第47話 八年前の真相②
「それで、お前らさっき生き残りの親子って言っていたよな? 間違いなく母親も生き残っていたのか?」
「ああ、間違いないよな。セイコム?」
「そうだな、確かに生き残りは母と子の親子二人だったぜ。ってどうしたんだタカシ?」
二人の答えに混乱してしまう。確かにレーカスさんは生き残ったのはキキーリア一人だと言った。
それにキキーリア自身も一人でこの街に連れられてきたと言っていた筈だ。
「いや、俺はその時の生き残りは娘一人だけだって聞かされていたんだよ。実際その子もそういう認識をしていたし……一体どうなっているんだ」
俺が悩んでいるとセイコムが声を掛けてきた。
「なあ、その子って当時五歳くらいだった小さな女の子だろ? 確かその子は俺達に保護された時にはショックで倒れていたと思うし、実は母親の方は大きな傷を負っていて、保護されて連れ帰る途中で亡くなってしまっただけじゃないのか?」
成程、と一瞬納得仕掛けたのだが、そこでアルスが口を挟んできた。
「いや、あの時村中が惨殺されていた中で、あの親子だけは無傷だった筈だ。黒髪黒眼の人種は珍しいから奴隷にしようと襲われて、だから親子だけ無傷だったのだろうとレーカスさんが言っていたのを覚えている」
その話はキキーリアから俺も聞いた。しかしそうすると母親がどこに言ったのかが謎になる。
そうしてまた暫し考えているとアルスが付け加えてきた。
「あの時は俺もこいつもガキだったし深く考えは至らなかったんだが、事件の時村に駆けつけた俺達は賊と戦闘になったんだが、奇跡的に死者は一名も出なかったんだ。俺達にも、そして盗賊達にも……」
「おい、アルス。それって!」
アルスの言葉にセイコムが声を荒げる。
「分かっている。俺だって雇用主を疑うような真似はしたくない。だが俺もお前も、もう大人だろう? 今になって考えればあの時の戦いは全てがおかしかった。俺達が火の手に気付いてすぐに駆けつけたのだってレーカスさんの指示だ。それに――」
疑いたくないといいつつも、一つ一つ思い出しながら当時の事を語るアルスの喋り方は、どこか確信を得たものへと変わっていた。
「盗賊はわざわざ村に火を放ったりしない、目立つしばれる可能性があるからだ。それなのに火は放たれた。村人が全滅するタイミングでだ。まるで誰かに合図でも送るかのように」
「た、確かに……だけどそれじゃあ」
「そして俺達は交戦したのにもかかわらず、怪我人こそ多少は出たものの死者は互いに0名だった。これは余りにも出来すぎじゃないか?」
「ちょ、ちょっとまってくれ二人共。それってつまり……」
俺が割り込んだ事によりアルスとセイコムまで黙ってしまう。そして俺は二人の話を聞いて自分の頭の中に浮かんできてしまった最悪の想像を、自らの口から発するのだった。
「つまり……盗賊達はレーカスさんに雇われていて……全てはレーカスさんがその親子を手に入れる為に仕組まれた茶番だった……と」
アルスとセイコムは下を向いたまま答えない。
その沈黙こそが、自分達が辿り着いた答えも同様であると肯定するかの様に。
そしてそこまで辿り着けば想像が付いてしまう。
あの日、地下研究所でレーカスさんが言っていた「新しいストック」という言葉の真意に。
恐らくキキーリアが元々ストックであり、同時に保護されていた元精霊の子孫である母親の方は既に……
カラン――
その時、背後から物音が聞こえた。続けてだれかが走り去っていく音が聞こえた。
続けて見知った顔が裏路地に顔を出す。
「タカシ? こんな所で話していたのですか? 今貴方の帰りが遅いから様子見てくると言って出ていったキキーリ――キキさんまで帰ってこないので二人を探しに出てきたところなのですが……それに今あちらに走っていったのって……」
しまった。時間を掛け過ぎてしまった。心配して探しに来てくれたキキーリアに話を聞かれてしまっていたらしい。
俺は慌ててキキーリアの後を追って走り出す。
「え、ちょっと? タカシ?」
「お、おいタカシ。どういう事だ!?」
「ちょっと待て。説明をだな!」
三者から説明を求める声が掛かるが今は時間が惜しい。一刻も早くキキーリアを追いかけなくては。
「アルス、セイコム、すまん。約束は守れそうにない! カー子! 俺はあの子を追いかける! 事情は二人に聞いてくれ、そして出来れば今夜の事は忘れさせてやってくれ」
アルスとセイコムは分かっていないようでポカンとしていたが、カー子だけは俺の言葉に納得したように頷くと、二人に向かって距離を詰めていった。
今夜のカー子は傍目からは分からないが、”限定解除”を行った精霊状態を保っている。
二人には悪いが俺にした話と同じ内容をカー子に話してもらった後は、彼女の魔法で俺としたデート斡旋の約束ごと今夜の記憶は失ってもらおう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます