閑話 嗤うモノ達:2「復讐のアンク」
今の私は
本当の名は…… 遥か昔に捨てた。
今の名前はとても気に入っている。
だって、
生命を表す言葉で
命を奪われ死を待つだけの私に、主様は新たな名前を下さった。
私の復讐にも、お力を貸して下さった。
「ああぁぁあぁぁあぁ! 早く滅んでしまえぇっ!!!!! 」
あっと、いけない! 感情が溢れてしまった。
私はアロイス帝国の王都に生まれた。
極普通の家に生を受け、両親と共に平穏に暮らしていた。
私に
◇ ◇ ◇ ◇
今から数十年前に遡る。
世の中は魔王討伐へと運気が高まり始めた時代。
当時のアロイス帝国皇帝は魔族との戦争へは消極的であったのだが、突然
エリザヴェートが皇帝となり、その傍らにはアロイス帝国で唯一の勇者「キリム・ロイスター」が後見となり付き従う。
時を同じくして、アロイス帝国の最高司祭が二十年振りに後継者指名を宣言し交代される事になった。
そして、同時に聖櫃教会と名を改めたのである。
その名が示すとおり、神の
キリムの魔王軍討伐のおり、聖櫃が奪還されたとの触れ込みだった。
その様な事実は無かったのだが、民衆はそれを疑問に思わず受けいれたのだ。
それが本物であり、祭られる者が神であるならば問題は無かったのだが……
同時期、エルマー王国もそれに倣い、聖櫃教会を唯一の信仰と認めると発表した。
聖櫃教会の最高司祭は、赤い髪を棚引かせた若く美しい女性だった。
旧教会の歴代最高の魔力を持ち、国の祭事に新たな風を吹き込む希望となったのだ。
就任から程なくしてフェイク最高司祭より宣託が告げられる事となる。
「フェイク・ウェスト・ラヴ・ドール」最高司祭は人々に希望を与えるかにみえたのだが、戦争へと舵を切った。
「東に進軍せよ! 魔族を討ち滅ぼし、人々に安寧を齎すのだ!
安心せよ! 我らには神々より宣託されし勇者が光臨する! 勇者と共に人間に栄光を! 」「フェイク・ウェスト・ラヴ・ドール」最高司祭は、他国へと協調を呼びかけ魔族領へ進軍を声高らかに宣言した!
その進軍を推すのはエリザヴェート皇帝と、勇者キリム。
その根底にあるのは長寿への渇望と力への妄執、東の大陸には「喰らえば永遠の命を齎し、奪えば強大な力が手に入る」と知った故の、暗き欲望の進軍だった。
◇ ◇ ◇ ◇
この世界には実は人族しか居ないのにも関わらず、獣と化した人族の強欲から争っているのでした。
そもそもどうして争うのか、それを疑問に思うものは人族には居りませんでした。
何故なのでしょう? それがこの世界の不幸の始まりでした。
「復讐者」は既にこの世界には居りません、他の時空へと去ってしまったのですが……。
結末も観ずに忽然と消えました。
ただ、低く暗い嗤い声と共に。
この世界には実は人族しか居ない?
「おかしいって! そんな筈は無い! 魔族が居るだろう! 」
と言いますか? でも、それが真実なのですよ。
実はこの星の原種はエルフなのですが、遥か昔に魔法を失った者達が少数現れたのです。
その少数の魔力を失った「持たざる者達」はエルフ達よりも寿命も短かったのです。
お互いのライフサイクルが隔たりを大きくする前に、それぞれの道を歩む事を決めた祖先は、大陸の中央を境にそれぞれの国を成したのが数百年前でした。
種族としては同じでも、様々な価値観が変わってしまえば一緒には居られません。お互いを不干渉とし争いの種を摘んできたのです。
しかし、百年ほど前に異変が起こりました。
「復讐者」の暗躍です。
その者は言葉巧みに扇動しました。
東の大陸には「喰らえば永遠の命を齎し、奪えば強大な力が手に入る」と。
始めは信じていなかった者達でしたが、ある事を切欠に、その考えは暗く深く浸透していったのです。
皮肉な事に、人族となった魔力を失った「持たざる者達」の中に「先祖返り」が生まれたのです。
極少数でしたが魔力を持った子供達は「
だが、それを知るのは極一部の者達だけでした。
殆どの兵士達は「愛する家族・国を護るために魔族を討ち滅ぼす」と純粋に想い、強力な魔力への畏怖や恐怖と言ったものから国を護るための従軍だったのです。
◇ ◇ ◇ ◇
私は「持たざる者達」のままで良かったのに。
十八歳になった時「先祖返り」が発現した。
黒髪の色素が抜けたように、段々と薄くなってゆく。
黒い瞳が徐々に紅くなってゆく。
その様相は家畜にも稀に生まれる「
奇病ではと慌てた両親が、聖櫃教会のフェイク司祭様へ相談した事で運命が変わった。
様相の変化と共に高まってゆく魔力。
その希少性と
次々と狩られていく人達、小さい子は六歳位だったでしょうか。
今思い出しても……
「早く!! キリムを殺したい! 」
「エリサヴェートを地獄の底へと! 」
「こんな、くだらない世界も壊したくなる!!!!!! 」
◇ ◇ ◇ ◇
王城の地下には王族しか知らぬ部屋があった。
床や壁はどういった技術なのか? 継ぎ目の無い一枚の石版のようで滑らかである。
その壁面には規則性のある紋様が描かれ、淡く発光していた。
その部屋は、誰の趣味だろうか……少なくとも正気の人間が造った趣味部屋では無いと断言が出来る。
各種の拷問器具、快楽のための器具、解剖のための器具、常人なら見ただけで気が狂いそうになるだろう。
大きな透明な容器には人の形をした
そこにはエリザヴェート皇帝と、勇者キリムがいた。
「うふふっ、今回の獲物は、凄く……美味しそうねぇ 」
「そうだろうぉ。 先ずは俺が味わう、お前は少し待て! 」
キリムはエリザへ命令した。
「ええぇ! お預けなのぉ~ 」
エリザは上目遣いでキリムへと強請る。
「少しだけだ、我慢しろ!
お前と一緒だと、俺が満足する前に殺してしまうだろうがぁ!! 」
いつもの事だが、キリムが満足する前にエリザは
「わかったわよぉ…… 早くしてよねぇ 」
部屋の中央には寝台が据え置かれていたが、その寝台は少し変わった形をしている。
中央に人型の窪みがあり、そこへ少女が衣服も纏わずに手首と足首を拘束されていた。
キリムの顔が欲望に歪む、その口元は人のそれとは判らぬほどに切れ上がり歪な笑みを形作る。
「中々に、美味そうだなぁ~ 」
十八歳になったばかりの少女の柔肌は瑞々しく、大事に育てられたのか傷一つ無い。
キリムは寝台に備わったレバーを手馴れた手つきで操作する。
すると、人型の窪みが少し持ち上がりはじめた。
拘束された両脚は左右に開きながら適度に折れ曲がり、芳醇な蜜を湛えるであろう蜜壷を、キリムの目の前へと晒した。
後は、欲望の赴くままに貪り尽くす……。
暫くして、糸の切れた人形の様な少女に意識が戻った?
魔法が解けたのか?
薬の効果が切れたのか?
キリムが覆いかぶさりながら、少女の顔を覗き込む!
「ほぉ~!? こんなに速く覚醒するとは! これは最上かもしれんなぁ~! 」
少女は突然の事に驚くが、意識がまだ覚醒しきっていなかった。
ただ、判っているのは下腹部への鈍い痛みと、拘束され陵辱されている事実……。
声にならない悲鳴を上げるが、男は下卑た嗤いをあげ行為を続ける。
何時終わるとも知れない痛み、ギシギシと肉を軋ませる苦痛も、何時しか官能へと……変わってゆく。
「あぁぁん、……いやぁ。 でもぅっ…… もぉぅ…… またなのぉ………… 」
『そうかぁ! 気持ちが良いのか? では此れを飲め! もっと良くなるぞぉ 』
そう言って、キリムは自身の口に薬液を含むと、少女へ口移しで飲ませる。
「あぁふぅ…… ゴックン! おいしいぃ~ もぉおっと、アソコを…… 」
少女は薬のせいか、何時終るとも無い快楽へと身を委ねて行く。
くちゅくちゅと淫靡な音を立てながら、キリムは芳醇な蜜を舐め取った。
「はぁあぁ~ もぉぅ…… もぉおっと、くふぅ!
もおぉ、我慢できないのぉ! い、
苦痛さえも快楽へと変わり、数度目の絶頂を迎えようとしたとき、痛みが! いや激痛が走った!
「あぅっ…… あひぃぃ~! 痛、いたい、いたい!? 」
痛みのする方へ視線を向けると、そこには悪魔がいた!
「うふふっふっ、 もうぉ、我慢は、お・し・ま・いなのぉ~。
あなた、気持ち良くなったのねぇ?
ならここからは、ふたりで悦ばせてあげるわねぇ~ 」
この人は私でもしっている。エリザヴェート皇帝陛下……なぜ?
「エリザ! 程ほどにな! すぐに壊すなよ 」
そう言ってキリムはエリザへ命令をする。
「わかっているわよぉ…… でも、久し振りだから、壊しちゃうかもねぇ 」
そこからは悪夢だった……
生きたまま、下腹部を切り開かれ臓物を喰らわれた……
「どおぉ? これがぁ! アナタの腸よぉ! こんなにピンク色で綺麗でしょぉ~
ほら、中も…… コリッとして美味しいのよぉ 」
心臓を握られる感触……
「うふふっ? これがぁ! アナタの心臓よぉ!
こんなに元気に動いているわぁ~
でもぉ、ここは我慢なの…… 死んじゃうからぁ~!
でもね!コリッとしてて、とても美味しいのよぉ 」
子宮も握られた!
「どおぉ? これがぁ! アナタの大事な所ぉ!
こんなに綺麗なのに見せられないのが残念だわぁ~ 」
さっき飲まされた薬は、激痛を和らげショック死を抑えると共に快楽を増強する物だった。
普通なら死ねるのに…… お陰で死ぬ事も出来ない!
薬のせいか意識を失う事も出来ない!
「ほらぁ! どうだぁ!? 喰らわれながら犯されるのも良いものだろう! 」
死なないように、
何時終わるともしれない、生地獄が続いた。
エリザヴェート皇帝陛下にはじめて喰らわれた時に理解した……
なぜ? こんな事をするのか。
若返るのだ! 私の血肉を喰らうと見る見るうちに若返っていく。
男の方が勇者キリムだと判ったのは数度目だった。
キリムもそうだ、私の血肉を喰らうと私にも判るほど魔力が増大していった。
しかし、それも何時までも続くわけではなかった。
魔力上昇と若返りの効果は数回の捕食で止まるらしい。
そうなれば……あとはただの肉の塊だ。
「もう、 搾りかすねぇ 」
「ああ、用済みだ! いつもの所へ捨ててこよう 」
「(ああ! これで、やっと、死ねる…… )」
アロイス帝国領の北西にある岬には祠があった。
それを知る者は極限られた者達だけであった。
エリザもキリムも知ってはいなかったが、有るモノに教えられていた。
『食べカスは、そこへ捨てろ 』と。
私は、永遠の眠りを手に入れる筈だった!
それが…… あちらに呼ばれ、業火に焼かれ、また蹂躙される事になる。
地球の、中世の魔女狩りだ……
その、二度目の地獄から、あの方が「主様が救って下さった 」
そして、私の復讐にもお力を貸して下さった。
新たなる力と、この肉体を!
「あああああああぁ! こんな世界はっ、早く滅んでしまえっ~!!!!! 」
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