第33話 教えてカー子先生③

「確かにタカシは内包されている魔力量が常人よりも遥かに多いですからね。安全を考えて小出しにする先程までのやり方よりも、こちらのほうが一気に感覚を掴めるかも知れませんね」 


 俺の血を吸い取る事で、その身を本来の姿である精霊体へと変化させたカー子は、そう言うと先程までいくつもの魔法陣を描いていた更地一帯に手を向けると、巨大な魔法陣を出現させた。


「この魔方陣の中に入ったら、中心に向かって具体的なイメージをしながら魔法を唱えて下さい。魔法の種類は何度もお見せしている《深炎の御柱フレイムピラー》でお願いします」


 カー子が指定してきたのは俺がこの異世界に来てから最も多く見てきた魔法――

 俺は目を瞑りイメージを固めると、魔法陣の中へと足を踏み入れてジャイアントオークを焼き払い、ワイバーンを貫いたその魔法の名を叫んだ。


「《深淵の御柱》フレイムピラー


 そして――


 見上げてみれば、眼の前には天高く渦を巻いて、雄弁に燃え盛る炎の柱が出現していた。

 

 途端、体中からガクリと力が抜ける。


 それは決して身体を支える筋力ちからという意味の力だけではない。

 きっとカー子が言っていたのはの事なのだろう。これまでの特訓では感じる事すら出来なかったが確実に体中から抜け落ちて眼前の魔法陣へと飲み込まれていくのを確かに感じたのだ。


 


 身体中が重くダルい……刻一刻と体内から失われていくナニカ――おそらくこれが魔力なのだろう。まるでそれを絞り尽くした様な感覚に襲われた俺は、脱力したままその場に膝を付き、そしてそのまま前のめりに倒れていく。


(あっ、これ駄目な奴だ……)


 そう思いながら倒れ込む視界の片隅で、光を纏った大精霊、カーバンクルことカー子が何かを呟いている。


「まさか適正の無い火属性魔法でこれ程の規模の魔法を発現させるとは……たいしたものですね。しかし先刻説明した通り、魔法を習得、そして行使する為には、才能の差こそあれど知識と努力が不可欠です。それを疎かにして裏技だのショートカットだの言うのであれば、最早この様な手段しか残っていません」


 そして俺はこの時になって初めて気が付いたのだ。

 ニコニコと貼り付けたような笑みを浮かべながら話をしているカー子のこめかみに浮き上がった立派な青筋に……


 そう、今正にこの瞬間、俺は朦朧とする意識の中、地面にゆっくりと倒れ込みながら説教を受けていたのである。


「先程の魔法陣は上に乗った人間の血液を強制的に魔力へと変換させて、設定した魔法として放出させて対象の魔力を削ぐ術式――」


 つまり俺は《深炎の御柱フレイムピラー》を使えたのではなく、使わされたという事か。


(それってこの魔法の正体は……)


「そう、つまりこの魔方陣はトラップ魔法だった。という訳ですね。安心して下さい、命の危険はありません。ただちょっと、ほんの少しだけ強めに、意識を刈り取るくらい魔法陣の設定を弄っただけです」


 カー子台詞からは所々に怒りと悪意の感情が感じ取れる。

 やられた……そして完全に地面へと倒れた俺は、設定された量の魔力を使い切ったのか、その勢いが徐々に衰えて小さくなっていく火柱を見上げながら、ゆっくりと眼の前が暗くなっていくのを感じていた。


 そして最早どこから聞こえてきたのかも分からない「今の『ナニカ』が抜き取られていく感覚を忘れないようにして、次は真面目に地道に特訓を頑張る事ですね」という言葉を最後に、俺の意識はそこでプツリと途切れるのだった。

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