第55話 暗闇での出会い『紅蓮』
と、言っても観光ではなく動向調査である。
聖霊である
そうなる筈だった!
◇ ◇ ◇ ◇
怪しい箇所が幾つかあったのだが、竜種の気配を感じて王城近くへと来ていた。
そこは遺跡と言った雰囲気の堰室だろうか?
石で出来た部屋の、その床は夥しい血で染め上げられていた。
其処には両の手足を鉄杭で架台に打ち付けられた者がおり、
その傷口から鮮血が滴り落ち、床を血で染め上げていたのだ。
その出血量は致死量を既に越えていると思える…… だが、その者はそれでも生きていた。
その者は少女だった。口元が苦悶に歪み、血が床へと滴り落ちる。
磔にあっていたのは人種ではなかったからだ。
「(なぜ?
『ぐふぅ……言う事を聞いたのだ! 母は無事なのだろうな!?
嘘であったなら、ぐっ……ふっ 許さぬぞぉ! 』
「ははっ! まだ、判らぬのか? 残念だったな。 そう言えば判るか? 」
男達が磔の少女を嘲笑う!
その瞳には狂気が渦巻いていた。
『なっ! 嘘…… 謀ったのか!? 助けると言っただろう! 言葉を違えたのか? 』
磔の少女が叫ぶ!
が男達は嗤いをやめない。
「馬鹿なやつめ、無駄な足掻きはやめろ! 」
男達は嗤いながら少女を見下ろす。
「おい、こいつにはまだ役目が残ってる。
拘束呪をもっと強めろ! 死なぬ程度になっ! 」
一人の男が指示を出す。
「「「はっ! 」」」
返事をした数人の男が、呪術符を取り出すと拘束術を行使する。
男達の下卑た嗤いと、怨嗟に身を焼かれた少女の叫びが木霊する。
(何だ!? あの魔法は…… 魔法? なのかっ? )
少なくともこの世界のものじゃない。
何処から手に入れた? もう少し探る必要があるな……。
術を行使した後は男達が出て行った。
堰室には磔の少女が一人残される。
その地獄の中にあって、生きる事を諦めぬ磔の少女は心の中で叫ぶ!
(決して、赦さぬ……この身が滅びようと、決して諦めぬ、お前等を焼き尽くすまでは死なぬぞ)
「すまないが助ける事は出来ない 」と。
しかし、少女が此方を視た!
そして、虚空を睨み付け言霊を発したのだ。
『そこにいる者。 願いを一つ聞いて欲しい。 頼む 』
『そう慌てるな。 同じ位階なら判るだろう? 』
「そうか、同じか。 だが、助ける事は出来ない。
こっちにも事情があるからな 」
気配を感じ命を燃やしたか…… それだけ必死なのだろうな。
『いや、助けは要らぬ。 もう、無駄だろうしな。
母の、事を調べて欲しい。 そしてアガルタの長へと伝えてくれるだけで良い。
お願いだ。 代価は長と交渉してくれ。
これを持って行けば信じてくれる筈だ。 頼む…… 』
そう言って虚空に宝珠を取り出した。
紅玉の宝珠には紋章が浮き上がっていた。
「う~んっ。 困った。 聞いてあげたいけどね…… 」
だが、感情は助けたいと…… 聞いてあげたいと呟いている。
「そうだ、やつらの思惑って判るか? それで受けてやる 」
俺って、駄目だね。 情に絆されて……。
でも、きっと赦してくれる。サトル
幾つかの情報の中で、この世界には居ない筈の種、「鬼」と言う言葉が気になった。
『有難う……。 母は恐らくアロイス帝国に囚われていると思う。
エルマーの馬鹿どもではこんな事は出来ないからな 』
「少し、脚を伸ばしますか 」
後7日程で一度戻る必要がある。
アロイス帝国に向かって……十分かな。
『フレイア・アース・ヴァルキュリエ。
フレイアが私の名だ。長には死んだと伝えて欲しい 』
「判った……伝える 」
彼女はまだ諦めていないな。あの瞳。
「では……また逢おう 」
『ああ! その時には礼をしよう 』
彼女は俺の事を考えてか、微笑んでくれた。
(いい女だね)
仄暗い部屋に少女を残して。
◇ ◇ ◇ ◇
さて、少し整理しますか。
そう呟き
キーワードは幾つかあるけど。
竜神種すら拘束する「呪術符」を使った「拘束術」これは呪いの類だと思うんだけどな?。
だが、この世界のものではない可能性が高い。
なぜなら、神にも近い者を拘束できる魔法は同等の位階の者にしか行使できないから。
それを、人間が行使していた。
次が「鬼」か……この世界には鬼は存在しない。
しかも、上位種である竜神を屠るほどの強さを持つ存在。
明らかに他の世界の者だろう。
「厄介だな 」
後は、潜入出来るかが問題だなぁ。
鬼か……どの程度の人数がいるのか。
フレイアの話では二体しか見ていないと言っていたが。
それよりも、そんなに強い種をどうやって使役や隷属しているのか?
「人間など、紙屑同然だろうになぁ 」
これも魔法かなぁ。
だとすると…… 深入りすると此方も囚われる危険があるねぇ。
「よし! とりあえず臭い場所から行きますか 」
エルマーの港区域からアロイス帝国の港と国境付近。
最後は王城かその付近かな。
そう呟くと
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