タカシとカーちゃんの異世界就活
三上仁詩季
社会の底編
プロローグ 彼の追想
「――いい? 高志。男の子は女の子を守ってあげなくちゃいけないのよ? 女の子を泣かせる男は最低なんだから。カーチャンとの約束――」
これは一体いつの記憶だろうか――幼い頃、遥か昔の遠い記憶――
迫り来る異形達を前にして、死を覚悟した俺が思い出したのは、女手一つで俺の事を育ててくれたカーチャンとの懐かしい約束の記憶だった。
せめて、彼女だけでも逃さなくては――幼き日の母との約束を心の支えに、震える身体に鞭を打ち立ち上がると、俺は彼女の前へと立ち塞がりこう言った。
「ここは、俺に任せて先に行け!」
しかし、彼女は逃げ出さなかった。
逃げられなかったのでは無い、逃げなかったのだ。
今もこうして、俺の正面で膝をついている。
その意図も、行われている行為すら、俺には理解する事も出来ないまま――
俺達は異形の集団に取り囲まれてしまっていた。
絶望――、今この状況を表現するのにこれ以上うってつけの言葉は存在しないだろう。
そして目にする――
俺の正面、つまりは彼女の後ろに居た一体の影が、雄叫びを上げながら手にした武器を振り被った姿を――
(もう駄目だ――! ごめん――カーチャン――!)
数瞬後には振り下ろされるであろう、残酷な死の鉄槌を予測して身体を強張らせる。
そして、先行く不幸を母に詫び目を瞑ると、目蓋の裏には懐かしい景色の数々が浮かび上がってきた。
走馬灯という奴だろうか、俺は次々と浮かび上がってくる母との遠い記憶を、まるで夢でも見ているかのように、眺めながら後悔していた。
どうしてこんな事になってしまったのだろうと――
あの時、こうしていれば良かったのでは無いのかと――
募る後悔をあざ笑うかのように走馬灯の景色は流れていく。
そして夢の終わりを告げるように、どこからか俺の名前を呼ぶ声が聞こえてくるのだった――
「……カシ――」
「タカシ――」
「タカシ――――」
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