第34回Lost In Emotion
8月20日の昼間、体育教師生田直樹は仕事もそっちのけで、ビールを呷っていた。
「えー、どーせ男やもめですよ、畜生」
生田にもプライドはある。今の自分じゃ汐留先生とは釣り合わないのもわかってる。
汐留先生が好意的なだけに余計辛いのだ。
生田はまたビールを開けた。
飲もうと思い口を付ける直前でストップした。
もう酒で憂さを晴らすのはやめよう。しばらく飲み屋に行くのもやめんとな。
生田は何を今更決意なんかしたのかわからなかった。自分はやけくそになってるのか?……わからない。
突然の急展開に舞い上がるさすらいの運動音痴野郎北島守も野上薫子と付き合い出して10日経つが、もっと前から一緒にいた感覚だ。
既に野上は一ヶ月家に帰ってない。しかし父次郎がキャッシュカードを授けてくれたので、どうにか、ネットカフェやカプセルホテルを利用出来た。
北島は自分の貯金をある程度崩して野上のために使った。
今日も立川のサイゼリヤだ。「もっとちゃんとした店へ行くか?」北島はエレベーターの中で野上に聞く。
「いいよ、北島だって将来のためのお金使い込んじゃってるんでしょ?」
「将来のためねえ……そこまで考えてない気がする」
「たまには私に奢らせてよ、ね?」野上に太陽のような微笑みを受けると何も言う気にならなかった。
サイゼリヤは多くの学生で埋め尽くされていた。制服の子もいればジャージ姿の子もいる。
北島は進学するつもりなってきた野上に聞いた「うん、一応明日父と会って話し合う」
北島が気になってるのは野上がどこの大学へ受けるかだ……「一緒の大学行きたいね?」さりげなく聞いてみた。
野上は頬杖を付いて「学力テスト7位の人の学力についていけるかなあ……?」と漏らす。
「野上はもともと勉強出来るんだから、大丈夫だよ、俺は短期集中的に頑張っただけ」
「大学に行くのが正解なのかなあ?私は働くことに対する興味や好奇心は残ってる」
「例えばマー君とハンカチ王子のようなパターン?」
「う~ん、ちょっと違うかもしれないけど、ママハハと省吾がいなくなれば、今より環境がよくなるし、大学受験に対して積極的になれると思う。まだ間に合うからね……慌ててない。とりあえず私は大学進学も就職もどっちもアリかな」
野上は働くことに対しても積極的だ。見習わないと。
ベータは昼間仮眠を取って、パソコンに向かってる。夕方になっても我道は起きようとしない。
疲れてるのか?まあいくらでも寝なさい。
ベータはいつの間にか寝ていたようだ。台所で香ばしい匂いがする。我道が何か作ってくれてるようだ。
夕食はローストビーフににシーザーサラダにクラムチャウダーにフランスパン……。
「随分豪華だけど、お前にしては珍しく酒がないな……」
我道はニヤリとして、隠していたワインを取り出した。
「やっぱね、億万長者はやることが違う」とベータがぼやいても、我道は相変わらずのポーカーフェイスぶり。
食事が終わって、2人でベータのベッドに横たわる。
「センセの家の窓からも月が見えるんだね?シャドウ先生の家からも見えた」
「なんでシャドウ先生と別れちゃったの?」
「なんでって言われても困るけど、自然消滅に近いな……多分」
「ふ~ん、本当に俺なんかが相手でいいのか?」
「もう、半同棲生活じゃない」
「よく言うよ……」
「早く高校なんか卒業して働きたいなあ……」
「今もバイトしてるんだろ?」
「まあね」
我道というパートナーを得るのは心強いが、ほんとにこれでいいんだろうか?
”VERY STRANGE”だ。
2015(H27)9/15(火)・2019(R1)11/14(木)
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