第44話 キキーリアとのデート?①

「そういえば……お給料……私の為に使っちゃって、大丈夫なんですか……?」


 夜のゴーグレの街並みを物珍しげにキョロキョロと見渡しながら、隣を歩くキキーリアが上目遣いに聞いてきた。

 俺達がレーカス商会で働き始めてからもうすぐ二ヶ月が経過しようとしている。

 

 レーカス商会の給与システムは月末締めの翌月二十日払いとなっている。

 最初の雇用契約時に生活が辛いようであれば、一部先払いも可能であると説明されたのだが、ワイバーンの討伐報奨金で多少の蓄えがあった俺達はそれらを断り、つい先日訪れた給料日で初任給を受け取った。


 職場環境という観点から見たレーカス商会は、控えめにいってもホワイト企業といえる優良就職先ではあるのだが、雇用主にブラック疑惑が掛かっているグレーな現状である今、折角の初任給にも多少なり複雑な感情を抱いてしまう。

 しかしこのお金は紛れもなく俺達二人が汗水垂らしながら、真面目に働いて手に入れた労働に対する対価でもあった。


 数日でクビになった宿屋の仕事や、その日暮らしの日雇い同然で稼いだ日銭や臨時収入のワイバーン討伐報奨金とは重みも思い入れもまるで違う一線を画する存在。

 日々の努力、汗と涙の結晶。それが月給であり、俺の人生で初めて手にした記念スべき初任給なのだ。


 初任給といえばやはり最初に思い浮かぶ使い道は親孝行なのだが、残念ながら異世界であるこの魔法世界では母に合う事もプレゼントを郵送する事さえ敵わない為、この使い道は断念した。

 そして、カー子と相談した結果、この世界にやってきてから一番といっても過言では無い程仲良くなったキキーリア、彼女へのサプライズに初任給を使う事に決めたのである。


「ああ、問題無いよ。お金自体にはまだ多少余裕があるからね。それよりも俺が初めて自力で働いて稼いだお金でキキーリアを喜ばせたかったんだ」


「はい、ありがとうございます……私、今……人生で一番……楽しいです!」


「それは良かった。本当に……」


 これだけ不幸の渦に飲み込まれた彼女なのだ。少しくらいチートじみた力を借りて幸せな思いをしてもらっても罰は当たらないだろう。

 そう思い俺は隣を歩く満面の笑みのキキーリアを見た後、反対側を歩いていたカー子の方を向き小声で「ありがとう」とお礼を言った。

 キキーリアはデートだとはしゃいでいたが、当然カー子もついてきている。俺一人では不測の事態に対応できない為、当然といえば当然なのだが……


「……別に、タカシの為じゃありません。キキーリアちゃんの為なんですからね」


 カー子がそっぽを向いて照れくさそうに憎まれ口を叩く。


「ああ、分かっているよ。それでも、ありがとうな」


「もう、いいですから! 次行きますよ」


 そう言ってカー子はカツカツと俺とキキーリアの前を行くように、歩を早めるのだった。



 ◇



 何件かお店を回ってみたのだが、キキーリアへのプレゼントは中々決まらない。


「キキーリア、何か欲しい物とかあったか? と言っても服の類は今の状態じゃ試着が出来ないから難しいしな」


 そう、本来十三歳の女の子であるキキーリアは現在カー子の魔法によって、キキーリアと分からぬように十八歳相当の見た目まで成長した姿をしている為、十三歳の彼女が着る服の試着が出来ないのだ。


「となると……何かネックレスとかアクセサリーの類か……?」


 俺の言葉にキキーリアがビクリと震える。


「そ、そんなアクセサリーだなんて……」


 キキーリアは右手で自分の左手薬指を擦りながら頬を赤らめている。

 先程も思ったのだが、外に出る機会に恵まれずずっと加護の中の鳥状態で、読書ばかりをしてきたせいか、キキーリアは若干おませさん且つ、妄想に耽る傾向があるように感じられた。


「ちなみに他に回ってみたい所とかあるか?」


「そ、そうですね……もう夜も遅いので閉まっていると思うのですが……展望台から、街の景色を眺めて見たかったですね……」


 そうか、町を見て回りたいと言っていたキキーリアだ。展望台からの景色にもさぞ興味があった事だろう。夜の外出してもバレない時間帯を優先してしまい、そこまでは気が回らなかった。


「成程、流石に昼間は屋敷の人にバレてしまう可能性が高いから難しいかもしれないが、いつか折を見て展望台にも連れて行ってやろう」


 しかしそこでキキーリアとは反対側から、きゅーという可愛らしい音が鳴り、思わず振り返ってしまった。

 見ればうちの食いしん坊精霊がお腹を抑えながら顔を耳まで赤くしていた。説明するまでも無いが、キキーリアとは全く別の意味でだ。

 そういえば仕事が終わってから準備や支度で忙しくて晩悟飯を食べていなかったな。

 キキーリアも今はともかく中身は育ち盛りの女の子だ。口には出さなかったが相当お腹を空かしていた事だろう。


「ま、まあ一度食事にして、プレゼント探しはその後にしようか」


 俺の提案に二人が賛同し、俺達は近くの食堂に足を運ぶのだった。

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