第32回微笑みの証明

我道は3回続けてドアをノックする。


「先生、誰?」


岸森は少し怯えてる。


「いや、大丈夫居留守にすればいい」


そのうち人の気配はなくなる。


「行っちゃったみたいだね」


岸森は胸に手を置いて、一息つく。


夕方岸森とマックへ行く。


しかし副担任が生徒と堂々と個人的にマックに来てる事自体逸脱してるんだよな。


この子猫のような岸森に罪はない。


ふいにマイケル・ジャクソンの「HUMAN NATURE」が流れる。


自然に身を任せる……いいかもしれんな。


夜岸森と映画「風立ちぬ」を観に行く。


途中から岸森は俺の手を握ってくる。


小さくて柔らかい手だ。


この子を大事にせんとな。


映画館の前で岸森と別れ、歩いて家に帰る。



8月20日火曜日


夏休みも残すところあと10日あまり。


補習の準備をしてると職員室の入口から野上が手招きしてる。


「なんか面白いことになりそうだよ」


「面白いこと?」


「我道が柔道部の主将の山上とタイマン張るみたい」


慌てて校庭に出る。3年生の山上と言えば大会で準優勝した強者、いくら我道でもなあ。


勝負はあっけなくついていた。我道が手をパンパンとはたいてる横で巨体の山上がくたばってる。


なんて奴……


我道は無表情で俺の方を向いた。目は笑ってるように見えた。


生田先生は竹刀片手に首を落としてる。


「まったく柔道部の主将が女子に負けるようじゃ世も末だな、どうだ我道柔道部に入らんか?」


我道はそれには答えず、ゆっくり立ち去る。


「我道ってひょっとしてこの高校で一番喧嘩強いんじゃない?」


野上が腕を組みながらつぶやく。


「多分な……それよりお前は今日学校に何しに来たんだ?」


「別に暇だから」


野上はそう言って、またおさげを揺らしながら、校内に戻っていく。


さて仕事、仕事。


「本城先生」


後ろから呼び止められる。汐留先生だ。


「今夜、時間ありますか?」


「え?どういった用件でしょうか?」


「ドトールで7時に待ってます」


そう言って汐留先生は足早に去って行った。


なんかやな予感。


仕事は5時半には終わる。


スタ丼でも食ってからドトールへ行こうかな。


学校を出たら一気に汗が噴き出てくる。


ハンカチで顔を拭う。


スタ丼食ってから古本屋で少し物色する。


ドトールへは7時前に着く。


汐留先生は既に来ていて、ホットコーヒーを飲んでる。


「それでお話というのは?」


「あの、こんなこと聞くのはなんですが、私って女としてどうなんでしょう?」


「え?」


思わぬ切り返しにどう答えていいかわからない」


「こんなこと聞かれても答えにくいですよね」


「はあ……」


あなたほど完璧な美しさを誇ってる女性は滅多にいないですよと答えたいけど……


言えんよね。


2013(H25)10/12(土)・2018(H30)5/6(日)

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