第20回GIRL TODAY
8月2日(土)
本城ベータは朝7時頃に目を覚ました。どうも頭が重い。
そうか、昨日我道が泊まってワイン2本にビールを数缶、しかもバーボンも一本開けたんだ。寝たの何時頃だっけ?夜中4時?まだ3時間しかねてないじゃんか!
寝直そう。
我道はソファーで横になってる。
次に目覚めたのは朝10時頃。台所で我道が朝食を作ってるようだ。
「センセ、もろ二日酔いっぽいね?」
「お前は大丈夫なのか?」
「鍛え方が違う……」
18歳で酒の鍛え方が違うとはよく言ったもんだ。
ベーコンエッグにコーンポタージュスープにロールパンが2個、レタスサラダと栄養のバランスが取れてる。
「ありあわせでよくここまで作ったな?」
我道は何も言わず、ロールパンを食べてる。
「お前結婚願望とかあんの?」
「18歳の娘に言うセリフ?」
「まあな……でも岸森は俺と結婚したいとか言ってたぞ」
「あの子はすっ飛んでるから言いそうだけど……」
我道も相当すっ飛んでると思うけど。
「なんなら私と結婚する?センセ」
ベータはポタージュスープを吹き出しそうになる。
「今の彼氏はどうすんだ?」
「うーん、彼は私と本気みたいだけど、私は少しずつ後退し始めてる」
「ふ~ん、23歳の若者より、俺みたいな黄昏てる36歳の方がいいのか?」
我道は吹き出して笑い始めた。
これだけ笑ってる我道を見るのは初めてだ。
「お前も最近年相応の反応示すようになったなあ……」
「センセは黄昏てなんかないわよ、その無精髭剃ればイケてるんじゃない?」
「まあな……俺の彼女になってくれるのか?」
我道は頬杖をついて天井に目を向けてる。
岸森の時もそうだったが、我道と一緒の時も沈黙が訪れても、何も苦しくない。むしろリラックスする。
「まあ、明日菜も戻ってくるわけだし、センセは明日菜に譲る」
「別に俺はお前でもいいよ」
何を言ってるのか?ベータは冷静になろうと思った。
「いや、ちょっと待て」
我道は怪訝そうな表情になってる
「お前との距離感がよくわからんのだ。あまりに近すぎてかもしれんが……お前ひょっとして、香水に媚薬混ぜてない?」
「混ぜてるよ」我道は即答する。
なるほど、若い男が引っ掛かるようなことを日頃から実践してるのか……。
「まあ、お前も微妙に貞操観念あるみたいだし、俺んちももう5,6回泊まってるだろ?」
「何が言いたいの?」
やはり我道と話をしてると鼻が麻痺してくる。頭がボーっとしてくるのだ。
「ただお前に襲いかかる男は袋叩きにされるわな」
「9分9厘ね」我道はまた即答する。
我道幸代取扱説明書でもないかなあ……ベータは切にそう思った。
さすらいの運動音痴野郎”北島守”はヘコんでいた。トレーニングがはかどらないし、すぐ疲れてやめてしまう。
スマホには慶事紀之のメールが5件くらい溜まっていた。視聴覚委員をサボるなという内容だろう。
家にいてもむしゃくしゃするだけなので、外に出る。
街はサウナ状態だった。喫茶ルノアールに入って朝日新聞を読む。窓から見るとほとんどの男がハンカチなり、タオルを首に巻いてる。とにかく暑い。
そもそもなぜ自分はこうも野上にこだわるのだろう?全く脈がないのに何をしがみつかなきゃいかんのか?
ブルーベリージュースを飲みながら、この際別の女に射程距離を移すか?わが高はよりどりみどりだし、野上みたいに冷たくなく優しい子がいるんじゃないか?そうだよな……野上は大学に進学せず働くようだが、自分は大学は行きたい。社会に出る前の執行猶予とはいえ……そうなんだよな、俺は盲目になってたんだな……。
ちょうどルノアールのあるビルの前の通りを野上薫子は横切っていた。
こないだ異母弟、省吾に無理矢理キスされ、11日間家に帰ってない。
手持ちのキャッシュカードがあったので、着替えには困らなかったし、立川のカプセルホテルで20歳と偽って泊まっていた。
父次郎はまったく当てにしてなかった。浅利恵子や北みちるの家に泊まらせてもらおうとも思ったが、なんか気が引けた。しかし預金残高も少なくなっていた。
こうなると元副担任の本城ベータを頼るしかなかった。ベータの携帯にTELする。番号は岸森から聞いていた。
ベータの家から我道が帰って、テレビを観ていたら、知らない携帯番号が表示された。
「もしもし」
「あ、本城先生?野上薫子です。ちょっと相談があるので、駅前のマックに来てもらえませんか?」
「野上?もう夜10時だぞ、家に帰らなくていいのか?」
「とりあえず待ってますから」そう言って野上は電話を切った。
ベータはチャリで駆けつけ、野上の家庭事情を詳しく聞かされる。
「つまり、その異母弟が怖くて帰れんと?」
「そうです」野上は下を見て瞳を潤ませる。
「わかった、わかった。金も底を尽きかけてると?」
「はい」
「まあ、俺も今天国口高校とは無関係だからな、俺んちに泊まりなさい」
「え?いいの?」
「襲いかかって来るなよ?」
野上は不敵な笑みを浮かべ「保障できないなあ……」
この暑いさなか、女難の相だなとベータは諦め顔。
2015(H27)5/20(水)・2019(R1)11/12(火)
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