第44回THE END OF INNOCENCE
8月30日(土)
映画監督”愚蓮京介”は苦悩していた。田舎の広い敷地に発射台を建設したものの、映画の構想は空転していた。
美人マネージャーの崎守叶香は「このままじゃスポンサーが降りてしまいますよ?」と愚蓮を脅してくる。崎守は長髪を後ろに束ね、ライトブルーのシャツをまくり、黒のスカートにヒールといういかにも出来る女風の出で立ち。
彼女は金縁眼鏡を指でずらし、「監督リミットは迫ってますよ……」
愚蓮はこのくそ暑い中で、黒のスーツの上下。”81/2”のグイド役のマルチェロ・マストロヤンニを気取ってるわけだが、グイドのようにカッコ良く決まらない自分の野暮ったさもわかってる。崎守がすべてわかっていて影で含み笑いをしてることも気付いてる。
まったく顔は綺麗でも嫌味な女だ。あーもう映画作る気なくなってきた。この発射台作るのに何千万か出てるんだろ?どうしたもんか……。
突然敷地に黒いバンが3台乗り込んできた。中から黒ずくめのサングラス男が3人出てくる。
愚蓮は思わず後ずさる。
「愚蓮さんですか?」一人がスーツケースを前に置く。
ジャパニーズ・マフィアかなと思ったが、気を取り直して「はい、そうですが」
「その発射台が必要ないと聞いてるんですが、我々に売ってもらえませんか?」
宣言したわけじゃないのに、このタイミングの良さ……どうやって裏情報を聞いたのやら……。
「崎守君、この発射台の製作費は幾ら?」
「2500万円です……」
この異常事態にクールな姿勢で動じてない。顔が綺麗でも嫌な女だな……おっとそれどころじゃない……。
「どういう経緯でこの発射台がもう無用と聞いたのかわかりませんが、あなた方が2500万円出してくれるんですか?」
サングラス男はスーツケースを開けて。
「ここに少し多めですが、3000万円入ってます。どうぞ」
愚蓮は金額よりあの映画で使うセットとしての価値しかない、発射台がなぜ必要なのかそちらの方に興味があった。映画監督は好奇心の固まりだ。
まあ、映画も撮る気が無くなったから、あとは崎守の仕事だ。
「あとはこのマネージャーの崎守君と商談を進めてください」
崎守女史は表情一つ変えず、サングラス男と商談を始める。マネージャーとして優秀なのはわかるが、あまりに完璧すぎて面白くない。人間なら少しはヌケててくれないとロボットと接してるみたいでやだ。
だが愚蓮はこの半年脚本もろくに書き進めず、今回の映画製作は頓挫しそうだし、前の映画のヒットで自分が少し天狗になってることを自覚していた。
そのサングラス男の物好きさはよくわからんが、名監督の器じゃないよね……崎守のような優秀なマネージャーはもっとふさわしい監督に付くべきじゃないか?
愚蓮は離れたディレクター・チェアーに座りミネラルウォーターを飲む。
30分ほどで商談が成立したようで崎守が戻ってくる。
「監督、今回の映画の全資金が回収できそうです。すべてはゼロに戻りました。後は監督次第です」
映画撮る気ないこと見抜いてんだろ?嫌味な女……。
天国口高校一の酒好き体育教師生田直樹は、色々リサーチして駅前の洒落たショットバーに何軒か入ってみて、”スカイブルー”というバーが一番落ち着いてると思い、昨日愛しの汐留先生にメールして今日の夕方一緒に飲みに行く約束を取り付けた。
もちろん朝酒も昼酒もやってない。普段上下ジャージなのに今日はポロシャツにスラックスという普段のイメージと違うので、怪訝な表情をする生徒もいたが、愛しの汐留先生以外には鉄の心臓になる生田は堂々としている。
ついに初デートか……まあ37歳で人生を諦めるのは早すぎると思うが、正直な話諦めかけてたんだよな……。
生田が最後に女性と付き合ったのは大学留年3年目の25歳まで遡る。一方的にフラれたのだが、それ以来スナックでねえちゃん達と話をするくらいで、まったく女っ気のない12年間だった。
生田もよく見れば整った顔をしてるのに、恐持てキャラで通っていたので、なかなか女性も寄ってこない。
警視総監を親戚に持つくらい財力のある実家が勧めるお見合いは100%断っていた。お見合いというのは凄く抵抗があったと言えよう。
体育教師として生徒に教えると同時に自分も体を鍛え、スナックで酒を飲みながら、ねえちゃん達と話してれば充分なストレス解消になった。
この12年間男やもめだが、それほど悲壮感はなかった。気が付いたら12年経っていたという感じ。
曲がった見方をすれば"TOO SHY SHY BOY"が12年ぶりに女性とデートである。どんな顔していけばいいのかわからん。
約束の夜7時は刻一刻と迫ってきてる。なんか今の自分はティーンエイジャーが感じるような恋の甘酸っぱさを実感してるわけだな……楽しみと不安の天秤が左右に上がったり下がったりしてる。
とりあえず生田はバー”スカイブルー”の6時半に着いた。BOXに座り注文は連れが来てから頼みますと店員に告げる。さてと……思ったほど緊張感がない。やっぱ外飲みだとそれなりにリラックスするようだ。
汐留先生が7時5分前に着く。緑のブラウスにベージュのパンツを穿いていた。
一杯目はビールで乾杯したが、「汐留先生はお酒はどのくらい飲めるんですか?」と聞くと。
「付き合いで飲むくらいなんで、どのくらい飲めるのか未知数ですね」意外な答えだ。もちろん酒をガンガンいくようなタイプには見えないがひょっとしてと言う感じ。
初めは何を話そうかと思っていたが、生田は気付くと自分がどうやって育ってきたのかとか、そんなとっかかりから一方的に話し続けた。汐留先生は笑顔で聞いてくれていた。
時間はあっという間に夜10時になっていた。会計の時ここは自分に奢らしてくださいと言うと「ありがとうございます。ごちそうになります」と女神の微笑み。
駅前で別れて、生田は天にも昇る気分だった。明らかに酒に酔ったというよりは汐留先生に酔ってしまったと言っていいだろう。
生田が飲み直しにスナックへ向かったのは言うまでもない。
野上薫子は泊まりっぱなしのネットカフェの自室を片付けていた。あさってから新学期、大学行きは諦めて働くことを選択した。学校で先生と話し合いをしなければ。
「新学期への準備か?」いつの間にか恋人の北島守が来ている。
「そんなとこね、ふぅ」
「やっぱ俺は大学に進学するよ。4年待たず、学生結婚しちゃってもいいし」
「そんな呑気なこと言ってると、私が職場で北島以上の男の人好きになっちゃうかもよ?」
「そんな不吉なこと言わないでよ……」
2人は見つめ合い、野上が手の平で顔を押さえ、笑いだす。
「今の私が元気でいられるのはほとんどが北島のお陰なんだよ。そんな人裏切れるわけないじゃん。もっと自分に自信持ってよ」
「そう言ってもらうと光栄だね……」
「あとは職場探し、若いのに頑張るなわたし……」
「何か手伝えることはないか?」
「平気、平気、ネットカフェなんてもの置く場所限られてるし」
「お金は足りてるか?」
薫子は軽く笑い、「心配することはお父さんと一緒だね」と言ってパソコンを点ける。
アナザーワールドも5日目の本城ベータはビジネスホテルの近くにコンビニを見つけて、おにぎりを4個にサラダカップを3個買った。新聞も買おうと思ったが、売り切れだった。
腕時計が8月30日(土)を表示してるし、多分日本のどこかなんだろう
夜11時になろうとしてる。今日近所を色々回ったが、まだまだ霧が濃くて話にならない。ハリーポッターみたいな魔法の街なのかね?
我道の奴はどこでなにやってんだか……。
2016(H28)4/3(日)・2019(R1)11/17(日)
時間はあっという間に夜10時になっていた。会計の時ここは自分に奢らしてくださいと言うと「ありがとうございます。ごちそうになります」と女神の微笑み。駅前で別れて、生田は天にも昇る気分だった。明らかに酒に酔ったというよりは汐留先生に酔ってしまったと言っていいだろう。
生田が飲み直しにスナックへ向かったのは言うまでもない
野上薫子は泊まりっぱなしのネットカフェの自室を片付けていた。あさってから新学期、大学行きは諦めて働くことを選択した。学校で先生と話し合いをしなければ
「新学期への準備か?」いつの間にか恋人の北島守が来ている。
「そんなとこね、ふぅ」
「やっぱ俺は大学に進学するよ。4年待たず、学生結婚しちゃってもいいし」
「そんな呑気なこと言ってると、私が職場で北島以上の男の人好きになっちゃうかもよ?」
「そんな不吉なこと言わないでよ・・・」
2人は見つめ合い、野上が手の平で顔を押さえ、笑いだす。
「今の私が元気でいられるのはほとんどが北島のお陰なんだよ。そんな人裏切れるわけないじゃん。もっと自分に自信持ってよ」
「そう言ってもらうと光栄だね・・・」
「あとは職場探し、若いのに頑張るなわたし・・・」
「何か手伝えることはないか?」
「平気、平気、ネットカフェなんてもの置く場所限られてるし」
「お金は足りてるか?」
薫子は軽く笑い、「心配することはお父さんと一緒だね」と言ってパソコンを点ける
アナザーワールドも5日目の本城ベータはビジネスホテルの近くにコンビニを見つけて、おにぎりを4個にサラダカップを3個買った。新聞も買おうと思ったが、売り切れだった
腕時計が8月30日(土)を表示してるし、多分日本のどこかなんだろう
夜11時になろうとしてる。今日近所を色々回ったが、まだまだ霧が濃くて話にならない。ハリーポッターみたいな魔法の街なのかね?
我道の奴はどこでなにやってんだか・・・
2016(H28)4/3(日)
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