第40話 魔導騎士(上)

マリアは、サリアさんに施設の案内をお願いして退席した。

俺達がラボで講習などを受けている間、白銀しろがね達と作物の状態を確認に行くそうだ。

 先ずは現状を把握し分析しなければ対応策がわからない。

 その為にもう一度確認をお願いしたのだ。


「現場」に出向いて「現物」に直接触れ、「現実」をとらえる事は、あらゆる領域の問題解決において重要である。

特に生産分野においては空理空論を展開しても貴重な時間を浪費するだけだ。

問題解決を図る上で重要とされてきたもので、日本の高度経済成長を支えた精神だ。

後は、この世界の「原理」「原則」がどうなのか……地球の基準で考えると間違う可能性がある。


白銀しろがね達の意見を聞き、その後で兄妹ふたりで確認に行く。

この世界の「目」と「異世界地球の目」両方で視て診る事で原因を探ろう。


    ◇    ◇    ◇    ◇


サリアさん、眼鏡の似合うお姉さま! そんな感じです。

黒髪で黒目、背はサリアさんの方が高いけど、流石は兄妹、マリアさんとそっくりですよ。


「こちらが、アッセンブリーベットと呼ばれるもので、最終組み立て工程になります。 頭部、聖霊核、中央筺体、腕部、脚部、特殊兵装はそれぞれ別の部署で作成されています 」


「なんと言うか……見た目が趣味全開ですね 」


「そう思われますか? 祖王の御趣味だと伺っておりますよ 」


「見た目、地球の未来小説なんかに登場するロボットだもの……

意匠は戦国武者なのかな? 」


「今組み立てした者は武者と呼ばれておりますね 」


「お兄ちゃん! 好きそうだよね~ 」


「そりゃ~、男だからね。 この手のモノには萌えますよ 」


「誰も止める人いないからって、無茶しないでよね 」


「……了解です 」


そこで見たものを一言で表すなら、等身大のアクションフィギュアが、自分好みの鎧を纏って、自律して動くと言う最高に趣味が良いモノだった。


良く見ると、幾つかの球体間接を組み合わせており、人の動きをトレースできる可動範囲を持たされているようだ。

膝や肘は球体の二重関節になっているので、人間とほぼ同じ動きが出来そうにみえた。


 ロボットと言うかアンドロイドと言うか……ファンタジー小説でお馴染みのホムンクルスやゴーレムとは一味違う、近未来的なモノ。

ただ、動力は魔力を使っているそうで、登録された魔法陣により魔法も行使できるそうだ。

とんでもなく凄いテクノロジーで、白銀が出会った頃に言っていた「ロボット工学に特化した国」だと言う事がようやく判った。


こんな近未来的な魔導騎士シュバリエだが、製造は機械工作ではなく錬成術と魔法工学の融合で行なうのだと言う。

決められた材料を自信の魔力でユニット単位で錬成しながら組み上げていくそうだ。

効率が良いのか? 非効率なのか…… 良く判らない。


 使用する材料がまた変わっていた。

唯一この国で産出される「液体金属」だと言う。

この液体金属はアンオブタニウム・・・・・・・・と言うそうだ。


オリハルコン、ミスリル、アダマンタイト、火廣金ヒヒロカネ、アマルガムなどの希少金属の産出される鉱脈から、それらの希少金属が溶け合わさり流れ出た金属で、ビフレスト山脈にある鉱床から産出されている。


この溶液を100倍程度に希釈した物が他国へ輸出され、魔法陣の作成に使われているそうだ。

スクロールの原紙へと希釈液を含浸がんしんさせ、結界師や符術師が魔力を通す事で魔法陣が形成される。


「この先で頭部、聖霊核、中央筺体、腕部、脚部、特殊兵装それぞれパーツが作成されています。

何か一体造ってみますか? 」


「すぐに造れるのかな? 」


「先ほど拝見した称号なら問題無いと思いますよ。 

深淵の探求者があれば設計図へのアクセスが可能になります。

後は創造者クリエイターでどうにでもなるでしょう。 

それこそ、お好みの魔道騎士シュバリエがお造りになれます。 

どうします? 」


「それは非常に魅力的な提案ですね! 自分好みの魔導騎士シュバリエと言う所が……やらせて下さい」


「……お兄ちゃん。 程ほどにね 」


そんな訳で、初めての魔導騎士シュバリエ製作を楽しみます。 


「では、本体を錬成する前に、聖霊核についての説明をしましょうか 」


そう言って案内されたのは聖霊核を造るラボです。


「聖霊核については御存知ですか? 」


「いや、 聖霊結晶の事はここに居るリリスに聞いたことがあるけど、聖霊核は知らないよ 」


「そうですね、聖霊結晶(精霊結晶)が歳を経た高位の聖霊、霊獣、妖精の天命が尽きる時、希に生成される結晶である事は御存知なのですね。 

 

 聖霊核は聖霊結晶(精霊結晶)を模倣して作られたもので「記憶の結晶」と言われる物です。

それを核にすることで人工的に意思ある者を創造しています。 

創造と言っても生命体を創ると言う事ではなくて、意識体と言った方があっているかも知れません。 

この製法は魔導騎士シュバリエと同様に秘匿技術で継承者しか錬成は出来ません。 

これが無ければ魔導騎士シュバリエはただのガラクタです 」


「聖霊結晶でも代用は可能なのですか? 」

 

「はい。 ですが入手は困難ですね。 

滅多に出回りませんから」


「そのために人工的に創ったのが聖霊核なんですね 」


「そうです。 創る事は難しくは無いのですが、必要な魔力量が多く量産が困難です。

 そのために御二人を招待したと言うのもあります。 

魔導騎士シュバリエの筐体は聖霊核待ちで、その多くがハンガーに待機中です。

と言っても千体程度ですが 」


「じゃあ、まずは聖霊核の錬成が必須と言うわけだ。 

大体どの位創れるの? 例えば日当たり幾つとか 」


「今この施設で錬成師は私を含め十名です。 

聖霊核は一人一日一個が限界で、翌日は休養となります。

そのため、五人で一月七十五個程度ですね。

 魔導騎士シュバリエの筐体は一人四体が限界で、翌日は休養となります。

残り人員で五人で一月三百体程度ですね。 

休養を挟むのは魔力切れによるものです。 

錬成量を半分以下に抑えれば休養無しになりますが 」


魔力量か、俺達はどうなのかな?

その辺も聞いてみよう。

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