SNSダイエット進行中につき

ちびまるフォイ

このあとげっそり痩せた。

「ねぇ」


「ねぇってば!」


「……あ、なに?」


「もうさっきからケータイばっかり見てさ。

 私の話聞いてなかったでしょ」


「だって、フォロワーさんのタイムライン追うのに忙しくって」


「いつもSNSやってえるよね。ちょっと控えたら?」


「SNSを控えるくらいなら、私死んでもいい」


と、友人と話したその日。

画面に夢中で迫ってくる車に気付かないままはね飛ばされ、

体は体操選手のように4回転半とひねりを加えての地面に着地。


そのときの私の第一声が、


「スマホ!! スマホ壊れてない!?」


血だらけになった自分を差し置いて、

スマホを必死に探していた姿を見た子供は一生のトラウマになったそうな。


病院で診察を終えると医者はあきれ顔だった。


「あなたね、ちょっとSNS止めなさいよ」


「先生までそんなこと言うんですか。

 今の言葉、ツイートしますよ。いいんですか。

 この病院なんてすぐに特定されて、先生の立場だって危うくなりますよ」


「いつの間にスマホ持ってきてたんですか……」


スマホを注意する医者の目の前でスマホをいじるその度胸。

このふてぶてしさばかりは病院でもさじをメジャーリーガー級の速度で投げる。


「今回のケガの発端はあなたの歩きスマホなんですよ」


「歩きスマホって、スマホが自分で歩いてるみたいで可愛いですよね」


「とにかく、この病院にいる限りあなたにはSNSダイエットをしてもらいます」


「え、SNS……ダイエット?」


「あなたの心も体もSNSに骨の髄まで癒着しています。

 これでは事故の病気が治っても、今度はスマホ持ちすぎ腱鞘炎で再入院です。

 とにかく、スマホは預かっておきますね」


「そんな!! 私には私のツイートを楽しみにしている

 何百人ものフォロワーがいるんですよ!?」


「ええい、やかましい!」


医者は強引にスマホを取り上げて部屋の隅に置いた。

ベッドから離せば多少は依存している生活からの脱却ができると思っていた。


しかし、そうそううまくいけば小説の形にはならない。


「なにやってるんですか!!」


見回りの看護師がやってくると布団の中でスマホを開いている患者を見つけた。


「いや、フォロワーの増減が気になって……」


「あなたはSNSダイエット中でしょう!?

 こんな夜中に冷蔵庫からスマホを取り出してSNSやってたら、

 ダイエットの意味がないじゃないですか!」


「でも、無理なSNSダイエットは体に悪いですよぉ!」


「あんた、ただSNSやりたいだけだろ!!」


看護師はこの状況を逐一、医者に報告したので医者は頭をかかえた。


「そうですか、どうしてもSNSをやめられないんですね……」


「先生にも"いいね"送っとくから許してください」


「許すか。SNSリバウンドを避けるためにやってなかったですが、

 あなたにはショック療法が必要なのかもしれません」


「えっ」


患者が通されたのは真っ白い部屋と、パソコンが1台置かれていた。

パソコンの画面には大好きなSNSが表示されている。


「この部屋で過ごしてください。あなたがSNSダイエットに成功したら

 この部屋の鍵をあけてあなたは解放されます」


「この部屋、なにかの心理実験ですか?」

「あなたがSNSダイエットするための部屋です」


医者がいなくなると、待ってましたとばかりにパソコンに飛びついた。

ありとあらゆるSNSにアクセスして、情報を得ようとしたそのとき。


「あばばばばばばば!!」


強烈な電流が流れて吹っ飛んだ。

パソコンから離れてもなお、体に帯電されるほど。


「いまのは……いったい……?」


強烈な電流はSNSに接続したとたんに流されていた。

ショック療法とは、まさか物理的なものだとは思わなかった。


 ・

 ・

 ・


「……大丈夫ですか?」


医者がダイエット部屋を開けると憔悴しきっていた患者が転がっていた。

何度もSNSにアクセスし、そのたびに電流流されたのか

髪の毛はまっ黄色に逆立っている。


「SNSは克服できましたか?」

「ええ、もう……」


試しに医者はSNSのトップページを見せた。

患者はあっという間に部屋の隅まで逃げてぶるぶると震えた。


「ひいいい! 怖い! SNS怖い!!」


「お疲れさまでした。SNSダイエット成功ですよ」


「どれくらい過ぎたんですか」

「1年です。本当にお疲れさまでした」


「これで解放されるんですね……よかった……」


もう前までの3秒あればスマホを取り出すような患者ではなくなった。

げっそりとやつれてはいたが、スマホに振り回される人間ではなかった。


「先生、どうもありがとうございました。では失礼します」



腫れて現実社会に復帰すると、お金をおろすため近くの銀行に向かった。


『認証します。SNSアカウントを入力してください』


コンビニに向かうと自動扉が話しかける。


『いらっしゃいませ。防犯用にSNS認証を行います

 SNSにログインしてください。』


家に帰ろうと、電車に向かうがホームで阻まれた。


『SNSにログインしていないと利用できません。

 あなたの情報を認証する為SNSにアクセスしてください』


すでに世界はSNSに浸食されつくしていた。

何処へ行ってもSNSアカウントが必須になってしまう。


「だれか! 誰か助けてください!」


近くの人に助けを求めると親切な人が助けに来てくれた。



「大丈夫ですか? 何か困っていることがあったら、

 "お困りチャンネル"っていうSNSに聞くといいですよ」

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