魚群戦隊ウオレンジャー

石田篤美

母なる海に迫る危機!ウオレンジャー出動せよ!

 二0XX年、人類は危機に陥っていた。


 悪の組織『ニークマター』が、肉による世界征服を始めたからだ。

「モーッモッモッモッ! 俺様の名はギューニック。愚かな人間どもよ、我々の前にひれ伏せ!」

 それは突然の出来事だった。

 ある日、牛の怪人・ギューニックが日本のとある街を襲撃したのだ。

「な、なんだ⁉」

「くらえ! 肉肉ビーム!」

ギューニックは頭の角から光線を発射する。

するとあら不思議。その光線に当てられたものが次々と変貌していく。

「うわあっ! 俺のスマホが牛肉にー⁉」

「私のペットの犬も牛肉になっちゃった!」

「うおおっ⁉ 街中のビルも牛肉に! どういう状況だこれ!」

「モッモッモッ! このまま世界を肉で埋め尽くしてやるぜ!」


 突如現れた脅威に人類はなすすべもなく、間もなく地上は肉で埋め尽くされてしまった。

 人々は、とてつもない絶望の前に敗れ去ったのである。


「地上は我らニークマターが占拠した! あと地球上で残っているのは……、海か」

不敵な笑みを浮かべながら、ギューニックは海岸沿いまでやってきた。

「この海すら支配して、俺たちは完全なる世界の王になってやるぜえ!」

 ギューニックが海の中へ入ろうとした、その時!


「待て、二―クマター! お前たちの好きにはさせないぞ!」

「だ、誰だ⁉」

 どこからともなく聞こえる謎の声。

 ギューニックが前方を向くと、水面上に三つの人影……いや魚影が見えた。

「何者だ!」

 その影の正体は、人の身体に魚の顔をつけたおかしな連中だった。

「マグロレッド!」

「イワシブルー!」

「サケピンク!」


「母なる海の救世主! 魚群戦隊……」

「「「ウオレンジャー!」」」


 ポーズを決める三人の後ろで大爆発が起こる。

「熱っ! ちょっとやめてよ! 焼き魚になっちゃうだろ!」

 爆発は想定外だったのかレッドが地団駄を踏んで怒り出した。

「どこに突っ込んでるんだ! というか何なんだ貴様らは!」

「ウオレンジャー」

「だから何なんだそれ」

 ギューニックの問いにブルーが答える。

「海の平和を守る正義のヒーロー、それがウオレンジャーです」

 三人は再びポーズをとる。するとまた大爆発が起き、レッドが怒り出す。

「だから爆発やめろって!」

「もういいよ!」

「それはそうと、ギューニック! あんたの好きになんかさせないわよ!」

「そうさ、俺たちがやっつけてやる!」

「……くそっ、ふざけやがって。お前らなんか魚肉ソーセージにしてやるぜ!」


「俺たち魚を……、なめるなよ!」

 レッドが啖呵を切り、ギューニックの元へと走っていく。

「これでもくらえ、肉肉ビーム!」

「効かないね! やあっ!」

 レッドは攻撃を華麗によけながら敵にパンチやキックを連続して浴びせる。

「くっ、ちょこまかと……!」

「俺は鮪だからな、止まってる暇なんかないんだよ」

 マグロの特徴を生かしたレッドの攻撃にギューニックは苦戦する。


 次はピンクがアタックを仕掛ける。

「今度はピンクか!」

「行くわよ、産卵ボンバー!」

 ピンクはお尻から何個か卵を産むと、ギューニックに向けて投げつけた。

「痛いっ! お前、仮にも自分が産んだ卵をなんて扱いだ!」

「ウフフ、鮭は一度に三千個も卵を産むのよ。何個か割れてても気にしないわ」

「鬼か! ……ん?」


「ううっ……」

 ふと横を見ると、ブルーがガタガタ震えながらギューニックを見つめていた。

「ほう、こいつが一番弱そうだな。よーしこうなったらこいつだけでも!」

「うわあーーっ!」

「「待て!」」

「今度はなんだ?」

 ギューニックが声のした方を向いてみると、水面に二人の魚影が……。


「イワシスカイブルー!」

「イワシコバルトブルー!」


「また出てきた!」

「スカイブルー、コバルトブルー、来てくれたんだ!」

「力を合わせるぞ、ブルー!」

「うん!」

 青系三人は拳を天高く振り上げ、

「「「うおりゃあああ!」」」

 一斉に殴り掛かる。

「ぎゃああっ! ちょっ、三対一とか卑怯だろうが!」

「僕たち鰯は群れをを作って行動する魚です。そして大勢で相手をボコボコにするのが大好きなんですよ」

「こいつらが一番怖えーっ!」

「よーし。ピンク、ブルー、とどめの必殺技だ!」

 レッドの呼びかけに二人が答える。


「行くぞ! ウオレンジャーボール!」

「ええ、行くわよブルー!」

 ピンクはどこからかボールを取り出し、ブルーへ向けて投げた。

「はい、レッド!」

 それをブルーはバレーのトスの要領で真上に突き上げる。

「おうっ! フィーーッシュ!」

 そしてレッドは高くジャンプして、そのボールをけり上げる。ボールはギューニックの方へと向かいながら徐々にその姿を変えていく。

「なっ⁉」

 ギューニックの前に現れたのは大きなひれ、鋭い牙を持った獰猛な鮫だった。

 鮫はギューニックに最接近すると、彼を巻き込んで大爆発を起こす。


「こんなふざけたやつらに負けるとは……」

 断末魔をあげながら、ギューニックの身体が爆発四散する。

「正義は必ず勝つのだ!」

 レッドは高らかに声を上げた。

 

 かくして海の平和は守られた。


 ありがとう僕らのウオレンジャー! 

 これからも頼むぞ、ウオレンジャー! ウオレンジャー!

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