第43回MY MICHELLE
8月29日(金)
野上薫子の父次郎は駅前の喫茶店シューベルトで考え込んでいた。
薫子が家に戻らなくなって、2か月近くになる。知代と省吾の暴走ぶりは目に余る。
離婚調停なんかに持ち込んでも、知代側に不備が多すぎて、話にならんし”慰謝料は払う必要なし”と弁護士に言われたばかり……。
昼12時半、薫子が入ってくる。
「ごめんね、ちょっと遅れちゃった」
「いや、元気でやってるか?昨日口座に入金しといたが、生活出来てるか?」
薫子は手で制して「大丈夫、それより家の方はどうなったの?」
次郎は眉間に皺をよせ「今の家は売って、マンションでも買おうと思ってる。あの2人のやってることは犯罪だ。いつ何を仕掛けるかわからんから、こちらから消えようと思ってる」
薫子は毅然とした表情で「大学進学は諦めて就職しようと思ってる」
次郎は面食らったような顔をして「そうか……うん、お前の好きなようにしなさい。実はね俺もあの家には帰ってない。ビジネスホテルに泊まりこんでる。お前もネットカフェかカプセルホテルだろう?」
「そんなところ……」
「今回のことは本当にすまんな、また連絡するし、お金に困ったら言ってくれ」
「うん、わかった、私もこないだ取り乱しちゃったけど、悪いことばかりじゃないから……」
野上薫子は窓に向かって遠い目をする。
2学期まであと3日の天国口高校。
例の怪奇現象は新聞部が様々な検証をしていた。パパラッチ視聴覚委員、慶事紀之と初音君也はネタ探しに余念がない。
野球部中島幸人と麗羅雪代が2年の神々谷詩織のことで夫婦喧嘩してるので、浮気現場を押さえようとしてる。
しかし初音は自分の野次馬根性には呆れていた。”ステディ宝田舞音”のことで頭が一杯だった。初音の受かった大学へ自分も行くと言ってるし、メロメロだった。
一方3年A組陸上部の浅利恵子は栄華武蔵も伊藤シャドウもそっちのけで、大学生の彼氏が出来た。補習も受けてるが、ほぼスマホを見入ってる。
モデル顔の深津時枝は彼氏を作ろうとはしない。いい寄ってくる男子はいるが、全てシャット・アウトである。補習の最中も延々鏡に見入ってる。
相変わらず非常勤講師堂面菊四郎は前の晩に飲み過ぎて、机に脚を乗せ居眠りをしている。黒板には曲がった字で自習と書いてある。
大松稲太郎は周りの無政府ぶりに逆行して試験問題を解いてる。
大貫敏夫はスマホでアニメを流しつつ、脚本の構想を練り、シャープペンを走らせる。
カッコいい系美少女遠藤くすみは我道幸代と連絡が取れず、あれだけ勉強を教えて欲しいと言ったのに変だなと思ってる。
3Aにも顔を出して「ねー浅利さー幸代来なかった?」
浅利は首をすくめて「しばらく会ってないよ」
遠藤は「なんだ、どうしたのかな?この2,3日連絡が取れない」とぼやく
ベータは目を覚ました。日付は8月29日金曜の夕方5時。相変わらず霧の街である。ここは天国の街なのかな?いくら歩いても霧だらけ。
所持金を調べてみた。8万くらいはあった。とりあえず我道を探すか?霧がどこまで続いてるのかわからない。
夏だから野宿も可能だが、シャワーが浴びたい。
しばらく歩くとビジネスホテルっぽいのがあった。部屋を取り、早速シャワーを浴びる。
こういう不測の事態になってもベータは動じていなかった。むしろ天国口高校で働き出した時点で”アナザーワールド”に突入してたと言える。それにしても眠い。
2016(H28)2/15(月)・2019(R1)11/17(日)
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