第45話 キキーリアとのデート?②
「あれ? タカシとカー子ちゃん? 奇遇だね、こんな所で合うなんて」
近場の飯屋に立ち寄り食事中だった俺達は、後ろから掛けられた声に思わず振り向く。
そこには金髪を短く切りそろえた高身長の青年と、見るからにチャラそうな茶髪の青年の二人組が立っていた。
「それに……おい、アルスよく見ろ! タカシの奴、他にも女の子を連れているぞ!」
「な、なんだってセイコム? とんだ反則技だな、これは見逃す事は出来ないな」
今、お互いに名前を呼びあった二人はアルスとセイコム。
歳は俺と同い年の二十四才で、レーカス商会の警備部門の先輩兼同僚であり、カー子の事で妬まれがちな且つ、一部からは『炎獄の魔道士』として避けられがちな俺の数少ない、というか唯一といっても過言では無い職場で出来た友人である。
女好きで最初の頃は他の同僚と同じ様にカー子の事で嫉妬しており、しかし俺の二つ名にも動じる事無く正面からぶつかってきてくれた二人組。
そして何を隠そうこの二人組こそ、以前レーカス商会の訓練施設で俺を絞め落としたアホとクソ審判である。
ちなみに茶髪のアホがセイコム、金髪のクソがアルスである。
まあそんな訳で、日頃に関して言えば歳が近い事もあり極めて良好な関係を気付いている両名なのだが、流石に今日は日が悪い。
案の定アルスとセイコムは、俺達と食事の席を共にしている大人姿のキキーリアに興味津々だ。
「おい、タカシ説明しろ。そこの美しいお嬢さんはどこのどなただ? 紹介しろぃ!」
「そうだ、場合によっては審判役として見逃す訳にはいかないぞ!」
セイコムに続いてアルスの方まで悪乗りを始めてきた。っていうかお前は普段から色々と見逃し過ぎなんだよ。もうちょっと公平に審判しやがれ。
そんな事を考えつつも必死で言い訳を考える。
「え、えーと……彼女はキキー……あー、キキっ! そう、キキさんだ。えーとキキさん、こちら俺の同僚でレーカス商会の警備部門で働いているアルスとセイコム」
キキーリアと言い掛けて慌ててしまい、咄嗟に名前を短くして読んでしまったのだが、キキーリアの方もレーカス商会と聞いて察したのか、何とか対応してくれた。
「は、あ……その……は、初めまして……キキと申します」
元々人見知り気味で俺達と話せるようになるのにも時間が掛かったキキーリアだ。
何とか返事を返せたものの、完全にテンパっている様子だ。ここは何とか彼等二人には一刻も早く退場して頂かないと。
「あー、彼女……キキさんは良い所のお嬢さんでな、今回はレーカス商会の客人としてお父上と共にレーカス邸にやって来たのだが、お二人の商談が長引くので町の案内を頼まれて俺と、同性のカー子が今エスコート、俺がその護衛をしている訳だ……」
咄嗟に出た嘘だったのだが、俺にしては上出来だったと言えるだろう。
商会の客人、そしてお二人の商談という言葉から、上客のご令嬢である可能性を想像した二人は、先程の言動を思い返して死者のように青ざめた顔をしている。
これはチャンスと思い、ここぞとばかりに畳み掛ける。
「ほら、キキさんも先程は二人の勢いにビックリした様子でしたが、今ならまだ大丈夫ですよね? 俺達もレーカスさんには黙っておくから、なぁカー子?」
援護射撃を求めてキキーリアとカー子に目配せをする。
「え、ええ……私は、大丈夫ですから……」
「そうですね、今ならまだ口を閉じておけますので、今日はここで引く事をオススメ致します」
二人の援護も決まって、アルスとセイコムは素直に引き下がる事を決意した様子だ。
「こ、これは商会長のお客人とは知らずに。大変失礼を致しました」
「わ、私達はこれにて失礼させて頂きますね」
こうして突然の来訪者達は、キキーリアもといキキさんに頭を下げて俺達に背を向けた。
どうやら、邪魔にならないよう店を変えるらしい。
悪い事をしてしまったとも思うが、咄嗟に出た嘘だった上に、一緒に食事など許してしまえばボロがでる可能性が高かった、仕方が無いといえるだろう。
しかし、アルスとセイコムの二人組が店を出る間際に話していた会話が、偶然にも俺の耳に届いてしまった事によって、この後も楽しい思い出となる筈だったキキーリアとの初デートの時間は、暗雲の訪れと共に終わりを告げるのだった。
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