すぅぅぅぱぁぁぁ、アダマンタイト!
深山鬱金
プロローグ
納屋のそばで黒猫のチョコがまどろんでいると、
「すぅぅぅぅぱぁぁぁぁ!!」
と叫びながら、エマがほうきを手にチョコの方へ突進してきた。飼い主の一撃をひらりとかわすと、近くで水遊びをしていたメアリーの後頭部にほうきの先がスパンッと当たった。
「本当、メアリーはのろまね」
幼気なメアリーはうつぶせで転んだままである。
白猫のモモは、毎日のようにそれを楽しげに眺めていた。
「エマはいるかい?」
声につられてエマが振り返ると、ビュート男爵の屋敷で馬の世話をしているマイケルが生け垣の向こうからひょいと顔を出していた。
「あっ、マイケル!どうしたの?」
先週、7歳になったばかりのエマが元気よく出迎えた。
隣には警護兵のホレーショの姿もある。胸騒ぎがしたエマは話を聞こうとテケテケと歩いていった。チョコがしっぽを揺らしながら、その後をついていく。城の噂では斥候がエマの家の近くに潜んでいるそうだ。
その刹那、ビュート男爵の屋敷の方角から大きな爆発音がその場の全員の耳を貫いた。
チョコが一目散に屋敷へ駆けると、屋根の上でビュート男爵の飼い猫とぶつかった。名前はバニラ。チョコが慌てて男爵の安否を尋ねる。遅れてエマたちもやってきた。
どうやら、男爵は間一髪で爆発を免れたらしい。胸をなでおろしたのも束の間、そろって家へ戻ると、今度はメアリーの姿が消えていた。
そう、爆発は”囮”だったのだ。
ホレーショによると、現在、王室は継承問題で大きく揺れている。それは、スケリッグ王が高齢で国の軍事や政治を行うことができなくなったからだ。
側近のホロウィッツ卿は、その王様の実の娘であるメアリーを跡継ぎにし、裏でメアリーをコントロールしようと企んでいるらしい。
公式ではスケリッグ王には子供がいないことになっている。理由は、即位する前に懇意にしていたメイドとの間に生まれたのがメアリーだからだ。
こうした裏の事情を知ったバニラが手立てを講じた。人間から見ても、猫とは思えないほど頼もしい。
「チョコ、メアリーの匂いは追えるか?」
「もちろんニャ!」
チョコが右の前足を挙げる。
バニラがロイヤル感のあるステッキでトンッと地面を軽く叩くと、”ユニコーン”を魔法で召喚させた。チョコはユニコーンに乗れないので、仕方なくモモが背負っていく……
「チョコ、ちょっと重いよ」
「重ーくーなーい!!」
冗談はさておき、前方に斥候らしき馬車が見えてきた。
ひとまず追跡する。
やがて、後方から勢いよくマイケルの馬車も追ってきた。前にはホレーショ、後ろの幌からはエマが身を乗り出して、ひのきの棒を手にしている。
「すぅぅぅぅぱぁぁぁぁ!!」
エマがひのきの棒を大上段に構えた。
「ドゴーン!!」
振りかざすと同時に斥候の馬車は中空を舞った。どうやら、バニラの魔法らしい。自分の力と勘違いしたエマはひのきの棒を二度見した。
ホレーショが腰のダガーを抜いて、横転した馬車に近づくと一人の斥候がメアリーを抱えて出てきた。
ホレーショが近づくのを見ると、傷を負った斥候が頭上にメアリーをかかげた。すると、電のごとき速さで飛来したドラゴンがメアリーの小さな体を大きな二本の足でつかみ、一瞬で飛び去った。
阿吽の呼吸である。
後には地を這うような烈風が吹きすさんだ。メアリーをさらった漆黒のドラゴンの影は、すでに手の平よりも小さくなっている。
ドラゴンの威圧と華麗なコンビネーションに、さすがのホレーショも追跡をあきらめた。
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