第16話 休憩所を作ろう!

二週続けて兄妹ふたりは湖畔の野湯・・へ来ていた。


先週完成させた脱衣所とトイレの他に、就寝も出来る休憩所を設置しようと思ったのだ。


 今のところ良い天気に恵まれているが、雨の時も有るだろう。

天気が悪いからと言って、向こうへ戻ると言うのも何か違う気がする。


雨の中の設営も慣れれば苦ではないが、やはり雨風を凌げ気楽に過ごせると言うのには心惹かれる。


 兄妹ふたりは、この場所の見飽きる事の無い景観にも惹かれていた。

素敵な景色、目の前に温泉、現実の世界では望むべくも無い……。


 白銀しろがねと出合った翌日に


「休憩所も作ろうと思うのだけど、どうかな? 」

と言う質問を沙弥華に投げかけると、


「いいよね! 私も寛げる場所があったらな~ と思ってたの。

テントやタープも良いけど……パッと行ってコロンとシロ君とできたらいいな~なんてね! 」と乗り気だった。


シロ君とは白銀しろがねの事だ。 

ちなみにリリスはリリちゃんになってる。


 そんなわけで二週間ほど掛けて休憩場所を作っている。

前回同様、ホームセンターで諸々の買い物を済ませ、輸送用のトラックを借りて運び、人気ひとけのない場所で荷物を時空庫に収納してきた。


 計画としては八畳程度の広さで、中央に掘り炬燵風の囲炉裏テーブルを設置する計画だ、基礎工事は先週済ませてあるので今日から上物の設置である。


安くて安価な2X4材とシンプソン金具がDIYの強い見方。

遊者補正の恩恵もあり、疲れ知らずでサクサクと作業が進みます。


沙弥華さやかに壁の作業してもらっている間に、俺が屋根をき外側は完成した。

その後は中の作業を終わらせて三日間が過ぎていく。


突貫工事でしたが一先ず完成し一安心です。

「まぁ! 遊者補正は有り難いですね 」


最終日の夜は出来立ての囲炉裏で、暖かい夕食を頂きました。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 三日間、ただ大工仕事では楽しくないです。


なので今回は水上散歩を計画していました。

当然、沙弥華さやかには、ばれない様に注意したつもりです。


 本来ならカヤックをルーフキャリアに載せて来るのですが、それではバレバレです。

なので一式時空庫に収納して来ました。


上手くやったつもりだったけど……なぜか?


「お兄ちゃん、カヤック持ってきたでしょ! 後で行こうね 」

と先手を打たれました。


「……何故? 」

女とはこうも勘が鋭いのでしょうか!?。


思えば父も良く、母さんにばれて・・・いたと思います。


何故でしょう……、


 この湖の温泉側は、砂浜になっている箇所が多くカヤックのエントリーには悩まずに済みます。

地球あっちだと結構大変なんだよね~。

湖によっては、地権者に迷惑をかける場合もあるので何処でも良い・・・・・・と言う訳でもないのですよ。

皆さん注意しましょうね!


 この湖は午前と午後、風により波が大きくなる事は少ないようだ。

本栖湖などは、午後になると風が出て湖面が荒れる、そうなると岸に戻るのも大変になってしまう。


ただ、風が出ても心配はしていなかった。

遊者補正で体力? が上がっている様だからだ。

少し? 少しかな? 大分かな? 多少心配ではあるが力が強くなって疲れなくなった。

それは沙弥華さやかも同様だった。


 兄妹ふたりで乗るという事だが、タンデム艇に二人ではない。

今日用意したのは、沙弥華さやかには4.6メートルのファルトボートのタンデム艇でボイジャー460Tを、自分はポリエステルで出来たシットインカヤックで、フィッシング用の艤装が施されたウィルダネス社のコマンダー120を使う。


ファルトボートとは袋状の「船体布」に組み立て式の「フレーム」を入れるボートの事。

ちなみに「ファルトボート」はドイツ語で、「フォールディングカヤック」は英語になる。


簡単な料理が出来る調理器具やクーラーボックスなどは時空庫に仕舞い、ライフジャケット等の装備を着けたら出艇する。


 沙弥華さやかのファルトボートは中型のタンデム仕様なのだが、本来のフロントシートは取り払い専用のフロアシートを装備している。

船体布とフレームの上に装着するので、白銀しろがねが乗りやすいと思ってだ。


その白銀しろがねはフロントデッキに前足を掛け、進み行くふねの前方を眺めている。

『沙弥華殿、水上を走る乗り物は初めて乗ったが、中々に良い物だな! 』


「そうでしょ~ぉ。 向こうでもワンコには人気だからね~! 」

と二人ともご機嫌な様子だ。


 自分はルアーロッドを艤装にセットして、レイクトローリングの真似事をしていた。

本格的なものではなく、おもりにリリースクリップを取り付けリーダーを挟んだだけだ。

ルアーはミノーを使い、深めに沈めて流しすだけの、ナンチャッテ? トローリングである。

ダウンリガーや潜航板があれば良いのだが、持ってはいないので苦肉の策です。


魚が掛からなくても、何と無く楽しければ良いと適当に流すつもりだった。


「お兄ちゃん、湖面が穏やかでのんびり散歩するには丁度良いね~、島の先端まで行ってみる? 」


「確かに、これならのんびり流すには丁度良いし……。

 そうだなぁ、本当は裏側まで行ってみたいけど、次にしようか 」

 そう答えて湖中島の先端部分を目指す事にした。


 この湖の外周は約二百三十キロメートル程あり、湖中島は大小二つあり温泉側が大きい島だ。

この島も大きく外周で約二十五キロメートル程ある。

大きさにすると洞爺湖と同じくらいと言えば大きさが判って貰えるかな?


「琵琶湖の中に洞爺湖がある訳だ……どんだけ大きいんだよ! 」


流石に遊者補正の恩恵があっても、洞爺湖一周は厳しいと思う。

それでも先端まで十キロメートル以上あるのだが、カヤックは歩くよりも当然早く進むわけで、波が穏やかなら時速五キロメートルm程度で話しながら漕いでいられる。


「なので、先端なら休まず行って二時間くらい掛かるわけで、散歩するには丁度良い距離と時間なのですね 」


 AR表示で湖底の状況を確認すると、エントリー場所から暫くは浅瀬だが、段々と水深が増して行くようだった。

湖中島の先端部分は岬状に張り出し、湖底は長い掛け上がりになっているようだ。そういった場所には魚が着いていることが多く、ワンチャンスあるかな? と期待しする。


 水深を確認しながらルアーを沈めて行く、AR表示には潜航深度が表示されタナも確認できるのは有り難い。


もしかして? と思い、バウバックカバーに座るリリスへ声をかけた。

「リリス、魚探……判らないか。 魚群探知機ってわかるかな? 水底みなそこにいる魚の群れなんかを表示する機械なんだけど、AR表示で再現出来るのかな? 」


『マスター、魚の群れですか? 可能だと思うのです。

個体名まで出るかは不明ですが、恐らくダンジョンマップと同じで表示可能かと……

ただ、魚以外の生物も表示さる可能性がありますので、表示対象を絞って見てください。

それと、対象の表示レベルは意識操作で調整できるのです』


早速試してみた! 

「これは万能アイテムだね! 」

マッピングから索敵までとは。まだ色々と隠し要素も有りそうな気がします。

ただ、マップはナビ準拠なのでマップ範囲外は表示も出来ませんが。


やはり手付かずの湖です、浅瀬にはまばらだが駆け上がり付近は魚の表示が多いですね。

しかも大型? の魚影も確認できます。

通常の魚群探知機と違い個体表示が出来るようです。

原理はさっぱり判りませんが、種類と体長などが表示可能でした。

対象をクローズアップすると詳細表示も出ます。


 岬先端まで流せば群れにアタック出来そうですよ!

深さに気を付けながらルアーの潜航深度を調整し、沙弥華さやか達を追いかけます。


魚郡探知に気を取られた隙に、沙弥華さやかふねが遥か彼方に見えます。

急ぐ旅でもないので、のんびりと行きますか。


 ここまで魚がヒットしないのは気になりますよね。

これも魚郡探知で気付いたのですが、個体によって泳層えいそうが違っているようなんです。

小型魚は表層を大型になるほど低層を縄張りにしているようなんです。

で、今流しているレンジは低層で、当然大型狙い。

大型魚の分布帯は岬付近に固まっているみたいです。

種類は釣れてのお楽しみ! 詳細は見てないので判りませんが、メーターオーバーは間違いないでしょう!。


一時間ほどの間に数度のヒットがあった。

それ程大型ではなかったが、引きは堪能させてもらったよ。


 魚の種類は「クイーンズ レイク トラウト」随分ロックなお名前ですが、日本で言う岩魚の仲間でした。

深場をトレースしていたのでパクリとヒットした感じですか。


地球の岩魚に似て、体色は茶褐色に銀色で腹部は明るいパールホワイト。

体の大部分は岩魚特有の淡色の斑点が覆っていて、頭部と背部は虫食い状の斑紋がある。ひれには岩魚の特徴である白い筋状の指し色もあった。


レイクトラウトと同じなのかな? 湖だと水深二十~六十メートルに棲息していることもあると言うけど、トレースしていた水深が二十五メートル程だった。


これは今夜の夕食が楽しみだ! 岩魚は美味しいからね。

温泉に入って骨煎餅ほねせんべい骨酒こつざけも良いね~っ。


そんな事を思いながらトローリングを再開し、沙弥華さやか達を追うのだった。

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