遊者となって異世界アウトドアライフ

第38話 魔族と勇者

『哲（さとる）殿、沙弥華（さやか）殿、魔族と呼ばれる者とこの国とこの世界。

そして御主達の祖父たるヤマトと祖母について話をしよ　う』

白銀（しろがね）はそう言うと話しをはじめた。

『兄妹（ふたり）に問おう。

勇者とは、魔族や魔王とは、どんな存在だと思う？

勇者は正義（・・・・・）で魔族や魔王は悪（・・・・・・・）だと？　

一体誰が（・・）何を元に決めたのか……疑問に思った事はないか？　』

「物語だと……自分の居る側が正義になる物語が多いな　」

「そうね、大抵が魔族や魔王は悪　（・・・・・・・）となっているわね　」

『勇者は人族であり魔王は魔族。　

当然の事だが、双方の側から見た互いが悪で正義となるのではないかな？　』

「そうね……誰もが、自分が悪だとは思わないものね　」

『何より、この世界には人族しか居ないのにも関わらず、人族の強欲から争っているのだがな。

そもそも、どうして争うのか？　それを疑問にすら思う者が人族には居なかったのだよ。

　それは何故か……　

一部の者達を、言葉巧みに扇動した者が現れたのが、この世界の不幸の始まりであったのだがな。　

その者と勇者の話は、また別の機会にするが……な　』

「白銀（しろがね）？　この世界には実は人族しか居ない？

おかしいよ！　だって魔族や魔王が居るんだろ？　」

『マスター、この星の原種はエルフなのですが、遥か昔に魔法を失った者達がエルフの中に少数現れたのです。

その少数の、魔力を失った「持たざる者」はエルフ達よりも寿命も短かったのですよ　』

「リリちゃん、エルフて言った？　」

『沙弥華（さやか）、そうエルフよ　』

『遥か昔の事だがな、エルフと、エルフだが魔力を「持たざる者」はお互いのライフサイクルが隔たりを大きくする前に、それぞれの道を歩む事を決めたのだよ。

　その者達は、大陸の中央を境にそれぞれの国を成したのが数千年前だ。

元々が同じなのだから種族としては同じであっても、寿命も魔力など様々な価値観が変わってしまえば、一緒に居る事は争いの元だ。

故にお互いを不干渉とし、争いの種を摘んだのだよ　』

「しかし、百年ほど前に異変が起こりました。　ある者が言葉巧みに扇動したのです。

　東の大陸には喰らえば永遠の命を齎し、奪えば強大な魔法の力が手に入るモノがいると。

始めは信じていなかった者達でしたが、ある事を切欠に、その考えは暗く深く浸透していったのです　」

マリアが目を伏せ言葉を紡ぐ……。

「油断……でしょうね。　

この国には少数ですがエルフが住んでいるのですよ。

まさか、同じ人に襲われるとは思ってもいなかったそうです。

　魔力を失った「持たざる者」に狩られたのです。

その末路は筆舌に尽くし難く ……狂気の所業と伝えられています。

「喰らえば永遠の命を齎し、奪えば強大な力が手に入る」

その言葉を信じ、人の道を踏み外す悪魔達が現れたのです……　」

『だがな、それを行なっていたのは一部の者達で、ある国がその事実を他国へは教えていなかったのだよ。　

魔族狩りと称し、エルフを求めこの国を襲っていたのは、隣国のエルマー王国と西のアロイス帝国だったのだがな。

　他国は知らぬ、両国の思惑など……　。

この国にエルフが住まう事も知らぬ、東方には魔族が住み人族を襲うと扇動し、それを隠れ蓑にローベンシアに居るエルフを狩る……

外道なのだよ　』

『そんな時にヤマトが現れた。

何故かは判らぬが、何かしらの力で我らも同じ時同じ場所へと誘（いざな）われたのだろうな。　

我ら四人はヤマトを一目視て行動を共にしたのだから。

不思議な縁（えにし）だったのであろう　』

『　当時のローベンシアを襲っていた、隣国のエルマー王国と西のアロイス帝国を撃退し、国を興したのが此方へ来て一年経った頃だろうか……

全ての村々をまわり、話をし酒を飲み、戦いそして縁を結んだ。

故に、領民はローベンシアの建国時に、ミドルネームの後に祖王ヤマトの名を刻むため改名したのだよ。

この絆、縁を永遠のモノにするためにな　』

「この国の民はエルフの血が濃く受け継がれているので、魔力を持った者が多く住んでおります。

魔力を失った「持たざる者」と言っても、完全に魔力を失った者達はいないのですよ。

他国の民も、エルフに比べたら非常に少ないと言うだけで、魔物と対峙するには困らない程度の魔力はあるのですが、それでも不満を持つ者がいると言う事に驚かされます……。

　元々が、エルフとの交流を細々と続けていたこの地に祖王ヤマトは国を興し、妻を娶りました。

ビフレスト山脈を隔てた東方の国とは多少の縁があり、共に戦ったエルフの長の娘が私達の祖母になります　」

『ここからが、御主等を招いた理由になる。

　建国後、ヤマトは国力を増強する為に錬成術と魔法工学を融合し魔道騎士（シュバリエ）を発明したのだ。　

国民を護る為の戦いで、同胞が倒れるのを避けたかったのだろう……

戦いの後は、良く一人で泣いておったからな。

　その技術は代々、王族に継承されておるがやはり適正があってな。

今この国には、ヤマトと遜色なく錬成出来る者が居ないのだ。

創る事が出来ない訳では無いのだが、エルマー王国と西のアロイス帝国の動向を鑑みると……

心許ないと言うのが本音だな　』

「そのような訳で、同じ血を引く御二人をお招きし魔道騎士（シュバリエ）の製造のお力添えをお願いしたいのです。

決して、共に戦ってこの国を護って欲しい、という事でお招きしたのでは無い事は、天地神明に誓います　」

「なんか……色々と重い話だな。　

人との戦いへと言われると……正直、無理だと思うけど。

錬成で手助けを望まれるなら、力をかしてもと思うけど。

俺で力になるのかな？　

後……沙弥華はどうかな？　」

「私は、お兄ちゃんが良いなら否は無いわよ。

それに親戚が困っていると言われるとね。

天涯孤独で、身内なんて居ないと思っていたから……　」

「そう言って頂けると助かります。　

今のローベンシアは、非常に不味い状態なので……　」

「不味い状態？　」

『哲（さとる）、今この国は原因不明の飢饉に遭遇しそうなの。

まだ、猶予は残されているけど……

それに、エルマー王国と西のアロイス帝国の動向がキナ臭いのよね　』

「そんな状況で、余り時間は残されてはいないのです。　

早速ですが、錬成魔法の継承儀式をお願いしたいのですが。　宜しいでしょうか？　」

「そんなに切迫しているの？　戦いでなければ、俺は構わないけど　」

「有難う御座います。　では、早速継承儀式の間へ御案内しますね　」