第11話 沙弥華と共に異世界へ

 初めて異世界へ旅をして1週間後、土日の休みを利用して、沙弥華さやかと約束していた通りキャンプに出発した。


 向かう先は初めて行ったあの河だ。

先ずはこの世界に慣れる事と知る事だと思う。 

リリスへ聞けば、安全な場所かどうか確認が取れるのも安心の材料となった。


 先ずは兄妹ふたりでこの世界を安全に楽しむ事が目標だ。二人で徐々に行動範囲を広げていこうと、心の中で呟いた。

沙弥華さやかが初めての異世界に、どんな反応をするかも非常に楽しみでもある。


    ◇    ◇    ◇    ◇


 沙弥華さやかより先に車へ向かう。

気づかれないように先週野営した場所を目的地に設定した。

当然だが、リリスには姿を消して貰っている。


沙弥華さやかが車に乗り込むのを待って出発した。


「やっぱり、新車の香がするね。 

乗り心地も悪くないみたいだし、目線も高いから見晴らしもいね 」


 沙弥華がそう言って、初めて乗る車への感想を述べている。

新車の香か……父さんの最後の愛車も新車だったっけ。


その想いを、気付かれぬ様に続く言葉を紡ぐ。


「運転もし易いし、大きさの割りに取り回しも楽だよ 」


そんな風に会話しながら山梨方面へ向かった。


「何か欲しい物有るか? 有ったら途中で買い物していくけど」


「牛乳は持った? 無かったら欲しいんだけど」


「判った、スーパーに寄るなっ」


 峠を越えると、富士吉田のスーパーへ向かった。

スーパーに到着すると乳製品の棚へ向かう。

沙弥華さやかは普通の牛乳パックを取らずスクリューキャップの物を選んだ。


「お兄ちゃんこれで良い?開封しても蓋が出来るから、クーラーボックスの中で他の食材の匂いが付かないんだよ」


沙弥華さやかが言うには、牛乳は他の臭いを吸着しやすいから、臭気の強い野菜や魚介類と一緒に保存すると、強い臭いが牛乳に移るそうだ。


「そでれ良いよ」


そんな会話をしながら三本購入し車に戻ると、早々に出発した。

 

 我が家では、コーヒーに紅茶、朝食時にも牛乳を消費する。

牛乳が好きな事もあり多めに購入した。

残っても自宅で使えば問題無い。


河口湖を過ぎ、御坂峠に差し掛かる。


「沙弥華とキャンプに行くのは何時振りかな? 」


「去年の夏以来だから十ヶ月ぶり位かな」


「そんなになるのか。

 今日の行き先だけど、沙弥華さやかは初めての場所だよ。

野営地の近くに流れる河は綺麗で眺めも良いし、夜になると明かりが周りに無いから星が良く見えるよ。

とても素敵な所だから、きっと気に入ると思う」


「じゃぁ~期待してるね 」


 うん、嘘は言っていない。

河も綺麗で眺めも良く、星も良く見える。

ただ、地球じゃないけど……。


 暫く車を走らせると、リリスから念話でポータルに近づいたと連絡があった。


沙弥華さやか、少し目を瞑ってくれないかな。

良いと言うまで目を開かないで欲しいのだけれど…… 」


「なんで? まぁ良いけど 」

変なお兄ちゃん。


 ナビの音声案内はミュートで気づかれないようにしてある。

ポータルを過ぎた所で『間もなく転移します』と意識下にアナウンスがあった。


自分にとっては見慣れた光景。と言っても三回目だけどね。


少し見晴らしの良い位置に車を停めると、沙弥華に言葉をかける。


「目をあけてごらん 」


トンネルを抜けた後だからか、ゆっくりと目をあけた。


「うっ……そぉ!? 」


言葉を失い、口を半開きにして景色を凝視していたが、勢い良く此方を向くと。


「お兄ちゃん! どんな手品使ったの。 悪い薬に手を出したのね…… 」


「悪い薬って? おまえなぁ……  」


 車を移動してから話をしようと、先週野営した場所へと移動した。


まだ、日が高い。

こちらの時間で午前九時だ。


 取り合えず、椅子二脚とテーブルを用意する。

その間、沙弥華さやかには飲み物を用意してもらっていた。

沙弥華さやかも父に鍛えられ? アウトドア用品は一通り扱えるので心配は無い。


 さっと済ませるためにインスタントのコーヒーを淹れる。

コーヒーは冷め難く持っても熱くならない、ダブルウォールのチタンマ製グカップを愛用していた。


準備が出来ると、話を聞きたそうに椅子に腰掛け此方を見詰めていた。


「お兄ちゃん? 隠し事は無しね! 」


 承知しております。

沙弥華がそんな雰囲気を出した時に、そんな事したら血の雨が降る……。


「ここ、異世界なんだ 」


「……もう一度言って? 」


「リリス」

景色を見ても納得しないなら最終兵器! リリスを見たら納得するだろ。


『マスター、お呼びなのです? 』


「……もう一度言って? 」


「あれ? 」(なぜ? これで信じないの? )


『マスター、沙弥華さやかさんが信じていないのです!? 』


「これでも……信じないかなぁ? 」

虚空から突如、巨大な魚「ミスリルソード サーモン 160cm 」を取り出し沙弥華さやかの前に掲げて見せた。


「……本当に? 」


「うん、本気まじで」 」(何故? 魚《これで信じるかな…… )


沙弥華さやかはミスリルソード サーモン と リリスを繁々しげしげと眺めると、

「こんにちは……。 リリスちゃんで良いのかな? 」と声を掛けた。


『ハイなのです。 ナビゲーションフェアリーのリリスと言うのです。 

マスターに素敵なお名前をつけて頂いたのです 』


「お兄ちゃん? 一週間位変んだったのはこの・・せいなの? 」


「そうです……」


「はぁ~。 心配させないでよ。 様子が変だったからてっきり……」

沙弥華さやかがしまったという表情を一瞬見せた。

もう気にしてないのに、気に掛けてくれているんだよね。


「すまん。 でも、流石に言い難いわ!「異世界行った」なんて 」


「それはっ……そ~だねっ……流石に其処まで患ったら・・・・病院へ連れてくもの……」


 意外と言うか、すんなり? 受け入れてくれた様で安心した。

 

ただ、最後の一言はどう意味なんだ?


沙弥華さやかとリリスは仲良くなりそうで一安心。


心配事も片付き肩が軽くなった気がする。


隠し事も無くなってスッキリしたよ。

この後は、設営諸々を片付けて、沙弥華さやかと異世界を楽しみますか!

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