第2話 兄妹(1)篠宮 哲《しのみや さとる》

篠宮 哲しのみや さとる  二十六歳独身、この二十六年其れなりに苦労もあった。


 極普通のサラリーマンの家庭に生まれ高校卒業を間近に控えたある日、春からの就職も無事に決まり新たな人生のスタートと思った矢先に両親が事故に巻き込まれ亡くなった。


 春から高校生になる妹「沙弥華さやか」と二人残され途方に暮れる……。

実際にはそんな時間も無かった。

 

 頼れる肉親も他に無く天涯孤独となった兄妹二人、毎日を何とか生活をするのに必死だった。


 両親が残してくれたこの家と生命保険、事故の相手からの慰謝料や保険金などで妹の学費も日々の生活も不自由する事無く、妹も無事に高校を卒業した。


 卒業後は働くと言って聞かない妹を、「両親の残した遺産と俺の給料も有る、心配する事無く行きたい大学へいけ」と説得した事も懐かしい。

 

 妹が大学を卒業してからも間も無く一年になる。

卒業後は地元の企業へ就職し、日々頑張っている様で兄としてはやっと安心できた。

(後は結婚だけだね。恋人は居るのかな?不思議と影が見えない……。)


 色々有った8年、今年は良い年になる筈だった。

4年間交際した恋人と年末には結婚式を挙げる事になっていたから。

そう、「なっていた」残念ながら過去形だ。


 彼女に子供が出来た。

「他の男性との間に……」

正直ショックだった。

妹はかなりショックだった様だ。そのせいか? 妹の荒れ様に自分が冷静になってしまった。


 案外、自分もその程度の気持ちだったのかも知れないと少し落ち込んだりもした。

 

 相手の両親から平謝りに謝罪され慰謝料と言って現金を渡された。

頑なに固辞したのだが、受け取るまで動かない二人に気圧されて結局受け取らされていまった。

 受け取る条件として彼女に電話でも構わないので話をしたいとお願いした。最初難色を示したが、幸せになって欲しいから伝えたい事があると言うと電話をしたくれた。


 携帯越しではあったが、「幸せになって欲しいと」正直な気持ちを伝えた、涙を堪えてか鼻声で「うん……ごめんね」と暫くして返事が返ってきた。

 その元彼女は先頃入籍し出産準備をしているそうだ。


 そんなやり取りを見ていた妹からは、お人好しだよねと言われたが「それがお兄ちゃんだから仕方ないね」と苦笑いされてしまった。



 そんな幸先の悪い年だが「結婚を逃し自由が手に入った」と思い直し、少し贅沢をしてみようかと思う。

 妹からも「少しは羽を伸ばしなさい! 」と背中を押された。


 卒業から八年、中古で買った愛車も既に十一年落ちの十三万キロ越え。

流石に次の車検は考えられない、買い替え時だ。本当なら年末の車検を待ってファミリーカーを購入する予定でいたのだが……それは言うまい。


 で、自分の欲しい車……スポーツカーも良いと思うが、如何せん自分の趣味を考えると一寸違うような気がする。


 どちらかと言うとアウトドアが趣味の大半を占めている。

父の影響もあったと思う。小さい頃からキャンプに釣りにカヤックと兄妹で連れて行ってもらった。

 高校時代は野営しながらのサバイバルゲームなどもしていた。


「やはりSUVかな? 」


 でも、この数年で流行はやり始めた車中泊専用車も捨て難いよな。


 資金は十分ある、使う予定が無くなった結婚資金と予期せぬ慰謝料、元々の車の購入費用と貯金。


「いっそ、キャンパーも良いかもな」


 早速ネットにて調査開始。

 幸いな事に週末にキャンピングカーショーが開催されるらしい。しかも規模が国内最大です。

 その他、書籍なんかでも情報収集をする。

 当然、ブログもチェックしましたよ。


 キャンパーにも色々種類が有る事が判明。

キャブコン、バンコン、バスコン、フルコンなど……何のこっちゃ? と言う感じだ。

ベース車両や架装方法によって名称が変わるそうだ。

普通の車で牽引するキャンピングトレーラーと言う物もあった。


 闇雲にショーへ向かってもきっと決まらない。

主な用途と何をメインにするかで方向性を決める事にした。


 まず、普段は通勤に使う、そうなると本格的なキャンピングカーは荷が重い。

 車の大きさや高さの問題もある。自分の住んでいる地域なら買い物では青空駐車が可能で問題無いが、少し都会に行くと立体駐車場になる。そうなると車の高さが問題になってくる。


「そうなるとキャブコン、バスコン、フルコンなどは除外だな。」

 

 さらに絞り込む。

 エンジンは?駆動方式は?乗車定員や常設ベットの有無、シートの種類等。

一つ一つ条件を上げ絞り込んでいく。


 で、候補にしたのが4WDワンボックスでありながら、パリダカールラリーも走破する走行性能と、現場で働くお父さん達の強い味方として知られる有名な二車がベースになったモデル。


 全世界で長く使用され十年二十万キロは当たり前、今年五代目にフルモデルチェンジしたトミタと松菱共同開発の新世代ワンボックス ランドエース。

 

 元々は松菱自動車から発売されていたアースランダーやエリカ シリーズの駆動システムが元になっている。

 

 ワンボックスながら本格4WDシステムを搭載し人気を博したが、度重なる偽装問題から経営不振に陥り、経営の見直しを迫られた。そこでトミタ自動車が救いの手を差し出す。

 

 奇しくもモデル末期だったランドエースとエリカ、お互いの技術を融合させ松菱再生の旗艦としてフルモデルチェンジを果たした。

 エクステリアとエンジンはトミタが、得意の骨格構造とラリーで鍛えた走行システムを松菱が担当した。

 

 トミタでも本格4WDは販売しているが、本格4WDのワンボックスは松菱以外では発売していなかった。


 エリカには熱烈なファンも居りテコ入れのためには失敗が許されない。

 そこでトミタの商用ワンボックスのフルモデルチェンジと合わせて共同開発が決定した。


 ランドエースの悪路走破性への不満と、エリカの積載性と小さなボディーサイズへの不満。

それぞれのファンの不満が解消されたモデルとなり人気の車種となる。


 ランドエースⅤ アクティブ4WDをベースに架装を施した「バンコンバージョン」モデルに決定した。

 (松菱ブランドからは エリカⅤ アクティブ4WDとして発売)


 週末は沙弥華と二人でキャンピングカーショーへ行き、数社のビルダーさんと商談しその内の一社と契約して帰宅した。

 

 人気車種なので納期の心配をしていたが、ベース車両の追加オーダーを入れたタイミングだったそうで三ヶ月程で納車される事となった。

 通常の納期は五~六ヶ月や一年なんて言う事もあるそうだが、ベース車両の納期と架装部分の少なさから短かったらしいです。

 

 こう言う人気車種の場合はショーに合わせて売れ筋のベースグレードを数台発注しておくそうだ。多少のオプション変更も可能らしく、そうしないとお客さんを逃すかららしい。高額な商品のためチャンスを逃さないために必死なのかな?。


ともあれ納車前に色々準備をして待つことになる。


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