第24回幸せはありきたりな日々の中

ショットバー”カデンザァ”は華越絵里江さんが一人で切り盛りしてる。


月に数回催されるパーティー会場の一か所である。


バックに古き良きジャズが流れるお洒落な店である。


夜7時を過ぎてくると、パーティー会場に人が大勢集まってくる。


ベータは欠伸をした。仕事疲れかねえ……。


我道幸代が入場してきた。シックな銀のシルクの上下ですぐにベータに気付く。


「婚約者は一緒じゃないのか?」


「ああ、あれポシャりそう。どうしようもない男でさあ、センセの方が全然レベル上だよ」


「またまた、あっさりしてるねえ……」


「また一緒に暮らす?センセ。今のマンション一人で住むには広すぎる」


「俺みたいなおっさんじゃなくて若手のホープいないのかよ?」


我道は一呼吸置いて「センセはおっさんじゃないよ。そこまで老けてないって」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、一緒に住まなくてもいいだろ」


「センセ、好きな女子出来たでしょう?」我道は小悪魔的表情をする。


「なぜそう思う?」


「女の勘よ」


恐ろしい女だよな、相変わらず……。


「その勘意外に当たってるよ」ベータは溜め息を一つつく。


「そうか、センセその子と結婚するの?」


「まだそこまで考えてない」


「ふ~ん、まあお互い頑張るって感じか」


「そういうことだな……」


2人は見つめ合うが、ベータが視線を避ける。


我道みたいな超美形に見つめられたら誰だって怖気づくだろうが、そういう意味の避け方じゃないのはお互いわかることだった。伊達に6年間同棲してない。


「じゃあ、またねセンセ」


我道は哀愁の後ろ姿で会場に入っていく。


ベータは”カデンザァ”に戻る。


絵里江さんはスマホを操ってる。


「今日もここは朝までやってるのかい?」


「さあ、主催者次第でしょう。何か飲みます?」


「また、おまかせで頼むよ」


「わかりました」


絵里江さんは棚のボトルを物色し始めた。


ベータはふと、幸せってこういうことなのかと意識した。


幸せって意識してない状態のことをいうのか?


40年以上生きてきて、幸せの形にこだわってなかったことに気付く。


こだわりがないってことは自由ってこと?


そんなに簡単に片づけられんぞこのことは……。


絵里江さんはまた特製カクテルを作ってくれた。


贅沢な味がする。


後ろを見ると我道が楽しそうにお酒を飲んでる。


これでいいんだな。


2017(H29)6/29(木)・2019(R1)12/13(金)



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