、赤外線? と言っていたかな。

人が発する熱を視覚化して視る事が出来るとか 』


後は? 人が多く居る場所は呼気に含まれる二酸炭素と熱が発散されると。

この世界の者はその辺を隠蔽したり誤魔化す事はしない。

いや、しないでは無く知らないから出来ないが正しい。


熱源探査ヒートソースエクスプロージョン

魔法で隠していないから見つけられるか…… サトルにいの言ったとおりだね! 』


と言っても簡単な事ではない。

紅蓮ぐれん達の様に膨大な魔力量があるから可能な手である。

なぜなら、港町一帯に対して全域と地下数十メートルへの深地温度探査なのだから。


深地温度探査はその名が示すように地表から数十メートルの深さにおける地中の温度を測定し、得られた温度分布により熱源や地下施設を推定する探査魔法で、さとるが各種魔法を組み合わせて創った複合魔法・・・・である。


『やはり、地下に変な施設があるね 』

深さが不自然だし、地下倉庫にしては深い…… 研究施設か?


紅蓮ぐれんは目星をつけた施設へと潜入した。


 と言っても、虚空へいったのと同じ手法で、本体から意識だけを飛ばし地下施設へと潜入した。


何故か判らないが、危機感があったからだ。

そう言う感覚は大事にする。 

 違ったらそれだけの事で、当たれば危険を回避できる確率がグンと上がるのだから。


結構深い構造物だった。

地下四階とは、この世界では一般的な物では無く高度な技術を要する。

それだけ重要な施設と言う事の証拠でもある。


『当たりだ! 』

紅蓮ぐれんが心の中で呟く。


そこには異形の者が、マグロの様に床へと並べられていた。

言葉通り、魚市場のように並べられ、その足の裏には記号が振ってある。


生きているのかは、ここからではわからない。

調べる手段は有るが、自分が発見される危険を犯す必要性は感じない。

それよりも、運ばれて行く先が気になった。


慎重に奥へと進む。

そこには錬成炉が床に大きく口を開け、運ばれて来た異形の者が放り投げられていた。


『もう一階分の地下があるようだ 』


そこへ意識を飛ばす、炉の下部から管が延びていた。

その管が幾つかに分岐し別の部屋へ入っていく、その先で小型の抽出器より、仄かに青く輝く液体が瓶へと滴下していた。


錬成炉を良く見ると、表面には魔方陣が描かれているようだが、見たことの無い紋様だった。

だが、微かに記憶に引っ掛かる? 


『フレイアを拘束していた呪術か!? 』

アレに似ている。


一本小瓶を気づかれぬ様に拝借し、時空間へと仕舞うと、上階へと移動した。

異形の者がどこから運ばれて来るのか、確認するためだ。


『アレは、もしかしたら? 』

嫌な予感しかしない。


幾つかに分岐した通路を進むと、また錬成室? らしき場所がある。

辺りを警戒しながら中を確認した。

嫌な予感は的中したよ……。


『やはり人間…… 犯罪者か 』

その二の腕には犯罪者特有の烙印が押されていたのだ。

犯罪者を集め、特殊な呪術で異形の者に変えている?


何故? 注意し観察すると、違和感が!

『魔力が人に比べると多い、人為的な先祖帰り「劣化した忌子いみこか! 』


だが、その姿は人のそれをかけ離れていた。

頭が人よりも大きく毛は無い、額が少し飛び出し耳は細長く尖っていた。

両の目がギョロリと見開かれ、口腔には牙が覗き見える。

背は百五十cm位に小さく、手足は細長いが痩せている風ではなく筋肉質だった。

下腹部が大きく膨らんだ不恰好な姿だ。

体色は人のそれと掛け離れ、薄青黒い色。


紅蓮ぐれんは知っていた、この世界には居る筈の無い種族・・・・・・・・………「無角鬼ゴブリン」だった。

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