第11回君がいるから、僕がいる、君がいないと僕はだめ

梶五十歩とサファイアはむくれて吉野家の牛丼特盛をかっ込んでいた。


二人とも顔に2,3枚絆創膏を貼っていた。バンソーコー顔が若さの勲章ともいうべきか……。


梶五十歩と高橋・サファイア・ライト・里見は朝教室で口論が発展して、取っ組み合いになり、周りに煽るように騒ぎ立てた生徒共々職員室で絞られた。


汐留先生は普段女神のように優しいが、暴力となれば話が違う。今迄見たことがないほど激した。同席した伊藤シャドウ先生や宮田教頭も圧倒されていた。


結局来週の月曜まで自宅謹慎ということに落ち着いた。


「お前も信じられない女だよな、何だあのアッパーカットは?アゴが外れそうになったぞ……」


「18歳の乙女に殴り掛かる方が信じられないわよ……」


「よく言うぜ……お前ボクシングかじってたろ?」


「少しね、先生が来て止めなきゃ、あんたをKOしてたわよ……」


「ほんと怖い女……」梶は首を振って水を呷る。




我道幸代はふいに目を覚ました。「あれここどこ?ああ昨日も酒飲んじゃった」


「やっと気付いたか?」ベータはパソコンに向かってる。


「あれ、センセ?ちなみに今何時?」


「昼の12時過ぎだよ」


「あ~あまたやっちゃた。今日平日だよね?」


「まったく、お前も優等生なのか、不良なのかよくわからんな……気持ち良さそうに寝てるから起こさなかったが、起こした方がよかったか?」


「私一応高校生だよ、普通起こすでしょ?」


「今まで聞いたことなかったけど、お前は大学へ行く気あるのか?」


「う~ん、迷ってる。知り合いにモデルにならないかと誘われてるし……どうしようかな?」


モデルか、この娘には天職かもしれん。でもこの器量なら、ただのモデルだけで終わるとも思えん。


「とりあえず学校行ってきます」我道はふざけ半分に敬礼した。


「いってらっしゃい~」


我道が出た後もベータはパソコンに向かった。




放課後の天国口高校の職員室で伊藤シャドウはこないだ我道が廊下ですれ違いざまに渡したメモを見て、考えていた。


”こうのとり、立ちあぐね” とだけ書いてある。こんなタイトルの映画があったような……そもそもこのメモの存在を忘れていて、こないだ7月12日の土曜に我道を部屋に泊めた時も何も聞いていない。


待てよ”こうのとり”!?……いやまさかな、考え過ぎだ。でも何か映画でも観たい気分になってきた。いい傾向。



夜7時だってのに外は明るい。夏本番という感じだな。伊藤シャドウは普段あまり映画は観ない。


余程有名で、テレビで放送している映画、例えば「タイタニック」や「となりのトトロ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「マトリックス」「スターウォーズ」を観てるくらいで、レンタルでしかもDVDを借りたことなどない。


実際レンタル屋に入ると、知らない映画が沢山並んでいて、まるでパラレルワールドに突入したみたいな気分である。


へぇ~レンタル屋ってこんな所だったっけ。高校生の頃友達に誘われて入って以来だ。


何を選んだらいいのかまったくわからないので、前から気になっていた「ダークナイト」と「風の谷のナウシカ」の2本を借りる。旧作なのでかなり安く借りれた。


同じ頃我道はクラスメートの浦兼好恵と添木加奈子と駅前を歩いていた。


我道は駅前のロータリーに停止してる黒いバンから黒いスーツとサングラスの男が出てきた所が目に入った。普段のポーカーフェイスの我道の目の色が変わった。浦兼は気付いて「幸代どうしたの?」


我道は浦兼の鋭さに面食らったが、「いや大丈夫だよ」と言い手で制した。


黒いバンは数秒後には走り出していた。我道は笑いたくもないのに、自分の表情が緩んでるのを心の中で皮肉った。


2015(H27)3/18(水)・2019(R1)11/12(火)




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